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虚ろな器  作者: 髙津 央
実技試験-午前
20/51

20.朝礼

 期末考査最終日。

 除祓概論(じょふつがいろん)の実技試験当日を迎えた。


 志方(しかた)は昨夜、〈雲〉に【安眠】を一枚もらい、たっぷり休んだ。

 経験上、寝不足でアレと対峙(たいじ)する危険性をよく知っているからだ。


 すっきり目覚めた代わりに、枕元は呪符の残骸で灰だらけになっていた。だが、お陰で前日までの試験疲れが、すっかり取れた。


 手早く掃除し、万全の体調で食堂に降りる。


 皆、落ち着かない様子で、もそもそ朝食を摂っていた。

 今朝はサンドイッチ。

 照り焼きチキンサンドとチキンカツサンドだ。新鮮な野菜も挟まっている。


 いつも通りに美味しい筈だが、緊張の為か、殆ど味がわからなかった。


 実技試験の高一は、全員、長袖のジャージ上下だ。

 暑いが、ダニなどによる虫刺され予防の為なので、仕方がない。


 もう一方の班は、装備の最終確認をしている。

 班長の〈柊〉が、強張った顔で手帳を睨み、リストを読み上げていた。


 教室に入ると、マスクと軍手とゴム手袋、ウェストポーチ、塩が詰まったチャック袋が各机の上に置いてあった。


 ホームルームが始まると、先生がぞろぞろ教室に入ってきた。

 担任の〈匙〉先生、除祓概論の〈双魚(そうぎょ)〉先生、呪符魔術の〈筆〉先生と、養護教諭の四人だ。


 養護教諭は、年配のふくよかな女性だ。

 缶バッジではなく、銀のペンダントの(しるし)で〈(しろ)片翼(かたよく)〉先生。〈雲〉の話では、ディアファナンテ出身の呪医で、魔術師の国際機関「霊性の翼団」に所属しているらしい。


 挿絵(By みてみん)


 ペンダントは、霊性の翼団の身分証だ。どの系統の魔術の専門家であるかを示している。

 〈白き片翼〉は、鳥の翼が片方だけついた蛇。病気を癒す術を習得した医療者の(あかし)だそうだ。

 科学文明国の内科医に相当するらしい。


 「おはよう。皆、昨日はちゃんと寝たか?」

 担任の爽やかな笑顔に、生徒たちは微妙な顔で返事を保留した。


 志方は昨夜、〈雲〉にもらった【安眠】で呪符使用の練習をした。

 睡眠時間の確保もできて、一石二鳥。体調はよかったが、空気を読んで黙っていた。


 「えー……まぁ、もし体調が悪くなっても、本部に〈白き片翼〉先生がいらっしゃるから、無理しないようにな」

 「重い物を運ぶ時は、腰を(いた)めないように気を付けるんですよ」

 ディアファナンテ人の養護教諭が、流暢な日之本語で注意を与えた。


 「えっ? 重い物って?」

 「ん? あぁ、古くて要らない家具を置いてったお家が、何軒かある」

 空き家には何も残っていないと思っていた〈水柱(みはしら)〉が、ポロリと質問を零す。〈双魚〉先生は、眠そうに答えた。

 「付喪神(つくもがみ)が居るが、別に害はない。祓わなくていいぞ。せいぜい、丁寧に拭いてやれ」


 神様……なのか? じゃあ、大事に扱わなきゃな。


 志方は、ツクモガミを知らなかった。皆は嫌な顔で、頬を引き()らせている。

 続いて、〈筆〉先生が呪符の使用上の注意を説明し、担任が締め(くく)った。

 「一軒終わる毎に本部へ来るように。先生たちが霊的に閉じて掃除完了だ」



 事務員が運転するマイクロバスで、高等部一年生は、山中の廃村に向かった。

 危なげのないハンドル(さば)きで、曲がりくねった山道を行く。


 志方には、こんな山奥にもアスファルトの道路が通っていることが、不思議だった。

 窓の外を山の緑が流れ、ついでに種々雑多な妖魔も流れた。

 放棄された棚田に雑草が生い茂り、青草の影に雑妖が見え隠れする。

 雑妖は窓に飛びついて車内を覗き込み、侵入できないことに気付くと、すぐに視界から消えた。


 バックミラーから交通安全のお守りがぶら下がり、ハンドルには、志方が初めて見た呪符が貼ってある。

 お守りと呪符、どちらの効果なのか、或いは両方なのか。絶大な威力だ。


 あの呪符、作れるようになりたいな。

 テストが終わったら〈筆〉先生に聞いてみよう。


 その、呪符師の〈筆〉先生は、校庭で手を振り、一年生を見送ってくれた。


 志方は、初めて具体的に、学びたいことと目標ができたが、本人にその自覚はない。

 村に着くまで、ハンドルの呪符に羨望の眼差しを注ぎ続けた。

ついに試験会場の村に出発。


養護教諭は〈白き片翼〉=「内科の先生」と呼ばれています。

〈匙〉〈双魚〉〈筆〉〈算盤〉は、缶バッジのマークが呼称。

事務員と管理人は、そのまま役柄が呼称になっています。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
碩学の無能力者」 中学時代の〈樹(いつき)〉が主役の話。
何故、国立魔道学院に入学したのかがわかります。
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