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さいころーる!  作者: 明昌
第一章 プレイヤー
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はじめてのさいころーる


 思い出した。


 それはトラウマと共に、私の中に封印されていたこと。


 でも、もしかしたら、もし上手くいったら、お金を稼げるかもしれない。少なくとも、代書屋よりは。


 ええ? いやいや、それはとらたぬにも程があるんじゃないでしょうか? と突っ込む自分もいる。


 んー、でも思いついた勢いのままついケヴィンにも頼んじゃったしなぁ。

 やるしかないのか? やるしかないかも? やるしかないかぁ。


 と、家に帰ってからもうだうだ考えてしまう。

 ぶっちゃけ、自信無いし。異世界チートとか、ほど遠いし。


 そんな私を、母と姉は怪訝そうな顔で遠巻きに見ている。

 私がそちらを見やると、さっと目を反らす。なによ、私そんな変な顔してる?



 父が帰って来たので夕食を摂り、その後父に聞いた。


「お父さん、板が欲しいんだけどどこかにある?」

「板? どんなのだ?」

「えっと、これくらいのと、これくらいの。厚みはこんくらい」


 私はジェスチャーで1m四方と、それより一回り程小さめのサイズを示し、最後に指で1cm程度の厚みを作って見せた。


「んー、家には無いが、詰所ならあるかもな」

「貰えそう?」

「明日見てきてやる。でもそんな物、何に使うんだ?」

「お金稼ぎ?」


 ちょっと自信無さそうに言ってしまう。父はそれを流し目で見ていたが、「まあいいだろ」と一応了承してくれた。



 次の日、手ごろな大きさの板を2枚、父が持って帰ってくれた。

 小さな方は望み通りだったが、大きい方は、


「こっちの板、正方形にならない?」


 父は面倒そうな顔をしたが、物置から鋸を持ってきて、さっと切ってくれた。

 その間に、私は小さいほうの板に、すぐ抜ける程度の力で釘をぽんぽんと打っていった。

 ちょっと広いな、と抜いてはまた打つ。


「よし」


 概ね気に入ったので、そこに糸を引っ掛けて行く。


「なんだそれ、すぐ抜けちまうんじゃないのか?」

「いいの、どうせ抜くし」


 細かいことは説明せず、父が切った方の板を受け取ると、同じように釘を打って糸を這わす。


 ……まあ、こんなもんかな? 後は明日だね。



 翌日は酒場の日。大分体力が付いてきたか、片道程度では息が切れなくなってきた。


 私はおじさんに頼んで黒の塗料と筆を借り、板に、糸に沿って線を引いていく。


「ロール、なんだそりゃ?」


 曖昧な笑みを浮かべてそれをやり過ごすと、2枚の板共に、線が引き終わった。

 最後にちょんちょんと点を打って、完成。


「出来た」


 まあハンドメイドだしね。何となく歪んでてあれだなぁ。でも品質を求めてもしょうがないしね。



 そして、家に帰ると母から、


「ケヴィンがそれ、持って来たわよ?」


 と言うので玄関脇を見ると、袋が置いてあり、中を見ると、概ね期待通りのものが入っていた。


 一応、これで準備完了ね。



 しかし……。


 夕食後、相変わらず私はグダっていた。


 一応準備は出来た。

 始めるのは3日後から。


 でもここまで来ても、まだ私は踏ん切りがつかない。


 いやぁ、だってさぁ、どう考えてもこんなの上手くいかないでしょ?


 うん、遊びとしてならそこそこかもよ?

 でも、目的はそっちじゃないからね?


 とは言ってもねぇ。

 私には他に引き出しが無いのよねぇ。


 そんなことを思いながら、私は目の前のコップを指で弾く。

 コン、と鈍い音が鳴る。


 うーん、うーん、うーん、と、頭の中は堂々巡り。

 どーしよ、やる、やらない、やるしかない、うまくいきっこない。


 何がなんとかするだ、大見え切って、出てくるのがこれか。

 あの時は、異世界知識でなんとでもなると、根拠無しに思っていただけ。

 現実は、厳しいのだ。


 何が異世界知識だ。

 と言うか、なんで私は異世界知識なんぞを持って生まれてきたりしたのか。

 誰だ、こんなことしたの。神様か? 仏様か? 責任者出てこい!!



 もう、誰でもいいから、助けてよ。


 他に思いつかないんだよ。これでなんとかして。


 お願いします! お願いします! お願いします!!



 そして、ふと目を開ける。


 なんだか、急に静かになった気がしたから。


 目の前には姉が、半分呆れた顔をしながら見つめている。


 でも、



 あれ? なんか、ピクリとも動いてなくない?



 

 と、思った瞬間、急に周りの色がセピア色に色あせた。


 そして、私はいた。


 かつて見た、ふわふわの場所に。



 私はきょろきょろ周囲を見回す。

 何もない。色がついてるんだかついてないんだか。

 目の前のそれ以外、何もない。変な場所。


 そして、目の前のそれは、



 二つのさいころだった。



 え、私寝ちゃったの?

 ううん、寝てない。確かになんだかふわふわとするけれども、腕も動くし歩けるし、抓ってみたけど痛かった。


 そして、さいころが、私に、「さあ振れ!」と、訴えかけてきている。


 私は、前に見た時より少し小さめに見える二つのさいころを、同時に持ち上げた。


 振ればいいんでしょ振れば。


 ぽいっと投げる。


 力の入れ方が微妙だったか、一個はころころ言って、すぐ止まった。


 目は「4」。


 もう一個はころころころころともうちょっと長めに転がった後、何もないように見える壁に当たったか、そこで止まった。


 目は「6」。



 「4」と「6」。足して10。



 うん。


 だから?



 と思わず突っ込みを入れると、始まった時と同じように、周囲はさいころごとさあっと消えて、残ったのは目の前の姉の呆れたような顔だった。

 姉はコップを持って、ごくごくと中身を喉に運び、さあ寝よっか、と言った。



 何だったのか。

 特に何も変わってないように見える。

 何か追加で思い出したようなことも無いし、周囲が何か変化したようにも見えない。



 もうほんと、なんなのよ?



 そして、その後何事もなく二日過ぎ、代書屋の日がやってきた。



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