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虚ろな器  作者: 髙津 央
特別教科
13/51

13.呪符

 「呪符は、一回分の魔力が籠められてて、呪文を唱えれば、誰でもその術が使えるんだ。魔力が切れたら灰になっちゃうんだけど、モノによっては水晶より強力だよ」


 班長の〈雲〉に続いて、知識豊富な〈(いつき)〉が、具体的な効力を説明する。

 「この【消魔符(しょうまふ)】は、近くで使われた魔法を一種類、一回だけ無効化する呪符なんだ。呪符より強力な術だと押し切られちゃうけど、この国なら、まず大丈夫。それから……」


 【退魔符(たいまふ)】は、呪符に籠められた魔力より弱い残留思念や(けが)れを消滅させる。

 【魔滅符(まめつふ)】は、呪符より弱い魔物を消滅させる。

 それぞれの効果範囲は、呪符に籠められた魔力による。


 「えっと、これ以外は、自分で作りなさいって……何が要ると思う?」

 装備を見て、〈火矢(ひのや)〉が不安そうに班員を見回す。


 班長の〈雲〉も首を傾げた。

 「そうなんだよね。教わった呪符で掃除に使えそうなのって、何だろう?」


 「書くのは俺がするから、〈火矢〉さんたちは、魔力を籠めてくれないかな?」

 「あっ、そうしてくれる?」

 〈樹〉の提案に〈火矢〉が瞳を輝かせる。


 「それでー、何が要るのかなー?」

 「雑妖に(たか)られないように、【魔除け】だけは、絶対要る」

 「要る要る! 絶対要る!」


 どんどん話が進む。

 志方は何のことやらさっぱりわからず、〈雲〉と〈樹〉に視線で助けを求めた。


 「呪符は、書く人と魔力を籠める人が別でもいいんだ。材料が特殊だから、コピーや印刷はできない。全部手書きしなきゃいけないんだけど、ミスったら修正できなくて、イチからやり直し。面倒臭いんだ」

 志方は、〈樹〉のわかりやすい説明に(うなず)き、先を促した。


 「俺たちが作れるような【魔除け】は、虫除けスプレーって言うか、蚊取り線香くらいの……ほんの気持ち程度の効果しかないけど、ないよりはマシかな」

 「他に習ってるのは、【防火】、【安眠】、【(あかり)】、【鍵】、【炉】だけど……」


 「火災予防と悪夢見ないのと、懐中電灯と鍵と卓上コンロって、掃除に関係ないよね」

 「電気ー、来てるって言ってたもんねー」

 班長の補足に〈火矢〉と〈渦〉がダメ出しする。


 まぁ、そりゃそうかもしれないけど……


 「あの、さ、余裕があったらでいいんだけどさ、念の為にさ、【防火】と【灯】も、少しだけあったら、いいかな……と思うんだ」

 志方は、これまで雑妖に仕掛けられてきた不運の数々を思い起こし、恐る恐る提案した。

 皆が小さく首を傾げる。


 「えっと、あいつらさ、結構、電気系統にも悪さするんだ。電気来てるのに、誰も住んでない古い家ってことはさ、最悪、漏電火災とか……」

 「うわ、そうなんだ」

 「ヤバー」


 「じゃあ、六軒分、全部作ろ! 私、頑張るから! ね? ね?」

 志方の説明に、幼稚舎から居る〈雲〉、〈渦〉、〈火矢〉が驚く。〈(さかき)〉と〈樹〉は言われて気付いた程度で、反応は薄かった。


 〈榊〉が付け加える。

 「では、ついでに【灯】も、時間があれば作ろう。ブレーカーを落とされたり……いや、電気が来ておっても、蛍光灯があるか、わからんからな」

 普通に引越したなら、家財道具は残っていない筈だ。日中とは言え、古い家の中は暗いに違いない。


 暗い所であいつらとやり合うとかさ、無理ゲー過ぎんだろ……


 「何かあった時用にー、身代わり人形もー、欲しいけどー、時間ないからームリねー」

 「もっと早くわかってれば、よかったのにね」

 悔しがる〈渦〉に〈火矢〉が相槌を打つ。


 身代わり人形は、志方にも想像がつく。

 (やく)を肩代わりさせるヒトガタやカタシロの類だろう。

 ニュースで、流し(びな)の伝統行事を見たことがある。雛人形本来の用途だ。


 隣の班も喧々諤々(けんけんがくがく)、議論を重ねていた。


 国数理社共通語、生活、美術、音楽、保健体育。実技以外の試験勉強もある。

 呪符の準備にばかり時間を割けないのだ。


 自力で何とかすることと、呪符の力を使うことをどうするか、慎重に決めなければならない。


 先生が付いているから、幾ら何でも命に別条はないのだろうが、皆、なるべく痛い目に遭いたくないので、成績はさて置き、真剣そのものだ。


 「呪符の材料ってさ、どうやって調達するんだ? 書き方教えてくれたらさ、俺も手伝えるんだけど……」


 志方の申し出に〈雲〉と〈渦〉が答える。

 「羊皮紙と魔獣の消し炭は、呪符師(じゅふし)の〈(ふで)〉先生に分けて貰って、鶏の血は鳥小屋のを給食のおばちゃんに〆てもらって……」

 「お肉はー、後でカラアゲとかにー、してもらうのー」


 志方は思わず頬が引き()った。〈榊〉が窓の外に目を遣り、呟く。

 「魔力の充填には時間が掛かる。今日から書き始めねば、間に合わん」

 「皆がー、一度に作るからー、きっと(しばら)くー、おかずは鶏肉ねー」

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
碩学の無能力者」 中学時代の〈樹(いつき)〉が主役の話。
何故、国立魔道学院に入学したのかがわかります。
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