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さいころーる!  作者: 明昌
第一章 プレイヤー
7/16

闖入者


 寝室の窓を開けて外気を送り込み、毛布と敷布をぱぱっと掛けていく。

 寝藁はどうする? 天気どうだっけ、と思いながら居間に向かうと、母と姉が出かけるところだった。


「藁どうしよう」

「んー、流石に一人じゃ大変だし、それは私が休みの時に一緒にしようよ」


 姉の提案に頷くと、じゃあとばかりに手桶を持ち、外に出ようとする。


「ちょ、ちょっとロール、何する気?」

「え、井戸に水汲みに」

「拭き掃除までするつもりなの!?」


 母は流石に駄目、と私の首根っこを捕まえた。


「あんた、水使って身体冷やしたらまた寝込むよ! いけません」

「えー」

「流石にそれはやりすぎだよロール……」


 姉も反対して、私から手桶を取り上げた。

 私のぴかぴか計画がぁぁぁ!


「やる気は判るけどダメだよロール。ね?」


 姉に正面から真顔で窘められると、テンションあげあげの私でも勝てない。


「………………うん」

「ほんとにダメだよ?」

「判ったってぇ……」


 念押しまでされては抵抗不可能。全面敗北である。

 よろしい、と私の頭を撫でる姉。

 母は嘆息しつつ、


「ほんとに姉っ子ねぇあんた。シルヴィ、お昼に一度見に戻ってちょうだい」

「うん」

「判ったって言ってるのに……」


 この信用の無さはなんなのか。


「じゃあ掃き掃除だけにするよ。扉開けといてね」

「はいはい、じゃあ行ってきます。ゆっくりね?」


 母と姉を送り出した。むむむ。



 唸っていても仕方がないので箒で寝室から掃き出していく。

 このちびっこい身体ではこんなことでもなかなかに骨だ。

 この様では床の水拭きは流石に無謀だったかもしれない、とちょっとがっかり。

 でもやるからにはキッチリしたいので、時間を掛けて掃いていく。


 何とか終わって、居間に進む。

 あんまり埃立てると、後で食卓拭かなきゃなぁ。

 うん、それくらいならいいだろう、と早くも言いつけを破る算段をする私。

 窓は……流石にばれるか?


 丁寧に掃きだし、掃き掃除は完了。と同時に五刻の鐘が聞こえた。

 たったの二部屋で2時間近くかかったのか、大丈夫か私?

 ちょっと一休みして水を飲む。

 屋内を見回し、でもなかなか綺麗になったじゃない? と思っていると、頭の中に急速にもやもやが沸いてきた。



 目を反らすのも限界に近かったっぽい。


 あー、どうしよう。


 ねえ、これって言うべきなの? 黙ってるべきなの?


 勿論記憶のことである。



 読んだ漫画では黙っていたけれど、悩んでたような描写は無かったと思う。

 その割に現代知識とかでいろいろやってたりやらかしてたりしてた。

 まあ、私は普通の女子高生だったので、そう言った物の心配はしないで良い訳だけど。

 スマホのタイプが早いとか、役に立たないよねぇ。


 話したところで、気味悪がられるか、何寝言言ってんだって思われるのがオチなんだろうな。

 と言って、黙っててもなんか問題が出そうな気がする。

 今はぱっと思いつかないけど、変な知識が出てきたりして不審がられるのも、なんだよねぇ。

 それぐらいなら信じてもらえなくても先言っとけ、って思うし。


 うーん、うーんと思考は堂々巡りする。

 言って意味あるのか、言わないで問題にならないか……?


 ふと、家族の顔を思い出す。

 両親と兄姉とジュリア姉さんと、顔が浮かんでは消えていく。

 せめて昨日思い出していれば、ジュリア姉さんに相談できたかもなぁ。

 みんな今朝変な顔していたけど、そんなレベルじゃないよ。

 特に姉に気味悪がられたらどうしよう。


 うーん、が、うがー、になっていく。

 前世も今世のそんな頭良い訳じゃないんだよ私。

 どうしよどうしよどうすんだ私!



「おいロール、何やってんの?」

「うきゃぁぁぁぁぁぁああ!」



 叫んで、慌てて振り向くと、玄関からケヴィンが覗いていた。


「なんだよ、うきゃぁ!って」

「び、吃驚させないでよ!」

「いや玄関全開で唸ってりゃ声掛けるだろ普通」


 さっきから通りすがりに見られてた、と指摘されて顔が赤くなる。


「それに曇ってきたし、降ってもおかしくないよ?」


 そういって空を指さすケヴィン。

 掃除の途中だったのを思い出して、一気に焦りだす。


「あ、そ、そうなの? ごめんありがとう」

「いや。じゃな」


 ケヴィンはさっさと帰っていく。その背中には薪が背負われていて、右手にはうさぎをぶら下げている。

 森に言ってきた帰りか。うさぎは春季日のご馳走にするんだろう。

 そう言えば兄がいた頃は割と頻繁にうちでも食べていたけど、最近ご無沙汰だなぁ。

 


 干していた物を取り込んでとりあえず藁の上に置いていき、窓を閉める。

 箒を片付けると、食卓の上を指でなぞる。結構埃が降ってきていた。

 水桶から手桶に少しだけ水を取ると、布巾で食卓の上を拭いていく。

 流石にこれくらいは家事の範囲だから怒られないだろう。


 でも念のため証拠は隠滅されなければならない。

 拭き終わって、手桶の水を外の目立たないところに流した。これで一安心。

 周囲に姉の姿は無い。私は水拭きなんかしなかった。いいね?


 私はそそくさと家に戻り、後ろ手に玄関の扉を閉め、手桶を片付けようとした。




 ふと、ほんとになんとなくふと、扉を振り返る。




 そこに、扉も開いてないそこに、見知らぬ男が立っていた。



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