プロローグ&ー1ー
初めまして、こちらのサイトでは初投稿となる前後シェリンです。読みはまえうしろでも、ぜんごでもどちらでも構いません。
他サイトにて幾つか2次創作物を出させてもらい、今回初めてオリジナルに挑戦します。
更新速度はどん亀ですが、楽しんでいただければ幸いです。
よく夢に見るくせに、憶えていることはそう多くない。
バカみたいに夜道を歩いていた。
お腹が泣くほど痛くて、足が燃えるように悲鳴をあげていて、そのくせ、自分では止まれなっかったし、止めてくれる人もいなかった。
それでも唯一、文字通り息の根ごと止めてくれた彼女ーーその娘に、
生まれて初めて、『好き』だと言ったこと。
ー1ー
フライパンの上で見てくれだけはまともな湯気が上がっている。それを確認してから、蓋を開けた僕は開口一番に、
「うわ、台無し」
別に失敗したわけじゃない。ただ予想していた見た目と目の前のそれがあまりにもかけ離れていたから、若干引いただけ。
ガスコンロ上のフライパンの上で、じゅうぱちじゅうじゅうと小気味良い音を立てる油にのしかかる、端がカリッと焼けた白身。そしてその上に乗るーーーー形容しがたい色をした丸い何か。
何色だこれ。
「青色……いや、紫か?」
僕はただ、普通に目玉焼きを作ろうとしていただけなのに。
ちゃんと油を引いたし水も入れた、本人の要望通り、半熟になるように時間も調整した。……いや待て。
そこまで思考が巡ってきて、ふと天井の一部分を見る。そこのちょうど真上は寝室だ。
今時このあたりでも珍しいという木造一戸建ての天井がぎしぎしと音を立てて、部屋の主の様子を教えてくれる。この分だと家鳴りによる音の相乗を考えても、相当アクティブな夢をご覧になっているらしい。
「まあ、元気なのはいいことだけど」
そうぼそりと悪態をつきながら使った卵の入ったパックを確認する。曰く、
『鶏蛇鳥の卵 ✳︎毒抜き済み』。
ため息一つ。買い物の時にゲテモノほど云々とか言っていたのをほっとくんじゃなかった。無邪気な笑みに対する僕の照れを返せ。
ーーーーあ、まずい。
慌ててフライパンに視線を戻す。あちゃ、やってしまった。そこには黄身(?)どころか白身までも茶色く焦げた何かがあった。
とりあえずまあ少なくとも、どんなに得体の知れない物でも、焦げれば黒くなることは分かった。
「しょうがない。こんなの彼女に食べさせるわけにはいかないもんな」
そう一人呟いて、例の物体エックスを彼女のお気に入りの皿とは違うもう一方に移し、フライパンを水ですすぐ。このフライパンは焦げを落とすため、しばらく洗剤で漬け込むしかないので、シンクに起き、別のフライパンを棚から出す。
そしてパックからもう一つ卵を手に取り、一つ。
今度は上手く行きますように。
ああそれと、上で寝ているはずの彼女が美味しく、そして口の端にケチャップをつけたままにしないで食べてくれますように。
そんなことを思って、卵を今度は気持ち強めにコンロの角へと叩きつけた。