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機巧仕掛けのエデン  作者: あららぎくだら
第一幕 エデン神盟騎士団の少年
10/21

9 不老不死の男

 

 腕が、ある。



「…あっ、えっ?」


 リッパの右肩からコートに包まれた腕がすらりと伸び、袖口からは白い手が顔を出している。もちろん、反対側の肩には左腕がちゃんとある。


「起きたんだね、よかった!もう大丈夫なのかい?」


 混乱して口もきけない樹をよそに、リッパはそれが当然だとでもいうように笑った。


「立てる?」


 目の前で、確かに、リッパの右腕が悪鬼に喰い千切られるのを見た。

 それなのに彼は、失くしたはずの右手で樹の手を取って立たせる。


 わけが、わからなかった。


「…っ、っ?」


 喉が絞まってうまく声が出ない。声が出たとしても、何と言っていいかわからなかっただろう。


 樹の脳裏にはまだ、流れ出た血の赤がちらついているというのに。


「っう、で…」


「腕?」


 辛うじて絞り出した声に、リッパが首をかしげた時だった。


「あなた、きちんと説明していないんでしょう」


 背後から聞こえた声に、え?とリッパが振り返る。


 入ってきたときには夢中で気が付かなかったが、執務室にはリッパのほかに2人の男が居た。微笑を浮かべてデスクに座っているのが支部長、その隣に立っている黒い長髪が確か副支部長だ。


「腕を喰われたのではなかったですか。それを見ていたなら、今のあなたを見て混乱するのは当然です」


 そう言って、支部長の唐草唐理は樹に笑いかけた。


 何を言っているのかわからない。

 何が起きているのかわからない。

 説明っていったいなんだ。

 なんでみんな平気な顔をしているんだ。何もわからない。

 でも、どうやらわかっていないのは樹だけみたいだ。


「あっ、そうか。言ってなかったっけ」


 そう言ってリッパは暢気に笑う。


 おかしい。こんなの絶対におかしい。なんで笑ってるんだ?


 だってあんたは、腕を片方失ったはずなのに。



「ボクね、不老不死なんだ」



 緑の目が、きらりと光った。


「どんな傷でもすぐに治る。だから、腕がなくなっても大丈夫なんだよ」


 そう言って、彼は右手をひらひらと振った。


 不老不死ってなんだ。治るってなんだ。

 不老って確か、年を取らないことだっけ。

 不死って確か、死なないことだっけ。


 冗談だろ、と思った反面、どこかで納得してしまっている自分に驚いた。


(だから、あんなに冷静だったのか)


 血だまりの中で笑っていたリッパを思い出す。失血して真っ白になった顔で、他人の傷の心配なんかして。


「ふろう、ふし」


「そうだよ、ボク、死なないの」


 リッパが、子供を諭すように優しい声音で言う。


 その言葉は、面白いくらいにすとん、と樹の心に落ち着いた。


「死な、ない…」


「うん、死なない」


 死なないならもしかして、中身はすごいおじいちゃんなのかも。そんなくだらない考えが頭をよぎった。

 瞬間、今までの自分の必死さが馬鹿らしくなってくる。


(そっか。大丈夫なのか)


 ほ、と安堵の息をつく。

 緊張が解けてアドレナリンが切れたのか、裸足で駆け回った足の裏がずきずきと痛みだした。頭にも鋭い痛みが走って、それと同時に世界がぐらりと傾く。


 そのまま、樹は気を失った。


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