復讐者の誕生 人間サイド
ある晴れた日の午後。
授業中にも関わらず、学校の屋上に私は居た。
私はこの場所がとても好きだ
誰も来ないし静かだし、昼寝するには丁度いい場所だし―
何より、泣いてる姿を誰にも見られないから。
私の名前は姫路 絵里。高校二年生。
自分で言うのもアレかもしれないが、校内では― いや、この地域ではかなり名の知れた不良だ。
日々「強さ」を求める為に体を鍛え、不良と喧嘩を続けている。
”全ては、復讐の為に―”
今から5年前。
そう、あの日も今日と同じように雲一つない良い天気だった。
その日は学校が休みだったし、友達との約束事も無かったから目覚まし時計をセットせずずっと寝ているつもりだった。
でも、カーテンの隙間から入り込む太陽の強い光に照らされ目が覚めてしまった。
「せっかく心地よく寝ていたのに~・・・んもう、今何時だろ」
せっかくの睡眠計画を太陽に邪魔された事に腹を立てつつ、目覚まし時計を見ると時刻は丁度11時を過ぎた所だった。
(中途半端な時間だなぁ。ご飯はまだないし、面白いテレビもやってないし・・・はぁ)
とりあえずトイレに行こうと部屋を出た私だったが―
(・・・ん?)
居間の方から違和感を感じた。
そして、その違和感の正体にすぐに気付く。
(何も、音が、しない・・・?)
休日でも健康志向な父と母は朝7時には必ず起き、昼まではラジオを流している。
しかし今日はラジオはまだしも生活音すら聞こえてこない。
それに、何か生臭いような―
私がその「生臭さ」の正体に気付いていたら不用意に居間のドアを開けるような事はしなかっただろう。
しかし、その時の私にそのような知識は無く、ドアを開けてしまった。
そこはまさに地獄と呼ぶに相応しい光景が広がっていた。
父と母、そして妹である桜―
胸を綺麗に裂かれて、これでもかというくらいの大量の血を流した3人の死体があったのだから。
「ひっ・・・!」
その光景を見た私は恐怖のあまりに、その場でオシッコを漏らしてしまった。
(え?いや、これ、どういうこと?質の悪いドッキリなんだよね?それとも夢?)
そして同時に始まる現実逃避。こんな状況ですぐに救急車を呼ぶことができる精神力を持っている人間なんて、まあそんなにいないだろう。
しかしそんな現実逃避すら許されない状況がやってくる。
「なんだ、まだ人がいたのか」
いきなり聞こえた声の方を恐る恐る振り返ると・・・
そこには、心臓を3つ袋に詰めて持っている人物がいた。
そいつは、ヘルメットを被っていて顔は全く見えないが声の質と体型からして男であることは間違いないだろう。
そのヘルメット男はどこからかナイフを取り出すと、
「まあ、人がいたら殺すだけだけど」
私に向けて殺人宣告をしてきた。
私が逃げ出そうとするのと、ヘルメット男がナイフを投げてきたのはほぼ同時だった。
彼が投げたナイフは、そのまま私の左目に命中した。
「きゃああああああああああああああああああああああ!」
痛い。熱い。そしてなにより死への恐怖がすさまじいスピードで私の脳を支配した。
(私、ここで殺されちゃうの・・・?いやだ・・・死にたくないよ・・・!)
せめて夢であってほしい。目が覚めたら、いつもの日常がそこにあってほしい。
薄れゆく意識の中で、それだけを願っていた。
目が覚めると、そこは病院だった。
どうやら父が殺される直前に短縮ダイヤルで通報していたようで、私が意識を失う直前に警察がやってきたらしい。
犯人はというと、警察に包囲されているにも関わらず何故か捕まることはなかったらしい。
抵抗があり取り逃がしたとか、そういう事ではないらしい。
警察の人が言うには
”包囲していて逃げ場はないはずなのに、まるでその場から瞬間移動したかのように消えたような感じだ”
と―。
それから私は親戚に引き取られた。
そこからしばらくは恐怖のあまり部屋の隅でガタガタ震えて動くことすら出来なかった。
食事もロクに取れず、8キロも痩せた。
マスコミもしばらく家の周りで張り込んでいて、私に取材するチャンスを待ち続けていた。
どうして私がこんな目に―
そしていつだったか、恐怖が突然怒りに変わった。
なんで私が怯えてなくちゃならないんだ。
なんで犯人は未だに捕まらないんだ。
なんでマスコミに付きまとわれなきゃいけないんだ。
そしてなにより、なんで家族を奪われなきゃならなかったんだ。
全てが爆発するような感じだった。
それからは犯人に復讐すべく、必要な事をやろうと努力を始めた。
復讐には賢さが求められると思い勉強を必死にやって偏差値は70相当になったし、
犯人を捕まえて半殺しにするために不良と喧嘩を続け腕っぷしも相当鍛えた。
しかしその甲斐無く
「今日も犯人に関する収穫無し、かあ・・・」
今でも思い出す、父と母と妹の顔。幸せだった日々。
思わず涙が込み上げてくる。
いけないいけない、泣くな、私・・・!
そうだ、こういう時は上を向いて歩こう!
そして、上を向いて歌うために口を開けた瞬間、
「う~え~をむ~いムゴォ?!」
何かが、口の中に入った。
突然の事過ぎて、吐き出そうとしたはずが何故か飲み込んでしまった。
それが私の人生を大きく変えるとは、その時はまだ考えもしなかった。