18『世界の中心で I を叫ぶ!』
人づきあいが苦手なので、アリスの行動力は、ぼくの願望なのかもしれません。
不思議の国のアリス・18
『世界の中心で I を叫ぶ!』
☆日本で奇妙なこと
世界地図で、日本が中心になっていること。でも、日本人は、それだけ。
☆アメリカで奇妙なこと
世界地図で、アメリカが中心になっていること。現実的にも、アメリカ人は、そう思っている。
千代子の家に帰ると、ちょうど隣りのオバチャンが回覧板を持ってくるところだった。
――24日、不発弾処理のため、緊急避難予告――
びっくりするような文字が飛び込んできた……。
アリスは、一瞬心臓が潰れそうになった。爆弾の写真が載っており、千代子に説明されるまでもなく、それがアメリカの1トン爆弾であることが分かった。伯父さんのカーネル・サンダースが軍人なので、アリスは、並のアメリカの高校生よりは、こういうことに詳しかった。
二百メートルほど離れた工事現場で発見され、24日、自衛隊が来て処理をするため、近くの小学校に避難しなければならないようだ。近くの幹線道路も封鎖され、半径三百メートルの地域が避難地区に指定されている。
「いやあ、ウチも避難せなあかんねんやろか……?」
「ええやんか、ほんの三時間ほど小学校で遊んでたらええねん……なんか気になる、アリス?」
「せやかて、これアメリカの1トン爆弾やで……」
「それが、どないかした?」
「ウチ、アメリカ人やで……」
「ハハハ、そんなこと気にしてたん。だーれもそんなこと思てへんわ」
「そやけど、アメリカのオッチャンらは、いまだにリメンバーパールハーバーやで」
「日本人は、戦争は嫌いやけど、どこそこの国が嫌いとは言えへんで」
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う……」
千代子のオバアチャンが割り込んできて、呟いた。
「オバアチャン、なに、それ?」
難しい標準語は、アリスには分からない。
「憲法の前文やなあ」
千代子にも、その程度には分かる。
「せやから、アリスも安心して避難したらええねん」
アリスは、あとで、英訳の日本国憲法をかいつまんで検索した。そして、こう思った。
――憲法で戦争が回避できるんやったら、台風も地震も放棄でけたらええのに……。
明くる日は、登校日だった。26日の卒業式を前にしての最後の登校日。
――この制服着るのんも、あと二日やねんなあ……。
その思いのせいか、学校に行くと、やたらと友だちからシャメを撮ってくれとせがまれ、アリスは機嫌よくそれに応えた。合計で40回も撮ったころ、AETのジミーが、やってきた。
「やあ、アリス。もうお別れだね」
「そうね、先生」
「先生なんてよしてくれよ。君とは五つしか違わないんだぜ。ジミー、アリスでいこうぜ」
アリスは、ジミーが三つは歳をごまかしていると思っている。で、名前のように地味ーではないのもよく分かっている。
「そうね、ジミーって素敵な名前だわ。名前に恥じない地味ー……であることを願ってる」
どうも、この洒落のめした警告は通じなかったようである。シャメをとるとき、ジミーはアリスの腰に手を回し派手に体をすり寄せてきた。アリスはシャッターを切るとき、思い切り叫んでやった。
「コノ、ド、スケベー!!」
「今の、なんて日本語?」
「ノンノン、フランス語で、素敵な紳士って意味」
「オー、レッツゴー、ワンスモア!」
今度はジミーも声を揃えてシャメった。
「コノ、ド、スケベー!!」
校庭中に響き渡る声だったので、あちこちで笑い声が起こった。
ジミーは、何を勘違いしたのか、それにガッツポーズで応えていた。シカゴのアドレスを、しつこく知りたがったので、虫除けのアドレスを教えておいた。カーネル・サンダースの伯父さんのアドレスを……。
卒業式のリハのあと、ロッカールームの整理にかかった。
アリスは驚いた。先生達が、大きな段ボール箱をいくつも用意してくれていて、いらないものはその中に入れるように声をからしていた。みんな、ジャージや教科書などを惜しげもなく捨てていく。
アリスは、みんな持って帰るつもりで、大きなバックパックを持ってきていた。
「やあ、先生。これ、ウチがもろてもよろしい?」
「ああ、どうせゴミや。好きなん持っていき」
アリスの地図帳や、国語便覧は書き込みでいっぱい。地図帳はちょっとしたアトラスで、市販の同様なものは十倍近い値段がする。国語便覧は、日本文学や風俗がよく分かり貴重な日本の資料である。驚いたことに、半分以上が新品同然だった。名前が書かれていないものを五冊ずつ選び、自分の教科書などといっしょにバックパックに詰めた。モノを大事にしない日本人……TANAKAさんのオバアチャンが知ったら嘆くだろうなあ……と、思った。
最後にアリスは思いついた。棒きれを持ってきて、グラウンドになにやら描き始めた。
「なに描いてんのん?」
千代子が不思議そうに聞く。
「へへ、ちょっとしたナスカの地上絵や」
そのうち、四階の社会科準備室の窓が開き、先生たちが顔を出した。
「アリス、えらいうまいこと世界地図描くやんけ!」
「そうやろ!」
アリスはとびきりの笑顔でピースサインをした。
「千代子、世界の真ん中で叫ぼ!」
「何を!?」
「I will be なんとかで、ええねん。または I whish i were なんとか!」
「なんで英語?」
「日本語やと照れくさいやろ」
「そやなあ……」
千代子が悩んでいるうちに、ギャラリーが賑やかになってきた。
発作的にアリスは世界地図の真ん中に立った。
「この洒落、分かる人おったら偉い!」
アリスは、大きく息を吸い込むと、思い切り叫んだ。
「I will be the I……!!」
一瞬、ギャラリーがシ-ンとした。
「I mean japanese 愛や!」
なんと三階の窓から、東クンが叫んだ。
「Oh yes, its mean LOVE!!」
アリスが応えると、気を利かした放送部が『L-O-V-E』をかけ始めた。
「L is for the way you look at me……♪」
さらに練習中の軽音楽部が、ピロティーから出てきて、即興で『L-O-V-E』を演奏し合唱になってきた。
そして、次々に生徒が集まり、いろんな歌を唄い、期せずしてアリス待望のプロムになった!
※プロム――アメリカの高校などの卒業式のあとに行われるパーティー。ここで正式なカップルができることも多い。
プロムは『プリンセスダイアリー』を読んで知りました。最初はきちんとしたプロムを開かせようと思いましたが、ちょっと飛躍に感じて、こんな風にしてみました。『セカチュウ』のころに書いた本なので、この設定は古いのですが、やめると根本から書き直しになるのでママとしました。




