プロローグ
初投稿です。
私、相原真紀は今、交通事故に巻き込まれて死亡した。
電車を降り、家までの歩道を歩いていた私は、交差点を道なりに左折しようとしたところで、何かのキャンペーンだか限定商品だか判らないけど、それのために出来た行列に道をふさがれた。
別に急いでいたわけでも無かったけれど、通行不能になっていることに苛立ち、ほんの20Mだけガードレールを越えて車道を歩き、やり過ごそうとしたのだ。
そこに、交差点を猛スピードで曲がろうとしてコントロールを失ったらしきセダン車がやってきて、私をガードレールごとぐちゃぐちゃにした。
今、私は浮遊感と共に、事故現場を見下ろしている。
ぐちゃぐちゃになった私だったものには極力目をやらないようにしながら周囲を見回すと、悲鳴をあげているらしき女性、スマホで写真を撮っている若い男、現場から必死に離れようとしているドライバーと、それを取り押さえるおじさん、何事もなかったように走り去る対向車や、事故車のために道をふさがれ立ち往生している軽自動車。
でも、誰一人として、事故現場上空10M程にぷかぷか浮かんでいる私を見る人はいない。
見上げる人も、スマホのレンズを向ける人も、指さす人すらいやしない。
まあ要するに、見えないんだろうね。私のこと。
と言うか、自分でも自分の手が見えないんだけどね。もう魂だけなんだろう。
誰からも見えず、こちらからも音は聞こえない、そんな不思議な感覚が数分続いた後、私はゆっくりと地上から遠ざかり始めた。
そこそこの高さになると、あと10分歩けば着いたはずの、自宅のあるマンションが見えた。
そう言えば出がけに下着干してたっけ、残るのは男二人だけだから、悪いことしたかな。
お父さん、お母さんが死んでから男手一つで17まで育ててもらったのに、先立つバカ娘をお許しください。
お兄ちゃん、ここ何年か怖くて目を合わせられなかったけれど、嫌いじゃなかったよ。ごめんね。
どんどんと私は浮かび上がっていって、それと共に少しずつ意識もあやふやになっていく。
毎日乗っていた電車の線路も、子供の頃遊んでいた川や小山も、どんどん離れていく。
さようなら、もし生まれ変われたらいいのにな。
もうほとんど意識が保てなくなった頃、聞こえなかったはずの音が微かに聞こえた気がした。
ころころころ……
ころころころころ……
何故か突然、周りの景色が変わったような気がするのだけど、気のせいだろうか。
もうあるとも言えない意識の中、また音がした。
ころころころころ……
ころころ……
ころころころ……
そして、もう気のせいに違いない、小さな声が聞こえた。
「プレイヤーか、久しぶりだね」