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不思議の国のアリス  作者: 大橋むつお
19/28

19『アリスの落語観賞 胸ラブラブ』

作中に出てくる『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』は数少ない出版にまでこぎつけた本ですが、あまり売れませんでしたので、PRを兼ねております。AMAZONでは、まだ売っております。

不思議の国のアリス・19

『アリスの落語観賞 胸ラブラブ』   



 その夜、学校のロッカー整理で得たお宝はバックパックのまま置いておき、本を読んだ。


 志忠屋で借りてきた『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』である。

 難しい漢字は読めないので、千代子のオバアチャンに頼んだが、ものの十分で眠ってしまいアウト。

 困っていると、千代子が助けてくれた。

「ウチ、テレビ見てるよって、分からんとこあったら聞いて」

 そう言って千代子は、テレビの歌謡番組に集中した。アリスは器用な子で、人が話していようと、テレビが点いていようが、読書に集中できる。ただ一度アリスの集中を破ったのは、来日して間もなく頃の地震だけであった。それと可能性としては、ロシアに落ちたような隕石がきたらだめだろうなあと思った。


 序章と第一章では、何度も千代子に聞かなければ分からなかったが、二章以降は、覚えた字が多く、わりにスラスラ読めた。

 アリスは、主人公のまどかに共感した。

 コンクールの本選直前、作品が上演できなくなる。主役を務める先輩が倒れたのだ。



「選択肢一、残念だけど今年は棄権する」

 そりゃそうでしょうね。みんなうつむいた……そして、先生の次の言葉に驚いた。

「選択肢二、誰かが潤香の代役をやる」

 みんなは息を呑んだ……わたし(まどか)はカッと体が熱くなった。

「ハハ、無理よね。ごめん、変なこと言っちゃって。ヤマちゃん、地区代表の福井先生に棄権するって、言っといて。トラックは定刻に来るから、段取り通り。戻れたら戻ってくるけど、柚木先生、あとをお願いします」

「はい、分かりました」

 副顧問の柚木先生の言葉でスイッチが入ったように、山埼先輩とマリ先生が動き出し、ほかのみんなは肩を落とした……で。


「わたし、やります!」クチバシッテしまった……。

 

 アリスも息を呑んだ。こういう軽はずみな「ヤリマス精神」はアリスの中にもある。日本への交換留学生もそうだ。たいてい一カ月程度の短期留学で、実質観光にくるような者がほとんどだけど、アリスは本腰を入れて、半年の本格的な留学にきている。大阪の知識は大阪弁といっしょに、お隣のTANAKAさんのオバアチャンに習ってきたが、聞くと見るとでは大違い。なんせ、アリスがTANAKAさんのオバアチャンから教えられた大阪は半世紀以上昔のそれであった。


「その後ね、コンクールで惜しくも二等賞、ほんで、クラブの倉庫が焼けたり、潤香先輩が倒れた責任とって貴崎先生が……」

「なんで、千代子が知ってんのんよ!?」

「あ……ゆうべ、こそっと読んでしもた」

「もう、あとストーリーは言うたらあかんよってにな!」

 ハラハラドキドキの二時間半で読み切った。ラストは、アメリカ人でも大納得のミッションコンプリート。でも、主人公まどかと、BFの忠友クンのラブロマンスは、千代子と東クンのそれのようにまどろっこしかった。しかし、この本に触発されたら、千代子のそれもハッピーエンドになるに違いない。

 文節が短く、文章のテンポもいいので、楽しく読むことができた。


 で、いよいよ明くる日の天満天神繁盛亭の落語観賞の日がやってきた。


 ちょっと残念だったのは、パンフを読み違えていたこと。

 演目の『七度狐』と『地獄八景亡者戯』は日替わりで、その日は『七度狐』であった。前座に桂小文演ずる短編の『世帯念佛』が入る。

『世帯念佛』は長屋のオッサンが、習慣化したお念仏を唱えながら、カミサンなどにグチを言ったり叱ったり。アメリカでも居るよな、こんなオッチャンと思った。

 二つ目の桂米国にはびっくりした。名前の通りのアメリカ人であった。枕の話で自己紹介していたが、カンザス出身のニイチャンだった。小津安二郎監督の映画が好きで、日本に居つき、どこをどう間違ったか落語家になってしまった。

「カンザスからオズの魔法使いを追いかけてきたら、こないなってしまいました」

 アリスには分かり易い大阪弁で語ってくれた。『七度狐』はTANAKAさんのオバアチャンの家でCDで聞かせてもらっていたので、内容は知っていたが、喜六と清八が七度も狐に騙されるところは、やっぱライブで聞かなければ面白さは分からない。

「ベチョタレ雑炊サイコー!」だった。

 ダメモトで米国さんに会えないか受付で聞いてみたら、こころよく楽屋に通された。


「あんた、ほんまにケッタイなアメリカ人やなあ!」

 と、もっとケッタイなアメリカ人である米国さんに言われた。

「ウチ、やっと自分と同じ大阪弁喋る人に会えました」

「それがアメリカ人同士いうのもおもしろいなあ」

 千代子がおもしろがった。

「大阪弁は、大事にせんと、無くなりまっせ」

 米国さんが、真顔で言った。

「大阪弁は、今や全国区とちがいますのん?」

「あんなテレビで流れてるような大阪弁は、大阪弁のほん一部」

「ほん……?」

「ほんまと、ほんのの両方の意味」

 アリスには理解できたが、千代子は今イチな顔をしていた。


 それから、米国さんは、大阪弁と落語について熱く面白く語ってくれた。

「ほん、ちょっと昔、河内のオッチャンらは、淀川の水飲んで腹だぶだぶは、よろがわのみる飲んで腹らぶらぶ。て言うてましてんでえ」

 この話に、アリスはビビっときた。


――胸ラブラブ……ええ表現やなあ――



桂米国、書く前に実在しているとまずいので調べました。ありそうだと思ったのですが、実在の落語家さんはおられませんでした。彼が落語家になるまでで一本書けそうです。

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