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不思議の国のアリス  作者: 大橋むつお
11/28

11『ミッション・恋の実弾編』

その中味は黒光りする50口径のピストルだった!



不思議の国のアリス・11

『ミッション・恋の実弾編』    



 目が覚めたら千代子のベッドは空だった。


――会場までの道が分からない子がいるので、お先に――


 そのときは、このメモの意味を深くは考えなかった。

 今日のヒラリ・クリキントンの講演には、急な誘いにもかかわらず、七人が参加の返事をよこしてくれた。

 日本の高校三年生は、この時期はヒマである。学年末テストが終わると、卒業式まで、二日ほど登校日があるだけだ。お手軽な大阪市内で、気のあったクラスメート同士、気楽に出会えて、民主党のヒラリにも会えて、ランチまで付いている。このへんの損得勘定はTANAKAさんのオバアチャンが言っていたとおりだった。

 高校生の行動範囲は狭い。大阪市内でも分からない者もいるだろう。アリスだってシカゴ市内のことを全部知っているわけではない。


 会場のPホ-ルに着くと、すでに五人が集まっていた。大杉がアリスをみつけるなりニタリと笑ったのには困ったが、まあ、ブラフの一人ではあるので、友好的に片手をあげてニッコリしておいた。

 千代子と東クンの距離が気になった。間に三人も人を置いて間を空けている。

――ああ、しんきくさーっ!――

 そう思ったが、これは互いに意識している証拠。まあ一歩前進と理解しておくことにした。


 事件は会場に入るセキュリティーチェックで起こった。


 金属探知器はもちろんのこと、持ち物は全てエックス線検査である。ペットボトルやマニキュアなどのリキッドも持ち込めない。最初の大学生二人が、ペットボトルでひっかかり、後続の学生たちは、飲みきったり、捨てたりしていた。そしていよいよアリスたちのグループに順番が回ってきた。

「これは!?」

「Shit!」

 日本語と英語が一度にして、あっと言う間に東クンが拘束されてしまった。会場入り口は騒然となり、床にねじ伏せられた東クンは苦しげにうめき、千代子は空気の足りない金魚のように口をパクパクさせ、すぐに涙を溢れさせた。

 東クンのバッグは、すぐに開けられ、ラッピングした箱が出され、中味が出された。


 その中味は黒光りする50口径のピストルだった!


「ちょっと待て……」

 拳銃を出しかけたSPたちを静止して、ボスらしきサングラスのダークスーツが、50口径のピストルを箱から取りだした。

「これは……チョコレートに黒いアルミホイルを貼り付けたものだな」

「しかし、良くできている」

「日本人は器用だなあ……」

 そんなことを、アメリカ人のSPたちがつぶやき、東クンを確保していた日本人警官の手も緩みだした。

 その時、箱についていた手紙を読んだベテラン警官の日本人が叫んだ。

「待て、それはプラスチック爆弾かもしれん!」

 再び、東クンはロビーの床にねじ伏せられた。

「グエ!!」

「なんて書いてあるんだ!?」

 東クンをねじ伏せたままアメリカ人のSPが、鋭く叫んだ。

「これで、目標のハートを仕留めて……だ」

「Shit!」

「shit-ass!」

 東クンは、手を後ろにねじあげられ、髪の毛を掴まれ連行されそうになった。


「待って、その手紙は、わたしが書いたんです。それはチョコレートで、わたしがあげたんです!!」


 千代子が叫ぶ、警官が千代子に詰め寄り、手を掛けようとした、その時……!

「マチナサイ!」

 伯父さんのカーネル・サンダースがやってきた。

「カーネル・サンダース」

「これは……ただのチョコレートですよ」

「しかし、チョコレート味のプラスチック爆弾かも?」

「彼女は、わたしのフレンド・チヨコ。神さまにかけて、テロなんかじゃないから!」

 アリスも真剣に伯父さんに訴えた。

「分かってるよアリス。ただ、SPの諸君に納得してもらうために、銃身を少しだけ削らせてもらうよ。科学検査してると、ヒラリの講演に間に合わないからね」


 ヒラリ・クリキントンの講演はおもしろかった。世界情勢から、先月来日していた旦那の話まで、ジョークを交えながら語ってくれた。

「では、質問のある人……」

 ヒラリはにこやかに聞いたが、誰も手を上げない。これ、日本人の不思議ってか、悪いところだとアリスは思った。充実した講演なら、それにふさわしい質問をするのが礼儀だ。気が付いたら手をあげていた。

「はい、そこの彼女……ひょっとしてアメリカ人かしら?」

「はい、アリス・バレンタインです。交換留学生で日本に。で、残念ながら共和党の支持者ですけど、かまいません?」

「もちろん、発言の条件は、ここのオーディエンスだということだけよ」

「あの、ヒラリさんが思われる高校生の……その、男女関係のあり方って、アドバイスしていただけたら。すいません。日本の友人にも分かってもらいたいんで、日本語で失礼しました」

 アリスは、大阪弁のあと、英語に訳してヒラリに伝えた。

「立派な同時通訳ね。そうね、心と体に正直であること。むろん、よく考えた上で。で、心というのは、けして欲望のことじゃないわよ。むかしダレかさんにも言ったけど」

「ありがとうございます」

「そうそう、今日ロビーで、ピストル型のバレンタインチョコで、一騒ぎあったとか。アメリカ式のセキュリティーは優秀だけど、ロマンチックやウィットが分からなくって。50口径が45口径になっちゃったそうで、ごめんなさい」

 千代子と東クンが赤くなった。

「お詫びに銃弾をあげましょう……」

 ヒラリは、ポケットから、二発の銃弾を取りだした。場内が一瞬ざわついた。

「これはね……」

 ヒラリは、薬莢を抜くと短冊にサラサラと書きだした。そう、銃弾型のボールペンである。

「さ、お二人さん。ここに来て」

 おずおずと二人が壇上に上がった。

「注意しとくわね。これ持って飛行機には乗らないこと。それから、銃弾としてはイミテーションだけど、これで書かれる言葉は実弾よ。たまには、デジタルなメールじゃなくて、アナログな実弾攻撃を」

 

 民主党も粋なことをやるもんだと、アリスは思った……。



民主党も粋なことをやるもんだと、アリスは思った……。


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