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さいころーる!  作者: 明昌
第一章 プレイヤー
12/16

アベルの請求


 兄が呼び戻されて、いつもの私の椅子に座る。

 そして何故か兄の膝の上に運ばれた。


 ん? 話は終わりじゃないの?


「その、アベルがどうしてもって」

「悪い。重い話ばっかりで疲れただろうけど、俺も話をしなきゃならない」


 兄はちょっと辛そうに切り出す。

 みんな、今度は何だとややうんざり気味に兄に続きを促す。

 ジュリア姉さんだけは、内容を知ってるようで、そっぽを向いている。こういう顔をするのは初めて見た。


「今から言うことは、みんな怒ると思う。ジュリアにもさんざん反対された。だけど、筋は通さなきゃならない」


 そして、兄はまず、濁しながらも今までの話を繰り返した。ぎゅっと私の身体を抱きしめてくる。


「ロールの体質と、その対処については、一応了解してくれたよな?」


 不承不承ながら、という態で3人は頷く。


「その為には、とりあえず基本だけとしても、放魔士の訓練をロールに施さなきゃいけない」

「放魔士と言うのは」


 ジュリア姉さんが割り込んで言う。


「魔術士の一種なんですけど、魔石を通じて魔力を放出することに特化した職の事です。判りやすく見せると」


 ロッドを引き抜いて、さっきのように魔力を赤い石に漲らせた。たださっきと違うのは、身体の周りに光がまとわりつきながら、円を描くように動き、最後にロッドの方に到達するような動きをしていることだ。


「これは魔力の流れを判りやすく見せるためにちょっと工夫しているだけで、特に意味は無いです。要するに、身体に循環する魔力を、呪文や念、コツなどで指向性を持たせ、このように魔石に込めて増幅したり」


 次にロッドをしまい、次に人差し指の先に光の珠を光らせて見せて、


「魔石無しでも、こうやってまとめてなんらかの現象を起こすのが、普通の魔術士です」


 そして私の方を見て続ける。


「ですが、ロールちゃんはそれが出来ません。魔力が凝固し、循環しないため、自分の力では取り出せないのね」


 そして、私の首のペンダントを指さして言う。


「そのため、放魔士は、一旦魔力を魔石同士の循環作用で移し、そこに指向性を持たせて使用するわけなの」


 放魔士と言う呼称も該当者数が少ないため、一種の俗語で、転魔士とか共鳴士とかの呼び名もあるそうだ。


「どっちにしても、魔石が必要なんだと言うことは判ってくれるか?」


 頷くと、兄はここから、声を低く、そしてやや厳しめに言う。


「魔石の値段は高い。これはかなりいいやつだが、もっと質が悪くても、金貨5枚はする」


 ええっ!

 吃驚して思わず兄の方を見上げかけ、慌てて顔を下げる。

 父は仰け反って呻き、母は驚いた口が塞がらない。姉も顔を強張らせながら、何やら指折り数えている。


 この世界のお金について、真紀視点でざっくり解説すると、銅貨、銀貨、金貨と、その中間通貨として大銅貨、大銀貨、大金貨がある。

 銅銀金はそれぞれ100枚単位で繰り上がり、50枚で大貨幣でまとめる感じだ。

 銅貨は色々な物の値段からのざっくりした対比で、100円だと思っていいかな。


 つまり、金貨5枚=500万!


 そんなお金無いよ! 無いよね! 無いでしょ多分!


 ちなみに確かだけど、父の年収は今金貨1枚だったと思う。母は少し少なくて銀貨75枚だったかな。姉は見習いなので、月銀貨1枚のはず。


「お、おいアベル。そんな高いのじゃなくて、その辺の魔獣から採れる魔石じゃダメなのか?」


 兄は首を振り、ジュリア姉さんが続ける。


「ロールちゃんの魔力が大きすぎて、質の低い魔石じゃ割れてしまうし、それにそういうのはその魔獣の魔力で染められているでしょう」


 魔力は、他人の魔力と混ざり合うと凝固する性質があるそうだ。そのため、私のために使うには魔力を綺麗に抜かなければならなくて、その費用を考えるとこのペンダントの方が安上がりになるそうだ。

 元々、このペンダントは魔力が入っていない、無色状態と言うのだそうだけど、そうであったので、取りあえず渡すのに都合がよかったらしい。


 絶望に打ちひしがれる家族をよそに、兄は続けた。


「ただ、幸運、って言っていいのか? このペンダントは直前まで俺らが潜ってたダンジョンの宝箱から出たもので、ある意味原価はタダだ」


 それを聞いて一転、両親はほっとしたように顔を見合わす。が、


「但し、これをいくらロールのためだからって、タダでやる訳にはいかない」

「なっ!」


 父は顔色を変えて立ち上がった。


「お、あ、アベル! お前! 妹のためだぞ! 判ってんのか!」

「判ってるさ、十分に。でもさ」


 兄は父を睨み返す。


「親父だって判ってんのか? これを得るために、俺らがどんだけ苦労したのかってことをさ?」

「アベル……」

「ジュリアは黙ってろ」


 睨み合いながら、続ける。


「別にこれがあるから、って判ってたわけじゃないぜ。その意味では幸運だったさ。でもな、俺もジュリアも、マックスにメラニーだって、このダンジョンに潜るためにどんだけ準備して、入ってからどんだけの死線を潜り抜けて、どんだけ消耗して出てきたか。それが判るか? ジュリアなんか」


 ジュリア姉さんは言わせまいと兄の腕を引くが、兄はそれを振り払った。


「ジュリアなんかな、魔力使いすぎて倒れて、帰りの間ずっと気絶して起きやしなかった。傷だって沢山受けたんだ」


 兄の興奮に、私は身の置き所を無くして竦む。父も兄の剣幕に、怒りを抑え込んだように黙り、どすんと座った。


「そうか」

「ああ、そうだ、それでもな」


 兄は興奮を振り払おうと激しく首を振った。


「ロールのためだからって、自分の取り分を放棄するからって言うんだぜ? 今から言うことは、それを踏まえて聞いてくれよ。頼む」


 兄が頭を下げる。こつんと私の頭におでこが当たった。


 暫くみんな無言だったが、やがて父は感情を押し込める様にふーっと深く息を吐いて、聞いた。


「ああ、俺も悪かった。それで? まだ続きがあるようだが」

「ああ」


 兄は顔を上げた。


「この純度のになると、店売りで金貨5枚以上、買うとなると20枚は下らないって話だ。その上で」


 ちょっと辛そうに続ける。


「金貨5枚で俺が買い取るってことでマックスとメラニーは同意してくれた。ただ、すぐ金が無い。そこで、手付で金貨1枚を出した。正確には4分割したから、実際は銀貨75枚だ。それで、残り金貨1枚ずつだが、ジュリアは放棄すると言う。俺も元々そのつもりだ。だけど」


 目を瞑り、吐き出すように言った。


「それ以上はどうしようもない。だから金貨2枚、こっちで払ってくれ」


 父は何か言いかけてぐっと堪える。母も天を仰いだ。姉は俯いて何も言えない。



 たぶんこれは破格に近い。

 ジュリア姉さんはさっき反対したって言ってたし、もしかすると兄の仲間の人たちも、放棄するか、ある時でいいとか言ってくれたんじゃないだろうか。

 その上で、兄は筋を通そうとしているんだろう。


 みんな損をして、悲痛な顔をして、それでもぎりぎりのところで、何とかしようとしてくれたんだろう。



 私のために。



「あのね」


 私がぽつりと言う。


「その前に、まだ兄さんとジュリア姉さんに話してないことがあって、実は」


 私は静かに話し続けた。自分が転生したことを。

 話し終えて、聞いた兄が驚きながらも言った。


「そうか、で、それがなんなんだ?」


 兄がそう言うと、ジュリア姉さんも私の頭を愛おしそうに撫でてくれる。



 ああ、この人たちも、そう言ってくれるのか。



 ならば、バカな私も、なんとかしてその愛に応えなければなんない。


「今すぐ思いつかないんだけど、前世の、異世界の知識で、お金をなんとかする」

「「「「「はぁ?」」」」」


「だって、私のことだし、自分でなんとかするべきでしょ?」

「いやでもお前、そんな当てがあるのか?」

「すぐには無いよ? 無いけど」


 私は顔を上げた。

 兄の目をじっと見る。

 震えが始まり、鳥肌が立ち、涙が零れて、とっても苦しかったけど。


 兄が慌てて私の頭を抑えようとしたけれど。


 耐えた。


「なんとかする!」


 私は目を反らさずに、そう言い切った。




 やがて、兄の方が耐えきれずに目を反らした。

 観念したように、やや頬を赤くしつつ、言った。


「判った。じゃあ、2年でなんとかしろ」

「2年?」

「ああ、2年だ。1年で金貨1枚。それで払うのは貯まったらまとめてでいい」


 それでいいだろ? と父の方を見る兄。父もほっとしたように頷く。

 実際、それなら切り詰めればなんとかなるかもしれない額だ。

 まあ正直、私の金策なんか信じられないよね。



 でも、やる。

 なんかやってやる!


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