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不思議の国のアリス  作者: 大橋むつお
13/28

13『アリスのミッション・ゲリラ編』

千代子は開いた口がふさがらなかった……

不思議の国のアリス・13

『アリスのミッション・ゲリラ編』    



「え…………」

 

 千代子は開いた口がふさがらなかった……で、ポッと頬が赤くなっていくのが恥ずかしかった。

 

 今日は、アリスの伯父さんのカーネル・サンダースの口利きで、大阪にある陸上自衛隊S駐屯地に来ている。ここの司令はカーネル・小林で、アリスとは『二人のカーネル』以来の付き合いでもある。

 S駐屯地には「さざれ石」がある。そう、日本の国歌にも出てくる、あの「さざれ石」である。

 その見学に、千代子と東クンを別々に呼んだのである。衛門の前でばったり出会った二人は、二人のところだけ夏の日差しが当たったように熱くなっていた。もっとも間にアリスを挟んでいるが、挟まれたアリスはモドカシイばかりで、寒かった。

「アリス……」

 千代子が、怖い顔をしてアリスを見た。

「なんか文句ある?」

「東クン来るんやったら言うてえよ!」

「あ……ボクも渡辺さんが来るとは思えへんかった」

「いややったら、ここから帰るか?」

「「いや、それは……」」

 二人が同じ表情をして、同じ言葉を言ったのがおかしかった。

「もう、あんたら、アメリカの元国務長官の前で公認のカップルになったんやさかい、もっとイチャイチャしいな!」

「こういうものは、押しつけるもんじゃないよ」

 門衛室から、いきなりいかついオッサンが……よく見るとカーネル・サンダースの伯父さんが現れた。

「おっちゃん!?」

 いきなり言語感覚が切り替えられないアリスは大阪弁で呼んでしまった。


「やあ、よくいらっしゃいました」


 司令室に案内されると、小林一佐が立ち上がった。案内してくれた隊員がキビキビと礼をして、四人のために椅子を引いてくれたり、お茶を入れてくれたり。やっぱり収まるところに収まっているとカーネル(一佐)の自然な貫禄がうかがえた。

「ヒラリ元国務長官からの感謝状を預かってきました」

「おお、わたしがゴラン高原に行っていたのをご存じだったんですな。光栄です」

「これがあるので、公用でこられたんですよ」

「いやあ、お国も粋なことをされる。君、広報の大空一曹を呼んでくれたまえ」


「大空一曹入ります」

「入れ」


 意外だった、一曹と言えば米式では一等軍曹のことで、たいがいマッチョなニイチャンが多いが。大空一曹はAKBにいてもおかしくないような、かわいい女の子であった。

「わたしは、ヒラリさんに返礼の手紙を書きますので、その間、大空一曹に案内させます。大空一曹よろしく」

「ハ、大空一曹、サンダース大佐御一行のご案内をうけたまわります!」

 見てくれとは大違いな軍人らしい返答にカーネル・サンダースは自然に軽い敬礼を、三人はギャップにオタオタしながらも、背筋を伸ばした。


「これが、岐阜県より寄贈いただきましたさざれ石です。長い年月をかけて小石の欠片の隙間を炭酸カルシウムや水酸化鉄が埋めることによって、1つの大きな岩の塊に変化したもので、学術的には「石灰質角礫岩」と申しますが、私たちの家庭も地域も国家もみんなが心を合わせて進めば千代に八千代に栄えてゆくことを象徴するものにほかないとお祀りいたしております」

 大空一曹が、キビキビした説明をしてくれた。

「「amazing!(アメージング=驚くほど素敵)」」

 伯父と姪が母国語でため息をついた。

「「………はい」」

 日本人のカップルは、社会見学のように、お行儀はいいが、気のない返事。


「あれは軽装甲機動車、ライトアーマーです」

 千代子と東クンが目を停めたので、大空一曹が説明をした。

「かっこええなあ……」

「うん!」

 日本人カップルの反応。

「「ああ」」

 と、アメリカの伯父と姪の気のない反応。伯父も姪もM-1など、いかつい戦車を見慣れている。軽装甲機動車など、機関銃をつけたオフロード車ぐらいにしか見えない。伯父が姪に耳打ちした……で。

「あの前で、写真撮ったらあきませんか?」

「いいですよ、どうぞ」

「千代子と東クン、そのライトアーマーの前に立ちい」

「う、うん」

 少しはにかんではいたが、小学生のように喜んでライトアーマーの前に立った。

「そのライトアーマーの通称はな、ラブ(LAV)て言うねんで、ラブ!」

「え!?」

 瞬間的に赤くなった二人を、アリスはシャメった。


「あの、大空さん。さっきのさざれ石、撮ってもよろしい?」

「ああ、いいですよ。じゃ、もう一度こちらへ」

 アリスもアメリカ人である。さざれ石には、神聖なものである注連縄しめなわがしてあり、気後れがしたのだ。ここは逆に伯父と姪がシャッチョコバって写真を撮った。次ぎに千代子と東クン。

 ここで、アリスは、あることを思いついた。

「ちょっと、あんたら、このマフラーの端っこ持ってみい」

「え、なんで……?」

「ええから、ええから」

 千代子と東クンは、アリスの勢いに押されて、言われるままにマフラーの端っこを握った。

「よ、お伊勢さんの夫婦岩!!」

 アリスは、そう叫んで連写した。これには、さすがの大空一曹も女の子らしく声を出して吹き出した。

「なにか楽しそうですな」

 小林一佐が現れて、その場は、いっそう楽しくなった。

「オッチャンと小林さん。並んでシャメらせてもらえませんか。動画にするさかい、官姓名を名乗ってくださいね」

 二人は、心得た顔で並んで叫んだ。

「カーネル・サンダース!」

「小林イッサ!」

 半径二十メートルにいる隊員の人たちが笑った。大空一曹は、こぼれる笑いを堪えて涙を流していた。


 すっかりリラックスした帰り道。

「やっぱり明日は二人で、お泊まりしたら」

「こらあ、アリス!」


 駐屯地の駐車場に千代子の声がこだまし、アリスのゲリラ戦は敗北した……。



駐屯地の駐車場に千代子の声がこだまし、アリスのゲリラ戦は敗北した……。


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