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ジト目な狐は魔法使い。  作者: 大竹近衛門
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第27話 真っ白だけど真っ黒



 フェムティスはライアンとマウロに案内されてアイーダの部屋に入った。

 部屋の中のベッドには熱にうなされているアイーダが居た。

 彼女の顔には所々に大小の赤い斑点まであった。


 見るからに容体は悪そうだ。


 そんな彼女をマウロが軽く起こして、ライアンが特効薬を飲ませる。

 フェムティスはその様子をじっと視ていた。


 フェムティスが態々ここまで来たかと言えば、作った特効薬でどういった現象が起こるかを視たかったからだ。


 アイーダが特効薬を飲み終えるとマウロはゆっくりと横にさせる。

 十秒ほど経ったら彼女の身体が徐々に淡い光に包まれていった。

 その光りは五秒ほど続き、徐々に治まっていった。


 そして、アイーダの病気は無事に完治した。


 先程まで苦しそうにしていたのが嘘の様に回復していた。

 赤い斑点も綺麗さっぱり無くなっている。


 フェムティスは無表情ではあるが心の中では目ん玉が飛び出るほどに驚いており、尻尾だけがピンと伸び、毛はぶわっと逆立っていた。


 ライアンとマウロの二人はアイーダの病気が治った事に素直に喜んでいた。

 アイーダもそんな二人にありがとうと言っていた。

 二人はフェムティスが特効薬を作ってくれた事をアイーダに伝え、三人揃ってフェムティスに頭を下げながら感謝した。

 フェムティスは三人から頭を下げられるとフイッと顔を逸らしながら「・・・ん」と一言言っただけだった。

 フードの所為で表情こそ読めなかったが、フェムティスの仕草に三人は軽く苦笑してしまい、彼女ににジトっと睨まれるのだった。




 フェムティスはライアン、マウロ、アイーダの三人に連れられて宿から近い酒場に来ていた。


 注文した料理と酒が運ばれてくるとアイーダは物凄い勢いでそれらを口の中へ放り込んでいく。


「・・・(病気に関するその他諸々も前世の常識とはかけ離れているな)」


 フェムティスは食べ物で頬を膨らませているアイーダを見ながらそう考えていた。

 ちなみにフェムティスは水を、他の三人はブドウ酒を飲んでいる。

 皆それぞれ言いたい事や聞きたい事があったが、先ずは飯を食って腹を満たそうという事になり、こうして食べる事に集中している。


 四人が平和な時間を過ごしていると、酒場に複数の衛兵が入ってきた。

 衛兵達はフェムティス達の近くまで来ると足を止めた。

 その中で一人だけ装備が少し違う男が一歩前に出る。

 外見はなかなかの鋭さがある男前で、ベリーショートの金髪だ。

 身長は185?前後といった所だ。


「私は衛兵隊隊長ジョアン・ウィンスレットである」


「で?その隊長さんが俺達に何の用だよ。こちとら気分よく飲んでる最中なんだけどな」


 酒で顔を赤らめたライアンが真っ先に噛みついた。


「貴様らには用は無い。用があるのそこのフェムティスとか言う獣人の女だ」


 衛兵隊隊長ジョアンがフェムティスに目をやりながらそう答える。

 それにつられてライアン達も彼女を見る。


「・・・私に何の用?」


 彼女は慌てた様子を一切見せない。


「貴様にはこの王都に疫病を蔓延させた容疑が掛かっている」


 ジョアンはニヤリと笑いながらそう言った。


「な!?ふざけんな!!んなわきゃねーだろうが!」


 ライアンはテーブルを強く叩きながら声を荒立てる。

 マウロとアイーダの二人も殺気を隠しもせずにジョアンを睨みつける。


 テーブルの周り、それどころか店全体がとても静かになり、ピリピリとした空気になる。

 そんな中でフェムティスだけは落ち着いていた。


「・・・(ありきたりだな〜)」


 彼女にとってこの程度は想定の範囲内でしかない。

 そんな緊張感の欠片も無い彼女を余所に辺りは一触即発である。


「我々とて犯人が大人しく白状するとは思っていないのでな。無駄な時間を省くためにこの『真偽の宝珠』を使用する許可を既に取ってあるのだよ」


 そう言ってジョアンは部下が持っていた箱からそれを取り出す。

 乳白色の綺麗な球体の両脇に取っ手の付いた、真実か虚偽かを判定する魔道具。

 …簡単に言えば嘘発見器である。


「「「っ!?」」」


 ライアン達はそれを見て息を飲む。


 その魔道具を使われた場合、犯人側には情状酌量の余地などは一切無くなり、尚且つ『真偽の宝珠』を使用するまで自白しなかったという罪状まで追加され、罪がさらに重くなる。


 ライアン達は『真偽の宝珠』を見てうろたえるが、フェムティスはただじっと視る。


「・・・(偽物…か。これもありきたりっと)」


「さて、どうする?獣人の女よ。大人しく自白するか、宝珠でもってはっきりさせるか…。好きな方を選べ」


「・・・宝珠を使って」


「…ほぉう」


 フェムティスがそう答えると、ジョアンは笑みを深め瞳には濁った光が宿る。


「おい。大丈夫なんだよな?」


 ライアンが心配そうに聞く。


「・・・何も問題ない(闇属性・浸食魔法〈エル・ガジェック〉待機)」


 フェムティスが軽く頷くと三人も頷き返す。


「では取っ手部分をしっかり握りたまえ」


 ジョアンは片方の取っ手を握り、フェムティスにもう一方の取っ手を向けて言う。

 フェムティスはそれに応えるようにしっかりと取っ手を握る。


「・・・(魔法発動、浸食開始。)」


「さて獣人よ、心の準備は出来たか?」


 僅かに笑みを浮かべたままのジョアン。


「・・・大丈夫。始めて(浸食完了。これでこの魔道具はこちらの意のまま)」


 無表情でそう返すフェムティス。


 酒場に居る客たち全員が固唾をのんで成り行きを見守っている。


「では始めよう。フェムティス、貴様は疫病を蔓延させた犯人か?」


「・・・いいえ」


 真実の宝珠は………色を変えずそのままだった。


「「「いよっしゃーーーー!!」」」


 ライアン、マウロ、アイーダは揃って雄たけびを上げた。


「・・・(アイーダさん、喜んでくれるの嬉しいがその雄たけびは女性としてどうなの?)」


 フェムティスは呆れ気味に三人を見る。

 彼女がジョアンをチラッと見ると、彼は目を見開いて固まっていた。

 しかし、彼の顔はすぐに申し訳なさそうなものに変化した。


「いやはやどうやら貴方は無実だったようですな。職務だったとは言え、不快な思いをさせてしまって申し訳ありません」


 そう言ってジョアンはフェムティスに対して深々と頭を下げた。

 若干早口になってしまっているようだ。


「・・・気にしてない。・・・けど、二度目は許さない」


 フェムティスもジョアンにそう告げる。


「そう言っていただけて幸いです。今後はこのような不手際が無いように努めさせていただきます。こちらは迷惑を掛けた事へのせめてものお詫びでございます。さあ、引き上げるぞ」


 そう言ってジョアンと衛兵達は酒場から逃げるように去っていった。

 渡させたのは小さめの袋で、中には大銀貨が五枚入っていた。


「いや〜よかったよかった!俺はお前の事信じてたブゲァ」


 テンションが高くなったライアンがフェムティスに抱きつき、即座に彼女が彼の顔面に拳を撃ち込むというコントが発生していた。


「がっはっはっは。ライアンは相変わらず馬鹿じゃの〜」


「ホントホント。いきなり抱きつくとか失礼過ぎだっての」


 マウロとアイーダはそんな様子を見て大爆笑。



 少しトラブルがあったが、この楽しい時間はもう少しの間続くのであった。






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