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ジト目な狐は魔法使い。  作者: 大竹近衛門
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第31話 討伐依頼・その3



 王都から出発して約一日半。

 予定通りに目的の農村に到着した討伐隊一行。

 農村に設置されている冒険者ギルドの支部で大まかな手続きを済ませると、さっそく討伐の準備を始めるのであった。


 フェムティスは準備を進めている冒険者達をしり目に辺りを見渡す。


「・・・(意外と大規模な村だな)」


 村人が住む家の数をさることながら、畑の広大さに目を奪われる。

 そして村を挟んで反対側には森が広がっている。


「・・・(村の様子からして行っているのは農業と林業、そして森での採取と狩猟だな)」


 そういったことを洞察できるくらいには村には仕事に使う道具が配置されている。


 そうやって辺りを見回していると、見届け人の騎士が声をかけてきた。


「フェムティス殿、皆の準備ができましたのでそろそろ出発しますよ」


 騎士は柔らかな笑みを浮かべながらそう告げた。


「・・・了解しました」


 それに対してフェムティスはひどく事務的に答える。


「では行きましょう」


 そんなフェムティスに笑みを崩さずに対応する騎士。

 彼が歩き出すとその後ろをフェムティスがついていった。

 さぁ、これからが本番だという時。


「・・・(イケメンで人当たりもいい、言葉遣いも丁寧、あの若さで騎士になっている。多少の猫かぶりはあるんだろうが、たいそうモテるんだろうな〜あいつ)」


 フェムティスはそんな俗っぽい事を考えていた。





 フォレストトロール討伐隊一行は村近くの森の奥へと進む。

 討伐対象の位置はすでにギルドから知らさせているので、一行は周囲を警戒しながら目的地に向かって真っすぐ進んでいる。


 そして、計画通りトラブルも無く目的地手前に到着。

 偵察を行っていた騎士の部下が報告に戻ってきた。


「マイルペック様、目標を発見しました。奴らはギルドからの報告通りの位置で自分たちの住処を作っているようです」


「ご苦労、下がっていいぞ」


 騎士様もといマイルペックはそう言って部下を下がらせると、冒険者たちの方に向き直った。


「それでは皆さん、あとはお任せします」


 マイルペックがそう告げると、冒険者たちはそれぞれのパーティに分かれてフォレストトロールに突撃していく。




「・・・(おぉおぉ凄いもんだ、アクション映画みたいだ)」


 フェムティスは冒険者たちとフォレストトロールとの戦いを悠々と観戦していた。

 彼女の横には騎士のマイルペックと部下たちがおり、彼らもその戦いを見守っていた。


 フォレストトロールはギルドの報告通り三体。

 それぞれのパーティが一体ずつ引き受けて戦っている。


「・・・(まずは足への攻撃が基本か…、というか身長差のせいで足にしか攻撃できないんだよな。魔法や弓矢なら上半身に攻撃できるが)」


 冒険者たちはフォレストトロールの足元でちょこまかと動き、ひたすらに足にダメージを蓄積させていく。

 フォレストトロールもそんな冒険者を何とかしようと持っている丸太そのままのこん棒で潰そうとしたり、薙ぎ払おうとしたり、足で踏みつぶそうとしたりと必死な様子が見て取れる。

 冒険者たちはそんな攻撃を全て躱して攻撃を続ける。


「・・・(足は刃物で切られたり刺されたりして、上半身には魔法や矢が飛んで来たりでなんか酷いリンチのような光景だな。…だけど、あのデカブツの攻撃、一発でも受ければあいつら死ぬな)」


 一体の敵を複数人で攻撃している様は一方的に見えるが、そこには生物としてのスペック差があり、かなりぎりぎりの戦いがそこにはあった。

 冒険者たちの表情も真剣そのもの…、むしろ恐怖で張りつめているようだった。


「・・・(なかなかに見るべきものが多いな。この依頼を受けて正解かな。…というか正解ってことにしたい)」


 フェムティスは観察する。

 敵の強さ、冒険者たちの強さ、それぞれの戦い方を。


 そうこうしているうちにフォレストトロール達は倒れていく。

 膝をつけばいまだと言わんばかりに腹を裂き、脊椎に剣を突き刺し、下あごから脳に向かって槍を突き刺す。

 倒れこめばさらに追い打ちで滅多刺しである。


 フォレストトロール三体との戦いは終わった。

 何かトラブルが起きるのではと考えていたフェムティスだが、敵の強さも敵の数も周囲の魔物が戦いの最中に飛び込んでこないのも、すべてギルドの事前調査の通りであり、今回の討伐任務は計画通りに終わったといっていいだろう。


「・・・(なんのトラブルもなく終わったか。本当によかったよかった)」


 フェムティスは心底安心したが、隣に立っていたマイルペック達はそうではなかったようだ。


「マイルペック様、これは危険な状況かと思われます」


「うむ、そのようだな。これは急ぎ王都に戻り報告せねばなるまい」


 マイルペックと部下達は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。

 そして部下の一人が近くギルドへの伝令として走り出す。


「・・・(なるほど、フォレストトロールの一体の体が光の粒子になって空気中に消えていく。つまり、ダンジョンから出てこれるような個体が発生したということか)」


 本来ダンジョンに生息している魔物たちはそのダンジョン内でしか生息できない。

 ダンジョンの魔物が外に出れば肉体を維持できずに消滅する。

 それどころか自分が発生した階層より上に行こうとすれば、良くて弱体化、悪ければ消滅という結末が待っているのがダンジョンの魔物なのである。


 ではなぜ今此処にダンジョンの魔物が存在していたのか。

 それは外で活動できるほどの魔物を生み出せる強力なダンジョンがこの近くに在るということである。

 こういったダンジョンの危険性は、内部に強い魔物が存在している、強大な魔力を蓄えているなどではない。

 ひとえに外で活動可能な魔物をほぼ無尽蔵に、そして生物の基本である子供から大人への成長過程を無視して生み出し続けることにある。


 下手をすれば王国存亡の危機でもあったりする。


 フェムティスは自身の持っている杖を強く握り、その死んだ魚のような目の奥に確かな決意の炎を宿し、


「・・・(うん。さっさと逃げよう)」


 そう決めたのだった。



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