目覚め
朝。
急速に眠気が去って行き、私は目を覚ました。
目を2、3度瞬きし、一度欠伸をしつつ身体を伸ばす。
そして、毛布ごと足を持ち上げ、反動を付けて身体をひょいっと起こす。
ん? この身体のサイズだと、ぴょこん、が正解か? いや何でもいいですが。
自分の両手を見る。にぎにぎしてみる。
もう何回か、瞬きしてみる。ぱちぱちぱち。
首を左右に振ってみる。きょろきょろきょろきょろ。
うん。
目覚めた。
扉が鳴って、姉が入ってきた。
「ロール、起きた?」
「うん、おはよー!」
姉は何故かびくっ!としたが、すぐにこにこ顔で近づいてくる。
「おはよ、ロール。今日は元気だね」
「うん、元気元気」
何故か心の底からほがらかで、自然と笑顔が出た。
「熱は……なさそうね」
「だいじょぶだいじょぶ」
姉も笑顔を楽しそうに変えて、私の頭を撫でた。
「5歳おめでとう、ロール」
「ありがと、お姉ちゃんも9歳おめでとう!」
「ありがと」
姉はふふっと笑うと、ご飯出来たら呼ぶからねと言って、戻っていった。
一人になった寝室で、私はわたしに呼びかける。
目覚めました。
こんにちは、ロールさん。相原真紀です。
* * *
記憶が戻るって、漫画やドラマでは物凄い苦痛感があると思っていたけれど、寝ていた間にそうなったからか、特に何ともないことにまず感謝した。
その上で、整理してみよう。
確証があるわけじゃないけど、何故か確信のあることから。
私はロールで、真紀であること。
昨日までの出来事は自分のこととしてしっかりと覚えている。
そして今現在、自分がロールであると胸を張って言える。
魔力のことと、病弱なこと、不都合な部分はあっても、私のことだしそれはしょうがない。
これって転生ってやつだよね。と言うことは転生したけど真紀に魔力が無いからロールにも無いってこと?
いや、これは確証がない。と言うか脱線だし一時保留で。
次に、何故記憶が蘇ったのか。
記憶がある理由は判りません。が、蘇った理由はあれでしょ。さいころでしょ。これはもう間違いなく。
5、1、3、3ではダメで、4ならOK。つまり、偶数が出るまで記憶が封じられていた、でFAだよね。
つまりあれか、記憶はある、あるが、今回うんぬんかんぬんというやつですか?
偶数が出て良かった……のか? それは判んないなぁ。
とりあえず確信があるのはこの二つか。
話が戻るけど、これって異世界転生ってやつよね。友達の家で何度か漫画で読んだなぁ。
へぇー、あるんだほんとに。しかも自分がなるとはねぇ。びっくりだよ!
死なないで良かったぁー、いや死にましたけども。
と、変に高まったテンションで考えていると、姉が呼びに来たので朝食に向かった。
「おはよう!」
元気に朝の挨拶をすると、両親はびくっとしたあと、私をまじまじと見つめた。
「お、おはようロール」
「おはよう……なんだ、今朝はやけに元気だなお前」
「そう?」
ぴょんこ! と椅子に飛び乗る。父が私を怪訝そうに見つめる。
「なんだ、変なもんでも喰ったのか?」
酷い!
私は椅子の上に立ち、父に飛びついた。
父は慌てて私を抱きとめる。
「何? 私が元気だとおかしいの?」
「い、いや、そういう訳じゃないんだが」
むぅー、と口を尖らせて至近距離の父を睨む。
父は目を泳がせつつ、どこかほっとした様子で私の頭を撫で、元の椅子に座らせた。
「起きた時からすっごい元気だよね、ロール。いい夢でも見たの?」
「そゆわけじゃないけど」
姉は呆れ交じりの笑顔。うん、その顔が嬉しいよ。
食事が始まると、今度は母がちらちらと私を見てきた。
なんか変かな。私は自分の姿を確認する。別に変なところはない、と思うけど……?
食事が終わると、私は唐突に宣言した。
「今日から私、家の掃除頑張るよ!」
「「「は?」」」
ハモった。
「な、突然どうしたロール。熱が出たのか?」
失礼な。
「いくら春季日だからって、無理しないで寝てていいんだよ?」
春季日関係無いし。と言うか寝てばっかじゃいられないよ。
「急に無理して、また寝込んだらどうすんの、掃除なんかまたやるから大人しくしてなさい」
無理じゃないし。てか母さん掃除なんかしないじゃんやるのは姉さんじゃん。
「私に対しての家族の評価はよっく判りました。まあしょうがないと言えばしょうがないけど」
しかし、いつまでもそうではいられないのだ。
「でも私も今日で5歳! 何にも出来ないロールちゃんはここで返上するよ!」
ビシッと指さし、フンと鼻息を一つ。
一気に全部ぴかぴかと言うわけにはいかないだろうけど、取りあえずご馳走作る前まではしっかりやるんだから!
気合を入れる私に、家族は揃って溜息を吐いた。
うん、テンション高いまま暴走した気がしなくもないけど、言ったからにはやってやるよ!
大事なところから目を反らしている、その自覚があっての虚勢だったのかもしれない。