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虚ろな器  作者: 髙津 央
実技試験-午後
37/51

37.足跡

主役の志方〈輪〉のB班は、なんとなくお笑い風味でしたが、

委員長〈柊〉率いるA班は、ガチな感じの低レベルダンジョンアタックです。

パーティーの構成は、

〈柊〉魔力あり、霊視力あり。学級委員長。A班の班長。

〈梛〉霊視力あり。神社の子。実家では境内の掃除専門。

〈柄杓〉霊視力あり。家業を継ぐ為、占い師志望。眼鏡女子。

〈三日月〉魔力あり、霊視力あり。使い魔は三毛猫の〈梅路〉

水柱みはしら〉魔力あり、霊視力あり。使い魔は鴉の〈玄太〉

〈森〉魔力あり、霊視力あり。結界の術が得意。

 副委員長〈雲〉を班長とするB班が、最後の一軒の掃除を始めた頃、委員長〈(ひいらぎ)〉を班長とするA班も、最後の一軒に取り掛かっていた。


 水の魔法で〈森〉が屋根を洗い、班長の〈柊〉が窓と戸袋、外壁などを洗浄した。

 班長が無施錠の玄関を開け放つ。

 日に晒された雑妖が、悲鳴を上げる暇もなく消えてなくなった。


 三和土(たたき)の埃が乱れている。

 「下見には〈双魚(そうぎょ)〉先生、お一人でいらっしゃいましたよね?」

 「多分……にしては、何か、足跡……多くない……?」

 不審に思った〈柊〉が足を止めた。


 玄関から奥に伸びる廊下を視線で辿り、〈森〉が首を(ひね)る。暗がりから、雑妖がこちらを窺っていた。


 「おうちの人が、忘れ物を取りに来た、とか?」

 「何でだよ。どう見ても年単位で放置してんのに、今更、忘れ物もないだろ」

 眼鏡女子〈柄杓(ひしゃく)〉の暢気(のんき)な発言に〈(なぎ)〉が鋭くツッコんだ。


 複数の靴跡が、何度か往復しているように見える。いずれも大人の大きさだ。

 土足で自宅に上がるとは考え(がた)い。


 「えっ……じゃあ、逃亡犯が潜んでる、とか?」

 自分の発言に怯え、〈森〉の語尾は震えていた。


 三毛猫型の使い魔梅路(うめじ)を抱いた〈三日月〉が、廊下の奥の闇に目を凝らす。

 「……今は、誰も居ないよ」


 「時間ないし、さっさとやろう」

 〈水柱(みはしら)〉の言葉に全員が頷く。

 使い魔の(カラス)玄太(げんた)(あるじ)の肩で、同意するように一声鳴いた。


 これまでの家で、使い魔たちを外で待機させる必要がないとわかったので、連れて入る。

 使い魔のいない〈柊〉と〈森〉が、術で【灯】を(とも)し、これまで通り二手に分かれた。


 班長〈柊〉、見鬼(けんき)の〈柄杓〉、使い魔を肩に乗せた〈水柱〉は家の東半分。

 【灯】を持つ〈森〉、神社の息子〈(なぎ)〉、使い魔を抱いた〈三日月〉が、西半分の窓や雨戸を開けに行く。


 この家には、(ふすま)が残っていた。

 〈森〉たちは、玄関を入ってすぐ、西隣の襖を開けた。畳はなく、降り積もった埃の上を雑妖が蠢いている。

 使い魔の梅路が威嚇の唸りを上げると、雑妖たちは壁際に退いた。


 この部屋には、何年も人が立ち入らなかったようだ。

 先生も襖を開け、中を覗いただけらしい。埃に足跡は付いていなかった。鼠の糞らしき黒い粒が、幾つか落ちているだけだ。


 神社の息子が、破れた障子を開け、南向きの縁側に出て、雨戸を開けた。外の新鮮な空気と光が、部屋の(よど)みを一掃する。

 足元に纏わりついていた雑妖が、陽光に触れて声もなく掻き消えた。


 明るくなった縁側から隣室に入り、窓を開けて風を通す。〈三日月〉が部屋を仕切る襖を開け放ち、二間続きにした。


 三人は、部屋の北側の襖も開放し、廊下に出た。

 西の突き当たりの小窓と雨戸を開ける。暗い廊下の先に、四角く光が見えた。東端の小窓は既に開放してあり、東西に風の道が通った。


 廊下を挟んだ向かいの部屋に入る。

 こちらは小部屋だった。幅は同じだが、奥行きが先程の半分しかない。


 奥の襖を開ける。

 押入れだった。雑妖が(ひし)めきあい、通勤ラッシュの満員電車のようになっている。

 今はそれに構わず、窓と部屋を仕切る襖を開けて、家の中央を通る廊下に出た。


 今の所、虫と雑妖の(たぐい)しかおらず、ここも難なく終わりそうだった。

 「前、ここに来た人たちって、こっち側にはこなかったんだな」

 足元の埃を見て、〈(なぎ)〉は確信した。

 下見に来た先生の物らしい大人の足跡が、一組だけ残っている。


 東に目を遣ったが、班長たちが通った後で、元の足跡は確認できなかった。


 中央廊下の突き当たりは、納戸だった。

 班長たちが開けた木のドアの奥には、首の折れた扇風機や、足付きの古びたブラウン管テレビなど、壊れた家電製品が幾つか残っていた。


 納戸の西隣の襖を〈森〉が開ける。

 茶の間と台所だ。台所部分は土間で、隅に(かまど)がある。

 竈の横は勝手口だ。〈三日月〉が開けると、外の風が吹き込んだ。


 「昔のおうちって、面白いねー。あれ、なぁに?」

 竈の上に(しつら)えられた小さな神棚を見上げ、〈三日月〉が誰にともなく聞いた。


 腕の中で梅路が欠伸(あくび)をする。〈梛〉が、少し考えて答えた。

 「神棚だよ。この位置のは、竈や台所を司る神様をお(まつ)りしてるんだ。神棚は、えっと、ちっちゃい祭壇……で、わかる?」

 「うん。何となく」

 「えーっ? 何となくって、何だよ?」

 横で遣り取りを聞いていた〈森〉が、苦笑する。


 廊下に出ながら〈三日月〉は頬を膨らませた。

 「えーっ? だって、正式な祭壇って、見た事ないもん。わかんないよ」


 東側で女子の悲鳴が上がった。

 三人は顔を見合わせ、次の瞬間、駆け出した。

21.廃村(http://ncode.syosetu.com/n6611cp/21/)の広場の下。

△型の土地に一軒だけ離れて建っている家です。

道と道の間は斜面なので、広場より一段低い位置にあります。

挿絵(By みてみん)

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
碩学の無能力者」 中学時代の〈樹(いつき)〉が主役の話。
何故、国立魔道学院に入学したのかがわかります。
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