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さいころーる!  作者: 明昌
第一章 プレイヤー
14/16

魔法と代書屋

 次の日、私は兄達に連れられて森に向かった。

 魔法をレクチャーしてもらうためだ。


 カンペールの北門を抜けてオデ川に掛かる橋を渡り、しばらく歩くと森が見える。

 町の北部に住む子供たちが野草や薪、たまにウサギなど小動物を取りに来る場所で、よく晴れた今日もあちこちにその姿が見えた。


「森の奥に窪地があってそこなら人目に付かない。そこに行こう」


 兄の先導で少しずつ上りになっていく獣道を進む。私はこの少し前までは頑張って歩いていたが、上りの手前で兄に抱えられている。

 道も無くなった森の中をごりごり進んでいくと、やがて若干木々の密度が薄くなった窪地に出た。小さな泉と言うか水溜りが見えた。


 ジュリア姉さんは全体を眺めると、その中心当たりにポケットから出した魔石を置いて、呟く。


『障壁』


 魔石は一瞬カッと赤く光ると、ドーム状の青い光がそこから膨れ上がるように広がり、窪地全体を包んだ後、音も無く消えた。


「これで外からはこっちの方は靄がかかったように見えて、近づこうとしても自然と足が遠のくから、安心して練習できるわよ?」


 ジュリア姉さんは効果を説明してくれた。


「さてと、じゃあ始めましょうか、ロールちゃん」


* * *


 まず始めたのが、自分の魔力を感じる訓練だったが、これは思ったよりすんなり出来た。

 ペンダントを両手に包みながら目を閉じて集中する。何か動いている感じを掴んでみなさい、と言われたからだ。

 両手で包むように魔石を持ち、目を閉じて魔石の中の魔力を感じようとする。 


 最初は何も感じなかったが、少し経つと何かがもにょもにょと蠢くようなイメージが伝わってきた。

 思わず一度「ひゃっ!」と叫んで手を離してしまったが、気を取り直して続けると、やがて魔石に触れなくても、そこに何か力を感じ取れるようになった。

 ジュリア姉さんは目を丸めて「才能あるのかしら」と呟きつつ、次に進む。


 次は、魔力を動かす訓練だ。

 今度は「ぎゅっぎゅっと魔力を潰すイメージを持ってみて」と、おにぎりを握るみたいな手つきをしながら言われ、その通りにしてみると、胸の奥から魔石の方に魔力が、やはりもにょもにょと出ていく感じがして、気持ち悪さに身震いした。


「魔力を圧縮することで、自分と魔石の魔力のバランスが崩れて、足りない分が身体の方から出ていってるの」


 圧縮を解いてみなさい、と言うので止めてみると、今度は身体に向かって逆流してくる感じがした。

 魔石側の容量が多くなったからということか、なるほど。

 

「ところで、自分の魔力はどんな感じがする?」

「んー、なんかこうもにょもにょしてて、固柔らかいというか」


 例えて言うと、ところてん?


「ふぅん、水よりの土属性ってところか、じゃあ割と早そうね」

「そうだな」


 二人は少し相談すると、


「じゃあ今日は魔力の動かし方に慣れるところまでかしらね」


 と言うわけで、お昼過ぎまでその練習をした。


* * *


 翌日からは魔法の訓練。もう2日は掛かると思っていたとのことで、ジュリア姉さんはほっとした表情をしていた。


「じゃあ今日は、魔力をイメージして身体の外に出すのに慣れましょう」


 両手を包むようにしながら突き出し、その中心に魔力を溜めていくようなイメージで、意識を集中する。

 すると、


「……うわぁ!」


 魔石から手の中に向かって少しずつ茶色がかった魔力の粒が、帯となりつつ向かっていく。

 手にまで到達すると、そこで進行は止まり、続いて出てくる魔力によって少しずつ膨らんでいった。


「上手い上手い。その調子よ」


 褒められて少し照れつつ、そしてその分だけ補充しようと身体から出てくる魔力に、くすぐったいような錯覚を覚えつつ、魔力の放出を続ける。

 手の中の魔力の塊は茶色がどんどん濃くなっていく。大きさも、ビー玉くらいからテニスボールくらいまで膨らんだ。


「はい、じゃあそこで放出を止めてみて」


 急に言われて慌てたけど、息を止めるような感覚を意識すると、自然と魔力は止まった。


「出来た!」

「それじゃあ手の中の魔力を硬くするイメージを持ってみて」


 そう言いながらジュリア姉さんは兄に向かってあっち、と指さし、兄は凄く嫌な顔をした。

 硬く、硬くってどんなの? 岩石とか金属の塊とか?

 迷いながらもなんとかイメージを魔力に送ってみると、少しずつ白くなりながら手の中で小さくなっていき、ピンポン玉くらいで落ち着いた。


 ジュリア姉さんは満足げに頷くと、兄の方を指さしながら、


「じゃあアベルにぶつけてみよっか」

「え? ええええ??」

「大丈夫だって。当てられたら私より凄いよ?」

「ほんとに大丈夫?」

「うんうん。ところでその前に、ここまでした手順を覚えてる?」

「それは、覚えてるけど」

「じゃあそれを一連の流れとして、アベルに向かって放つまでを魔法として自分の中に登録しましょう」

「登録?」


 私が首を傾げると、ジュリア姉さんはウインクしながら、


「そう、名前を付けて登録するの。そうすれば次からイメージしやすいでしょ?」


 そうね、石弾がいいかな、と言いながら、さっきまで私がしていたことを自分でなぞりだす。

 そして、


『石弾』


 すると、ジュリア姉さんの人差し指に石の塊が現れ、それは独りでに兄に向かってぴゅーんと飛んで行った。


「ったく」


 兄は毒づくと、剣を抜いたかと思うと塊をさっと薙いだ。

 切り裂かれた塊は兄の左右に3mほど飛んで、地面に落ちた。


「ね、大丈夫でしょ? じゃあやってみて」

「う、うん……『石弾』!」


 私はえーいとばかりに兄に向かって手を伸ばしたが、石はふよふよふよと漂いつつ、兄の5mほど手前で力なく落っこちた。

 ちょっとカッコ悪い。


「最初だし上出来上出来。じゃあ、私ぐらいになるまで練習しようか」


 これには3日かかった。


* * *


 そして最終日。


『土壁』


 私がそう唱えると、私の1m先くらいに2m四方くらいの茶色い魔法の壁がぱっと現れた。

 兄が剣を振るうと、カキン! と音がして壁は受け止めた。


「一週間でここまで出来るとは、本当に才能あるかもな」

「そうね、5歳でこれって言うのは末恐ろしいわね。まあ、あまりお勧めはしないけど」

「まあな」


 私がこの一週間で覚えたのは土壁、土弾、石弾と、もう一つ便利そうなので水を流す魔法もだ。

 我ながらよくやったよ、うん。


 二人にお礼を言うと、兄はニカッと、ジュリア姉さんはにんまりと笑った。


「でも、なるべく使わないに越したことは無い。一人にならないように気をつけろよ」

「判ってる。暫くは薬施所通いになると思うし」


 でも出来ないより出来る方が安心感が全然違うしね。時々練習しておこう。


 だけど、これはこれ。私にはまだ本題が残っている。

 お金、どうしようかな。


* * *


 二人が王都へ去って行き、私は薬施所通いを再開した。

 字の練習を続けているが、金策のことで頭がいっぱいで、あまり身が入っていない。



 私には何が出来るんだろう。

 魔法は5歳としてはとんでもないレベルな気がする。これはチートと言っても良いかもしれないけど、実際5歳の身体じゃ単に宝の持ち腐れ。

 それ以外でと言うと、これって言うのが思い浮かばない。

 ほんと私何もしてなかったな!


 じゃあ、と言うことで、友達や家族がしてたことを思い出す。

 親友のマリちゃんは……陸上か。使えそうもない。却下。

 愛子は水泳でしょ、めぐみはバドか、うーん、無理っぽい。

 兄は剣道、父はドライブ。どうしろと。


 て言うか体育会系多いな!



 などと思っていると、横から声が掛けられた。


「何書いてるんだね?」


 うおっ! と顔を上げると、ロラン先生が石板を覗き込んでいた。

 あ!

 いつの間にか書き取りじゃなく、陸上とか水泳とか書いちゃってるよ! 恥ずかしい。


「あ、これはその、ついつい」

「なんだいそのリクジョウって言うのは?」


 え、えーっと、と誤魔化そうときょろきょろ周りを見回すと、姉が飛んできた。


「先生、ごめんなさい。こらロール! また訳わかんないこと書いて!」

「うう、ごめんなさい」

「シルヴィ、あんまり怒るな。この歳じゃ仕方ないしな」

「うー、でも」

「そんなことより」


 私をじっと見て、ロラン先生は尋ねた。


「なんか悩んでいるみたいだな。どうした?」


 姉は困った顔で、


「先生、家の事なので」

「ふむ。しかし、子供がそんな顔をしていてはいかんな。話してみなさい。力になれるかもしれんし」


 益々困ってしまう姉。


 正直、私この人苦手なんだよね。悪い人じゃないんだけど、妙に押しつけがましく感じることが多くて。


 姉をもっと困らせるかもだけど、ここは私がびしっと言おう。


「詳しくは言えませんが、お金の事なので」

「ロール!」

「ふむ、金か……いくらだ、出してやってもいいが」

「いえ、自分の事なので、他人の力を借りるつもりはありません」


 先生は意外そうに目を見張ると、


「他人と言うが、ロールちゃん、君に金が稼げるのかね?」

「稼げないとしても、そういった形で解決する気はありません」


 姉が泣きそうな声で怒鳴ってきたが、怒鳴りたいのは私だ。この人しつこい。


 私達の顔を見ながら、しかし何故か気を悪くした風でもなく、先生は何か考えて、言った。


「自分の力で稼ぎたいと?」

「はい」

「ふむ……では、代書屋でもしてみてはどうか?」


 ………………………


 …………………


 ……………


 ………


 代書屋?


「代書屋ってなんですか?」

「手紙や書類などを、代わりに書いてやる仕事だな」

「私に出来そうですか?」

「字はそこそこ綺麗だし、いけるんじゃないか?」


 私は姉と顔を見合わせた。


「まあ、王都ならともかく、ここではそこまで稼げはしないだろうが、小遣い稼ぎくらいは出来るだろう」

「そうですか……親と相談してみます」


 なんか思っていたのと方向性が違うけど……。


 何も思いついてないことだし、取りあえず候補には入れておこう。


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