表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さいころーる!  作者: 明昌
第一章 プレイヤー
3/16

登録式(1)


 お昼は兄が買ってきていた串焼きを食べた。美味しかった。


 そのまま兄たちと色々お喋りをしていると、夕方になって、姉が帰ってきた。

 母ももうじき帰ってくるらしい。

 姉とジュリア姉さんが食事の準備をする間、私は兄の膝の上である。兄の目をうっかり見ないで済むため、実は私にとってはベストポジションだったりする。

 ごつごつしてちょっとお尻が痛いけど。


 父も起きだしてきて、椅子を一脚追加で用意する。わたしはこのまま兄の膝の上のまま、新しい椅子にはジュリア姉さんの場所だ。


「どうだ最近は?」

「ん、順調だよ」


 父の問いに、兄は自信に満ちた声で答える。

 兄とジュリア姉さんと、あと会ったことはないけどあと二人。計4人のパーティだそうだけど、経験も功績も順調に積み上げているようだ。

 わたしの聞いた限りでも、ゴブリン、オークなどの魔人種の討伐、たまに出る魔獣の討伐、ダンジョン探索なども、その時に応じて追加メンバーを入れつつこなしているらしい。

 聞いただけでよく判っていないので間違っているかもだけど、兄ともう一人が前衛で、ジュリア姉さんが後衛で魔術師、あとシーフさんという構成とのことだ。

 兄は剣士としては飛びぬけた魔力持ちで、自分で付与がどうとか出来るらしい。

 最近では沼に出た魔獣の討伐をこなしたらしい。兄がその話をすると、ジュリア姉さんがちょっと嫌な顔をした。何かあったのかな。


「まあなんにしても、安全は十分に見てるって。ウチの参謀様は頭いいしな」


 なにその微妙なのろけ。ジュリア姉さんは苦笑していて、姉が脇を肘で突いている。


「ジュリアちゃん、いつも息子が済まないねぇ」

「お義母さん、それは言わない約束ですよ?」

「おい、俺がなにしたっつんだよ」


 兄が不本意だと主張すると、みんなで大笑いした。



* * *



 夜。


 ベッドが3つしかないが、父はこれから夜勤のため、それを兄が使い、ジュリア姉さんはわたしと姉と一緒に寝ることになった。

 兄は久しぶりに母と酒を酌み交わしたせいか、既に大鼾。母も既に寝入っているので、起きているのはこのベッドだけ。

 そしてこちらはというと……


「そしたらアベルが割って入ってきてね……って言ってね」

「へぇー。うわぁー!」


 声を潜めつつも、打ち明け話に花が咲いている。と言ってもほぼジュリア姉さんの暴露話。

 明らかに普段より多弁になっているのは、お酒が入っているからだろうか。

 そんな沢山飲んでいるように見えなかったのだけれど。

 両サイドを姉ズに挟まれたわたしは、言ってることの半分も理解できないため、発言している方を目でちらちら追うので精一杯。

 明日が早いのでもう眠りたいのだが、普段大人しめの姉が、目を輝かせてのめりこんでいるので、凄く止めづらい。

 

 と思っていると、姉が今までよりも更に一段声を落として尋ねた。


「ところで姉さん、もうそろそろなんですか?」

「ん? んー……」


 結婚のことっぽい? 流石にそれはわたしも気になるので、きょろっと目をジュリア姉さんの方に目を流す。


 ジュリア姉さんは困ったように微笑むと、自分の肩越しに兄を一瞥した。熟睡しているその様子を確認すると、


「んー……私としてはいつでも、って感じなんだけど、アベルがねぇ……」

「まだ兄さんプロポーズしてないの?」

「そうじゃなくて……王都に家を買ってからと思ってるみたいで、黙って貯金してるのよね、アベル」


 お財布は握ってるからバレバレなんだけどね、と悪戯っぽく笑う。


「えぇー、いつになるのそれ」

「どうかしらね……」


 ジュリア姉さんは、姉をからかうように続けた。


「家が先か、お腹が大きくなるのが先か、ってところかなぁ?」

「ふぇ!」


 姉は顔を真っ赤にして毛布を被った。


 このままお喋りはお開きになり、わたしは漸く眠りにつくことができた。



* * *



 翌朝。


 四刻の鐘が鳴る前に、家を出る準備。

 父は今日は夜勤から昼までの勤務、母は予定の入っていたお産の手伝いで不在。

 そしてジュリア姉さんは、


「うう……ごめん、むりぃ」

「早く寝たんじゃねーのかよお前……」


 呆れ顔の兄に苦笑いの姉と私。

 朝が凄く弱いらしく、お留守番でした。



 もうすぐ春と言っても、朝はまだ冷える。

 わたしは厚着して、姉からマフラーを掛けてもらう。首筋までしか髪が伸びていないため、見た目からも寒そうに見えるそうだ。


「お姉ちゃんは暖かいの?」

「んー、そんなに変わらないと思うけど」


 と言いつつマフラーはしない姉。まあ体力が違うよね。


「それじゃ行くぞ」


 兄はわたしを抱き上げた。

 久しぶりの兄妹3人でのお出かけである。


「お」


 家を出たところで、斜向かいの家に住む同い年のケヴィンと鉢合わせした。

 どうやら森に向かうようだ。


「おはようー」

「おう」


 挨拶もそこそこに、さっさと歩いて行ってしまうケヴィン。

 多分あっちはお昼組だね。



 それから役場までの道程を、兄に抱かれながら行く。

 姉は頻りに兄に話しかけ、兄も適当に応えているんだけど、わたしは無言。


 寒いというのもあるけど、姉に気を使わせてしまっているのが居たたまれない。

 それに、行った先でのことを考えてしまって気が滅入る。


 わたしを含む全ての人は、3月1日、春季日と呼ばれる日に誕生日に関係なく1歳歳を取る。

 そして、5歳になる子はその前の日に、市民として登録される。これが登録日だ。

 詳しい話は行った時に聞くので教えてもらってないけど、それ自体は別にいい。

 問題は、その日に同時に行われる、魔力の測定と登録なのだ。


 

 まだ人通りの少ない朝の道、四刻の鐘が鳴り響いているのを聞きながら進み、市場に入ってしばらく歩くとカンペールの中心街。

 目的地の役場もそこにある。

 王都とか、それなりの大きな街では、こういったことは冒険者協会の業務らしいけど、ここみたいな小さな町は協会が無いので、役場が代行している。

 

「着いたな」


 兄がぼそりと言って、ドアを開けた。顔を強張らせながら姉が先に入り、わたしと兄が続く。

 入った中は役場のフロアだけど、まだ閑散としていた。


 事前に聞いていた話では、わたしみたいな病弱な子は、この後の普通の子たちのお祭り騒ぎに巻き込まれて倒れてしまうことがままあるので、暗黙の了解で先に済ませてしまうそうだ。

 でも今は、それらしき子はわたし以外誰もいない。後で誰か来るのかな。


「あっちが協会の代行窓口」


 兄が顎で指し示す。

 そこには、黒と白の窓口があった。その間は掲示板らしき板で区切られていて、今立っている所からは白の窓口の奥の方は見えない。


「黒が依頼の受発注と報告。白が登録その他の業務の場所だ」


 兄は説明しながらわたしを白の方へ連れていく。姉も少し遅れて続いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ