5.発掘発掘
翌朝、二人はまだ日も出きっていないような早朝から、小型のロボットがあるというところまで来ていた。
人が出入りするには大きすぎる入り口をくぐると、そこは広々とした洞窟になっていて、壁に青白い光の線が幾重にも張り巡らされており、照明の役割を担っていた。そして、この空間は瓦礫で満たされていて中央には、朽ち果てた中型の機械がある。
「やっぱり、ちゃんとあったかー。さ、行くよ」
コハルがベルクの返事を聞かずに、ベルクの手を取り、機械に駆け寄っていく。少しずつ近づいていく中で、ベルクは周りの瓦礫がロボットの一部だったものに思えてきた。それは確信に近い閃きめいたものではあるが、ほぼ正解だろう。
「うんうん! これこれ!」
「………これ動くんですか?」
ベルクの疑問は最もで、素人目にみると、形は残っているが風化でもしているような表面で、使えなくなって捨てられたように見える。
「これはね、そぎ取れるよ?」
コハルが慣れた手つきで、その辺の石を広い叩きつけた。すると、まるでパイが崩れるかのように風化していた層がパラパラと砕け、中から青銅色のボディが見えてきた。
「この色の子ってことは、RFTG-175M 頼轟 水陸両用タイプだね。わずか2m70cmの全長に合わせたかのような、流線型でずんぐりなボディのせいで、マスコット扱いを受けることもあるけど、後方支援用として用意された確かな火力に、脚部ローラによる荒々しくも比較的高速な機動力や、多少のダメージはナノメタルスキン合金による自己修復が可能な汎用機ではーかわたんすぎる。それでそれで」
「ちょ! ストップ!!!」
コハルが際限なく説明しそうだったので、ベルクは叫んで無理やり説明を止めるしかなかった。
「えっと……つまりこれ強いの?」
「本来は強いんだけどね、後方での攻撃支援機…移動砲台としての側面が強いから、本体が無事でも残り弾薬少ないだろうし、それが尽きたら手の生えた車ぐらいかな? 頼轟たんだけじゃちょっとね。しかも水陸両用なのに水中じゃご自慢の火力使えない欠陥機だし」
ベルクはいっそもう気が済むまで説明し続けてもらうことにした。聞き流していれば大丈夫だろう。
説明が始まってどれくらいの時間がたったのだろう。お腹のむしがご機嫌ななめに鳴き出していることから考えると、もうお昼頃ではないのだろうか。フラフラしてきた…いやこれはベルクがふらふらしているわけではない。地面が揺れているのだ。揺れに気付いたコハルは、満面の笑みから一転真面目な顔になって頼轟に乗り込んだ。
「私としたことが長くい過ぎたー。君は奥に行って、早く!」
「どういうこと? コハルさんは?」
「うっかりしてたけど、お昼になったから、ここのヌシが帰ってくるの。私は頼轟たんで時間稼ぐよ。その隙に奥にまだあるロボット……その中でこれだって思ったやつに乗って戻ってきて。インスピレーションとファーストインプレッションを信じて」
「それがあれば勝てるんですね?」
ベルクの問に、コハルは肯定とも否定とも取れる微笑みで返した。
その瞬間、二人の入ってきた道から巨大な機械で出来た赤いサイが飛び込んできた。サイは頼轟の十倍近いサイズがあるようにみえ、背中に大きなガトリング砲が2門取り付けてある。更に尻尾はドリル状になっており、武器になりそうだ。
コハルが頼轟を起動する。長い眠りから覚めたかのように、射撃武器らしきものが取り付けられた右腕を敵の方にまっすぐ向け、脚部ローラーが唸りを上げる。
「さあ、早く! 」
「生き延びてくださいね!」
ベルクは、コハルを背にして出来うる限りの速度で走り出した。