第9話 隠者の狐
感想を書いていただき誠にありがとうございます。これからも精進させていただきます。
しかし、他のキャラとの絡みを増やしたほうがいいのだろうか・・・。悩むところです。
「本当にすまなかった!」
ある程度愚痴って正気に戻った男は、腰を九十度に曲げて謝ってきた。
私はといえば、途中から採取したばかりの蜂蜜を舐めながら話を聞いていた。
これが本当の“舐めた態度”ってや・・
・・・はい、すいません。調子に乗ってました。
「・・・・次から気をつけてくれれば、それでいい」
「ああ、分かってる。悪かったな。こんな愚痴につき合わせてしまって」
この男は、意外と話の分かるいい大人だった。
「しっかし、お前はアイツから蜜を回収できるんだな。羨ましいぜ」
「・・・・好きこそ物の上手なれ、ですかね?」
「それはちょっと違うと思うぞ」
そう言って男は苦笑している。
苦笑とはいえ、辛気臭い顔をやめて笑顔になったのはいいことだ。
さて、どうするかな。
この男に関して、少し気になる事があるのだが・・・。
あまり目立ちたくないから放っておくべきか?
(くそっ、どうすっかな〜。確認の為にもやるべきか?)
私は葛藤する。
分からない事をそのままにするのはなんか気持ち悪い。
「それじゃ俺は王都に戻るよ。そんじゃな」
男が行ってします。
この期を逃していいのか?
「・・・・・待って」
「ん?なんだ。なんか言い忘れた事でもあるのか?」
「・・・貴方はこれからも冒険者を続けるのか?」
「・・・・言いたい事は分からんでもない。けど他に出来る事も無いんでな。才能が無くとももうしばらくは続けさせてもらうよ。たとえ死ぬ事になろうともな」
男は少し目つきが鋭くなり、拳を強く握ってそう応えた。
「・・・貴方は何故、使う武器に剣を選んだ?」
「え?け、剣?・・・・何故って言われてもな。やっぱりこれが基本的だったし使いやすそうだったからだな」
私の質問が意外だったのか、少しうろたえながら答えてきた。
「なんでそんな事を聞いてくるんだ?」
男は怪訝な顔をして聞いてきた。
「・・・・ここから先は他言無用。何があってもこの場の事を秘密にしてほしい」
「い、一体何なんだよ」
「・・・・私は面倒事が嫌い。私の事を誰にも話さないと約束してくれるなら、・・・話を続ける」
数秒間睨み合いが続き、男が観念したように両手を上げながら
「分かった。秘密にするよ。絶対に漏らしたりはしない」
そう答えた。
ここまでくればもう引き下がれない。
私は意を決して彼に話しかける。
「・・貴方に剣の才能は無い」
「ッ!!」
男の顔が苦虫を噛み潰したように歪む。
言われなくても分かっているといった感じだ。
そんなのは無視して話を続ける。
「・・・けれど、槍を扱う才能はある」
「はぁ!?」
今度は目を見開いて驚いている。
「・・だから槍系の武器を使う事を進める」
「ちょ、ちょっと待てよ!なんでそんな事がお前にわかるんだよ!?」
「・・・占い?」
「占いかよ!つーか、なんで疑問形!?」
「・・・チッ。・・ッセーな」
「舌打ち!?」
小さく言ったはずだが、彼には舌打ちが聞こえてしまった様だ。
数秒後、彼は落ち着きを取り戻したようだ。
「槍の才能・・・か。ホントにあんのかな」
「・・・・残念ながら絶対とは言い切れない」
「そうか・・・」
何処となく男の声には力が無い。
しかし、彼の眼には力強い光が僅かに灯っていた。
「・・・・・。そうだな。いっそアンタの占いとやらに騙されてみるのも一興かもな」
男は拳を握り、そう答えた。
「そんじゃ、今度こそホントにさよならだ。アンタの占いが当たったら美味い酒を奢ってやるよ」
そう言って男は王都の方角へと歩いて行く。
私はそれを静かに見送った後、森の奥へと入っていく。
木の上に登り、少し休憩する。
少し自己嫌悪してしまう。
目立ちたくないと考えているのにこんな妙な事をしてしまった。
まったくどうしようもない。
何度か深呼吸を繰り返し心を落ち着ける。
一応口止めもしたし大丈夫だと思いたい。
それに、これで彼が槍を剣よりも上手く扱えるようになれば実験は成功なのだ。
その成否が分かれば“この力”がどういう物かも分かってくる。
そうすれば使い所も理解できるはずだ。
そう自分を納得させて、私は宿へと帰るのだった。
そう言えば、お互い名乗るのを忘れてたな・・・。