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虚ろな器  作者: 髙津 央
魔道犯罪
48/51

48.聴取

 動揺が大きい為、翌日も高等部一年生の授業は休みになった。


 志方は何もする気になれず、ベッドに横たわってぼんやりと過ごした。

 目が覚めたことで、眠ってしまったのだと気付いたが、夢を見ていたような見なかったような、はっきりしない眠りだった。


 寮に刑事が来て、個別に事情聴取が行われた。

 談話室に一人ずつ呼ばれる。精神的に不安定になっている生徒には、〈白き片翼〉先生が付き添う。


 午前中、起きていた者は先に済ませていた。

 志方は午後に呼ばれ、刑事と専門の捜査官を相手に一人で、自分の体験を語る。


 談話室に入ってすぐ、事情聴取に先立ち、捜査情報がこんなに詳しく知らされるのは、卒業後、専門捜査官になる者が多いことと、民間に就職しても、捜査に協力してもらうことがあるからだと、説明された。


 志方は、自分でも嘘臭くて信じ(がた)いと思いつつ、実際に遭った出来事をそのまま話した。

 刑事と専門捜査官は、現実離れした話を一切否定することなく、聞いている。


 専門の捜査官は、年配の女性だった。


 普通のおばちゃん……を、ちょっとキリッとさせたみたいだな……


 志方は、テレビに出ている霊能者のような人物を想像していた。

 よく考えれば、魔法使いの先生たちも、魔法が使える以外は、普通の人だ。外国の血が入っているので、外見は日之本帝国人っぽくないが、そんな人は幾らでも居る。


 「君も大変だったねぇ。でもね、もし将来、私と同じ仕事をするんなら、これも経験だから、今回のコト、よく覚えときなさいね。被害者の気持ち、忘れちゃダメよ」

 捜査官のおばちゃんに励まされ、志方は(うなず)いた。


 将来のことは、まだ明確に決めていない。最近、警察も就職先の選択肢に入りつつあったが、今回の事件で心が揺れていた。


 被害者としてはさ……二度とあんなことやらかす異常者とは、関わりたくないなぁ。

 んで、一生、刑務所に居て欲しいっつーかさ、罪悪感とか、なさげだし、死ななきゃ治らない系の奴ならさ、いっそ、来世でやり直して欲しいっつーか……


 志方が黙っていると、初老の刑事が、書き終えた調書を束ねながら言った。

 「今回はありがとうな。例のホトケさん、親御さんと連絡がついて、近いうちに実家に帰れることになったよ」

 「えっ、あ、いえ、こちらこそ、ありがとうございます」

 思いがけず、殺人と死体遺棄事件の被害者・元野笙子(もとのしょうこ)のその後がわかり、安堵した。


 志方も、刑事に被害者のその後を知らせる。

 「あの後、すぐに成仏しました。刑事さんに、ありがとうって、笑ってました」

 「そうか。よかった。犯人を恨んで、悪霊にならずに済んだんだな。よかった」

 刑事はホッとした笑みを零した。


 事件から三日目、授業が再開された。


 例の件はくれぐれも内密に、と念押しされた以外は、いつもと変わりなく、日常が過ぎて行く。

 生徒たちは互いに事件には触れず、授業の遅れを取り戻すことに専念した。

 殊更(ことさら)に日常の回復に努めることで、事件を忘れようとしたのかもしれない。


 志方は、ここ数日分の新聞を隅々まで調べた。

 寮には全国紙が四紙と、徳阿波(とくあわ)の地方紙、師国(しこく)地方のブロック紙の計六紙がある。

 どの新聞も、全く今回の事件に触れていなかった。


 紙面には限りがある為、世の中で発生する全ての事件が掲載される訳ではない。

 それはわかっているが、志方は腑に落ちなかった。


 何かさ、いかにも飛び付きそうな猟奇事件なのにな。


 警察から魔道学院宛に、五人を逮捕したと言う連絡が入り、担任からその件を聞かされただけだ。


 釈然としないまま、日々は静かに過ぎ、試験の結果が返って来た。

 各教科の時間に答案が返却され、答え合わせをする。中学や高校の普通科と同じ光景だ。

 案の定、志方の成績はボロボロだった。

 ダメだった教科は、夏休みに頑張って追い付くとして、問題は、除祓概論だ。


 何でだ? これ、こんな……

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
碩学の無能力者」 中学時代の〈樹(いつき)〉が主役の話。
何故、国立魔道学院に入学したのかがわかります。
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