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一文字タイトル・1,000文字小説シリーズ

作者: 日下部良介

 子供の頃の記憶である。家の前の空き地で雪だるまを作った。弟と二人でいくつも作った。何度も同じところを転がすとすぐに地面が顔を出して雪の玉が泥にまみれる。出来た雪だるまは泥にまみれてデコボコで見るからに不細工だった。そんな雪だるまを眺めながら兄弟二人で満足気に笑った。



 冬には雪が降る。それが当たり前だと思っていたのに最近はめったに雪が降らない。降っても積もることなど年に何回もない。温暖化の影響なのだろう。

「昔はもっと雪が降った気がするなぁ…」

「昔っていつよ?」

「僕が子供の頃…」

「田舎、どこだっけ?」

「九州」

「えっ?九州って雪降るの?」

 彼女は東京生まれの東京育ち。ずっと地元で暮らしている。九州は温かいというイメージがあるのは仕方がないにしても、彼女の言う九州とはきっと沖縄辺りのことをイメージしているのに違いない。そんな彼女とそろそろ結婚してもいいのかなと考えている。付き合い始めて2年になる。

「なあ、今度の連休に行ってみるか?九州」

「ホント?行きたい!」

 こうして僕は彼女を連れて久しぶりに帰郷することにした。


 東京を立つ前日。僕は彼女にプロポーズした。ここで断られたら帰郷もくそもない。けれど、彼女は快く受けてくれた。

「九州に連れて行ってくれるって言ったのはこれが目的だった?」

 新幹線の中で彼女がニヤッと笑った。見透かされている。

「本当はいつ言ってくれるのか、ずっと待ってたのよ」

 そう言って僕の肩に体を寄せて頭を僕の肩に預ける彼女。可愛い!


 僕の実家は博多駅の近くでもつ鍋の店を営んでいる。立地がいいこともあり、そこそこ繁盛している。僕は彼女を連れて店に入って行った

「いらっしゃいませ…。あ、ぼっちゃん」

 古くからウチで働いてもらっている昌子さんが目を丸くした。そりゃそうだ。ここに帰って来たのは3年ぶりだ。しかも、盆でも正月でもないのだから。店の奥からすぐにお袋が顔を出した。

「どげんしたと?急に」

「結婚するけん」

「なんちや?」

「結婚するったい。彼女連れて来たき」

 僕の後ろに居た彼女がぺこりと頭を下げる。

「あんたー!えらいこつばい!弘之が結婚するげな」

 それから店中が大騒ぎになった。親戚中が店に集められて大宴会が始まった。宴会がお開きになってから僕は彼女をこっそり外に連れだした。

「あっ…」

 彼女が立ち止まって空を見上げた。

「雪?本当に降るんだね…」

 不思議そうに空を見上げる彼女を僕はそっと抱きしめた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 今年は雪が多くて、通勤が大変でしたが(特に週末)こんなロマンチックな話を読むと、雪も悪くないかなと思えました。 それにしても・・・・・・。 九州って、雪が積もるんですね? 私もびっくりです。…
[一言] 素敵な思い出ですね! 幸せな気分になれました。 ごちそうさまでした!
[一言] 拝読しました。 私は博多弁も大分弁も熊本弁も長崎弁も宮崎弁も鹿児島弁も区別がつきませんが、いい響きですね。 あ、佐賀が抜けてた(^_^;)
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