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ジト目な狐は魔法使い。  作者: 大竹近衛門
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第30話 討伐依頼・その2



 フェムティスが自身の目的及び目標を心の中で反芻している間に、キャンプの用意はすっかり完了し、今は騎士の部下達とナヤカ、他の冒険者パーティの中から手伝いに参加した連中がスープを作っていた。


 ほどなくして完成したスープを器に盛り、ナヤカが運んできた。

 そのスープから鶏がらの良い香りが漂い、中身には一口サイズに切られた鶏肉と野菜がごろごろと入っている。

 ナヤカは持っている二つの器の片方をフェムティスに渡すと、彼女の隣に座りスープを食べ始める。

 フェムティスも受け取ったスープの香りを楽しんだ後、心の中で手を合わせて『いただきます』と声を出さずに唱える。


「・・・(粉末スープの素を使った鶏がらスープ、ウマー)」


 ……そう、スープの素である。

 この!ファンタジーの世界で!スープの素である!!


「・・・(なんでやんとは思うが、あるんだからしゃーない)」


 彼女としては存在しているのなら仕方ない、程度の動揺ですんでいた。

 彼女以外の者達も実に旨そうにスープを食べていた。

 彼らからはこれが食べられてラッキーだなといった感じの空気を感じる。

 誰も彼もがスープを味わっていた。


「ん〜美味しいですね〜。さすがは軍に納品されてる品なだけはありますね」


 隣に座っているナヤカは実に幸せそうにスープを飲んでいた。

 彼女の言葉から推測すると、軍隊の方々は結構いい思いをしてそうだ。


 この世界では意外と食文化が進んでいる。

 ソーセージや干し肉などの保存食も種類が豊富だし、今回のスープに使われたようなスープの素もいくつもの種類がある。

 もちろん味の良し悪しも豊富だ。

 何せこれらのものはすべて人の手で作られているが故にかなりムラがあるのだ。

 これらを作っているのは大体が錬金術を使える人たちだ。


「・・・ムグムグ(この世界の錬金術は本当に金〔かね〕を作る職業だな)」


 錬金術ではポーション、保存食、インスタント食品などが作れてしまう。

 まず食いっぱぐれることは無いだろう。

 価値の低いものを加工することで価値の高いものに変える。

 もうこれだけで生きていけるだろうなと思ってしまう。


「・・・ゴクン(つまり今の私でも人里で職に…いや、金を得る方法には困らないということか)」


 とはいえ、錬金術を扱える人がどの程度いるのかがはっきりしていない現状では希望的観測に過ぎるというものだ。

 スープの素だってどういった体制で作っているのかも詳しく調べていないのだから。

 一人が大量に作っているのか?

 少ししか作れない人が大勢で協力しているのか?

 作れる人が少なく、作れる量も少量なのか?

 分からないことはまだまだたくさんある。


 いざという時の金策に考えを巡らせていれば、すでに食事は終了し、寝る時間となっていた。

 フェムティスは相も変わらず周りの人とのコミュは最低限以下にし、夜の見張りなどは免除されているのでさっさと眠りにつくのであった。

 そんな彼女を周りがどう思うか………というのは彼女も織り込み済みでもこの行動なのであった。

 彼女に与えられた仕事は荷物持ちである。

 彼女は徹頭徹尾その仕事しかしないと、全力でアピールしていくのであった。



 翌日の早朝。

 一団は目的地に向けて出発した。


 フェムティスは周囲から軽く孤立した状態になっていた。

 昇格がかかった冒険者達と騎士様の部下達からは邪魔にならないモノとして扱われていた。

 彼女のサポートをするように言われているナヤカだけは彼女をちらちらと伺う様子を見せてはいるが、どう接していいのか分からず戸惑っていることが窺える。

 フェムティス自身はこの扱いにとても満足していた。


「・・・(うん、すごく落ち着く)」


 今の状態こそ自分自身の慣れ親しんだ環境だとでもいうかのごとく、彼女は安らいでいた。


 しかし、この状態をよく思わないのが二名いた。

 責任者の騎士と彼女のサポートについているナヤカである。

 この二名は今回の依頼とは別の仕事も引き受けているのだが、その仕事の内容上この状態はよろしくない。

 さりとて現状を変える手段もなく、結局は傍観するしかないのであった。


 彼と彼女のもう一つの仕事、それはまず第一に親しくなること、第二にフェムティスの実力の調査である。

 フェムティスの実力は未だに未知数なれど、今現在分かっている力量だけでも十分に利用価値があると、国やギルドは判断しているのだ。

 そのうえでまだ力を隠しているとなれば彼女の価値はさらに高まる。

 故にフェムティスとの距離を少しでも縮めておきたいのだが、彼女はひたすらに後ろに下がっているのが現状だ。

 質問などをしてくれれば話を広げる切っ掛けになり、そこから彼女との親密度を上げることもできるかもしれないのだが、肝心の彼女は質問すらしてこないのではお手上げだ。

 こっちから話を振ろうにも情報が不足しすぎている現状では何時彼女の不評を買うかも分からないので、そんな博打じみたことは避けたいのだ。


 この状態はフェムティスがひたすら情報隠ぺいに腐心した成果ともいえる。

 複数の勢力が彼女を狙ってはいるが、情報不足で動くに動けない状態が続いており、他の誰かがさっさと生贄になって情報を集めてくれないかなと各勢力がファーストコンタクトを譲り合うということになっていたりする。


 何はともあれ、もう少しで目的の農村に到着する。

 フォレストトロール討伐依頼の大詰めだ。


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