絶対にありえない未来
午前8時15分、彼は本日数回目の仕事を実行しはじめた目覚まし時計を蹴り飛ばし、ようやく布団から抜け出す事にした。
普段はこんなに遅く起きる訳ではないのだが、
前日に夜更かしをして核兵器開発のドキュメンタリーを見ていたのだ。
日曜日なのでぐっすり寝ている両親に分からないようにこっそり着替える。宿題をせずに外出したら大目玉だ。
彼は今日、昨日のドキュメンタリーでやっていた想定のように、空からミサイルが落ちて来た時の対策を考えるつもりだった。
慎重にドアを開け、後ろ手に閉める。
わざわざ音が出ないように玄関で靴を履いたていた時、後ろから大声が飛んできた。
「こら!今日は家で勉強する約束だったでしょ!」
ここで捕まれば元も子も無い。「帰って来て勉強するから!」そう叫んで走り出す。
ドキュメンタリーでは、もしかすれば半年後には戦争がはじまる可能性があるかもしれないと言っていたし、
彼は忘れっぽい性格である事を自覚していた
今やっておかないと忘れてしまうかも。そう呟いてどうするか考え始めた。
専門家達によると、ミサイルが発射されて16分後には爆発するそうだ。
ならば、逃げられる所は限られている。
彼は走るのが得意だったので、遠くまで逃げる事が出来た。だが、両親と妹を連れて逃げるのは難しい。
そんな事を考えながら、彼は近くの商店街まで来ていた。
「あら、久しぶりね。」八百屋のおばさんから声をかけられる。
もし避難するとしたら、八百屋のおばさんも来るかもしれない。
だったら仲良くしておいた方が良い。そんな子供らしくない事を考えながら、元気に言葉を返す
「こんにちは!八百屋のおばさん!」
「あらあら元気ね。でもこう言うときはお姉さんっていうのよ。」少し怒った振りをしながら、明るく笑う
「ほら、このリンゴ、1つ持って行って良いわよ。お母さんによろしくね。」さっさと去って行こうとする彼に、にこやかにリンゴを渡す。
「ありがとうおばさん、お母さんにはちゃんと言っておくよ。じゃあまたね。」
リンゴにそのままかぶりつきながら、次にどこに行こうか考える。
そうだ、地下鉄に行こう。豆腐とかノートだか言うミサイルだって、地下までは届かないはずだ。
そう心の中で呟いて、どんどん歩いて行く。途中で川にさしかかった時、この前見た写真を思い出す。
その写真では、体のほとんどが焼け焦げた人が火を消そうと川に飛び込んだ様子が写っていた。
顔をしかめて、自分だけはそうならないぞ、と決意を強くする。
そんな苦しそうな思いをするのだけは御免だった。
地下鉄の階段を下りながら、ミサイルが爆発して崩れないかなと不安になる。
まあきっと、と自分を奮い立たせる為に呟く。
潰れないはずさ。コンクリートは凄く硬いんだもん。
出るときは、ここが崩れていてもレールを通って、外につながる道をさがせば良い訳だ。
途中から、大声になっていたんだろう。
知り合いの駅員さんに声をかけられる。「おおい、レールに入っちゃいけないぞ。」
別にわざわざ電車が走っているレールに入る気は無かったし、
小馬鹿にされたような口調にムキになって、言い返す。
「別にわざわざ入らないよ。」
じゃあ、と質問をぶつけられた。「何でレールを通る話をしてたんだい?」
彼は事情を説明した。戦争が起きるかもしれない。
そうすれば地下が1番安全だろうと思った事。
「はっはっは、まさかそんな理由があったとはね。」笑われた事に少し怒って、語気を強める。
「でも、本当に戦争が起きたらどうするの?」「ははは」また笑われた。
「今まで戦争は起きる起きると言われ続けているけど、起きてないじゃないか。」
駅員は明るく話し続ける。「それに、いくらここに逃げていても、食べ物も水もほとんど無いし、空気もいつか無くなるよ?それに生き残っていても地上は死の世界だよ?」
少し悲しそうな顔になって言う。「そんな世界になったら死んだ方がましかもしれない。」
言いかせずに、黙ってしまう。確かにその通りだ。
放射能が薄まるには短くても2週間は必要だそうだし、
発電所が壊れれば電気が無くなって真っ暗になってしまう。
それでも言い返そうとした彼を、駅員は笑いながら静止した。
「まさかそんな事を考えているなんて考えもしなかったよ。それじゃあ、僕は仕事があるからまた来てね。」
こういわれると、引き下がるしか無い。
彼はまだ持っていたリンゴの芯をゴミ箱に突っ込むと言われたように足を家の方向に向けた。
階段を上がり、橋を通り、商店街に入って八百屋のおばさんに挨拶する。家に入る前、ふと空を見上げた
「もし戦争になったら、こんな風に空も見れなくなるのかな。」
そう呟くと、家の中に入る。誰も居ないようだった。
テーブルの上に行くと、書置きが残してあった。「勉強をしない子を除いて、買い物に行きます。昼は冷蔵庫の中の物を食べなさい。」
ちぇ、帰ったら勉強するって言ったじゃないか。そう呟くとソファーに座る。TVを付ける。
その瞬間、TVからサイレンが鳴り響いた。
何時だったか核戦争に怯えてた頃に書いた掌編
オチのような事が起きるんじゃないかと実は今でも怖がってたり
自分も少年と同じく知識は少ないので間違ってたら訂正します