第4話 作戦開始
夜の闇が辺りを包む森の奥深く。
山の麓にある大きな洞窟の入り口前の開けた場所で、辺りを篝火の炎で照らし、盗賊達は皆で酒を浴びるように飲んでいた。
(こういう展開が理想だったけれど、ここまで理想通りだと逆に疑ってしまうのは私だけか?)
そんな事を考えながら、私は盗賊達が酒を飲んでいる広場の全体を見渡せる木の上にいる。
自身の持つスキルを使って隠れながら、作戦開始のタイミングを待っている所だ。
その待っている間にも私の耳は盗賊達の聞くに堪えない会話を拾っている。
(・・・。どうやらゴーレム達が配置に着いたようだな)
私のゴーレム三体は指示した通り広場の盗賊達を囲むような配置に着いた
ゴーレム達の位置は盗賊達からはまだ距離があるが、近すぎてもばれてしまうからな。
さて、作戦を開始しよう。
私はウサギの革で作ったポーチから、予め作って置いた石を三つ左手で取り出す。
そして右手は指先まで真っ直ぐに盗賊の頭に向けて伸ばす。
魔法を発動させる。
これは自分の記憶から引っ張り出したものを使って改造した魔法だ。
〈ストーン・ブレット〉
本来ならただの石礫で、手で投げた方が楽だ。なんて言われるくらい不人気な魔法だ。
けれど、この世界の物とは違う記憶はこれに価値を見出した。
回転を加えることで生まれるジャイロ効果によってまっすぐ飛んでいく円錐形の兵器。
それをこの〈ストーン・ブレット〉を改造することで再現した。
もちろん実験は成功し、満足のいく威力を出せた。
円錐形の石は作るのに少し手間が掛かるので予め作ってストックしてある。
そんな円錐形の石は私の指二本分の大きさがある。
私はこんなものを当てられるのは絶対にごめんである。
そんな事を考えながら、魔法を発動させる。
すると手にある石が一つ、私の右肩の横の空中に移動して回転を始める。
そして、真っ直ぐ伸ばした右腕に魔力の一本道が出来る。
そう、この右腕は魔法の加速に使う。こうすれば普通に魔法を発射するより遥かに速度が出る。
まだまだ発動まで時間が掛かってしまうが威力はある。
そのまま盗賊の頭の顔面に狙いを定めて・・・撃つ!
ビュゥゥゥン
私の横を凄い速さで石が飛んでいく。
石は見事に顔面に命中し、盗賊の頭は首から上が無くなった。
盗賊の頭の肉片が飛び散り、首からは大量の血が噴き出している。
「うわぁあーーー!?」
「お、お頭ーーー!」
「な、な、何なんだ!?何が起こった!?」
「て、敵か?何処だ?何処に居る!!?」
盗賊達は大パニックになっている。
残念だがまだ終わらないぞ。
ゴーレム達は既に盗賊達に向かって走っている。
〈ストーン・ブレット〉を打つ直前に指示を出しておいたのだ。
ズン、ズンと足音を隠すことなく走り寄って行くゴーレム。
その足音に気付いたのか盗賊達は剣を持って辺りを見渡す。
そして遂に盗賊とゴーレムのご対面である。
盗賊達は三方向から自分達を囲むように現れたゴーレムに唖然とした。
その隙にゴーレム達は手に持った石のメイスで一番近くにいた者を潰した。
盗賊達は遂に半狂乱になってしまい、我武者羅にゴーレムに切りかかったり、その場で腰を抜かして座り込んだり、立ったまま乾いた笑いを出し続けたり等々、もはや地獄絵図だ。
その後は、私が何もせずとも盗賊達は全員ゴーレムに潰された。
何ともあっけない事である。
けれど、これこそが私が望んだ展開である。
その為に酒の飲んで浮かれている時に襲撃し、最初に頭を潰したのだ。
私は盗賊達の死体の山に駆け寄って、手早く彼らの武器を回収していく。
回収した武器は手早く空間魔法で作った〈アイテムボックス〉に投げ入れていく。
この〈アイテムボックス〉は本当に便利だ。
ファンタジー系のゲームでお馴染の、いくらでも入る不思議な道具袋そのものだ。
武器の回収が終わったら、次はアジトの中だ。
気を緩めることなくスキルを使い隠れながらアジト内を捜索する。
幸い中には誰も居らず、彼らが貯め込んだお宝を根こそぎゲット出来た。
目的の物を回収した私は、速やかにゴーレム達を〈ガレージ〉に収容する。
その結果三体いたゴーレムは姿を消し、死体の山だけが残された。
そして私は気配を殺し、素早く自分の住処に向かう。
住処まで来た私は辺りを警戒しながら入口を塞いでいる岩に指示を出す。
すると入口を塞いでいた岩は、自分の足で立ってその場を退いた。
住処に入った私は、入口の岩のゴーレムに入口を塞ぐ様に指示を出す。
入口を塞がれた住処は真っ暗になるが問題ない。
生活魔法の〈ランプライト〉を唱える。
空中に現れた球体は辺りを優しい光で照らす。
・・・ホント魔法って反則なくらい便利だ。
私はそのままいつも座っている場所まで行って腰を下ろす。
(・・・・・終わった)
作戦が無事終わり安堵の溜息を吐く。
そうだ。先程使った〈ガレージ〉について軽く説明しよう。
この〈ガレージ〉は、スキルのゴーレム職人と空間魔法の複合魔法だ。
ゴーレム関連に特化したスキルであるゴーレム職人の特性を〈アイテムボックス〉に付与したのだ。
その結果、自分が作ったゴーレム限定の特別スペースの出来上がりである。
実は、完成してしまった時凄く焦ったのだ。
なぜなら色々入れられる〈アイテムボックス〉が、ゴーレムしか入れられない〈ガレージ〉に変わってしまったからだ。
けれど、その後もう一回〈アイテムボックス〉の制作にチャレンジして、無事に完成した時は思わすへたり込むほど心底安堵した。
さて、今は一先ず休もう。戦利品の仕分けは明日だ。