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ジト目な狐は魔法使い。  作者: 大竹近衛門
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第26話 不審者と薬


 フェムティスはマウロ達が泊まっている宿の一室に案内された。


「いきなりライアンがすまなかったな。まぁ座ってくれ」


 マウロに促されて彼女は部屋にあった椅子に座る。


「・・・それで、何か用なの?」


 彼女はフードで顔を隠したままそのジトっとした目で彼らを見る。



 彼らにとって、彼女は本当に謎の存在だ。

 もっともそれは他の冒険者達にとってもそうだろうが…。

 彼女は一貫して顔を隠しており、今着ているゆったりしたローブの所為で体つきも判らない。

 特に顔はフードですっぽりと隠し、口元はローブの襟かマフラーかで隠されている。

 それに加えて魔法でも付加されているのか、顔をはっきりと認識出来ない様になっていた。

 ただ、目だけは他よりも認識できるのそのジトっとした目つきの悪さが際立つ。

 他に判る事と言えば身長と、外に出している尻尾の形から狐型の獣人である事、そして声などから判断して年若い女であるという事くらいだ。



「あ〜、えっと…その…何だ。何処から説明したらいいんだこれ?」


 ライアンは目を泳がせながら必死に考えを巡らす。


「お前……。ホントに何も考えてなかったのか」


 ライアンの隣に座っているマウロは心底呆れたように溜め息をつく。

 マウロは選手交代だと言わんばかりに説明を始めた。


「今この王都では疫病は蔓延しているのは知っているか?」


「・・・詳しくは知らない。・・・大体なら」


「ふむ。まぁそんなに詳しくなくても問題は無い。ではその疫病の特効薬が完成しているのは知っているか?」


「・・・さっきの騒ぎでその事は分かった」


 フェムティスはマウロの質問に何処となく声を出しずらそうにしながら答えていく。

 そこでライアンが再起動する。


「でだ。お前ってポーション作れるよな?」


「・・・ん」


 ライアンの質問に対し彼女が頷く。


「実は俺達の仲間の一人のアイーダが疫病に罹っちまった。特効薬の材料になる花は手元にある。だが今の王都では材料を持っているからと言って特効薬が手に入る訳じゃないんだ」


「・・・」


 ライアンは手を強く握りしめ、その様を彼女は黙って見ている。


「アイーダの容体はよくねぇ。すぐにでも薬が必要だ。けどすぐに手に入れる方法が俺達には無い」


「・・・私に特効薬を作ってほしいと?」


 ライアンとマウロの表情がここからが正念場だと言わんばかりに険しくなる。


「ああ、そうだ。無理を承知で頼む!」


「・・・いいよ」


「っ!?ほ、本当か!?」


「・・・ん」


 思わず立ち上がって確認してくるライアンにフェムティスはしっかりと頷いてみせる。

 二人の顔が晴れやかになる。

 予想では断られると思っていたが故にあっさりと了承を貰えたのは行幸だった。

 そして彼女の気が変わらないうちにと考えたのかマウロがさっそく動きだす。


「よし!そうとなれば一刻も早く製法を調べるとするか!」


「え?」


「………。おいライアン、まさかいきなりフェムティスの嬢ちゃんに作らせようとした訳ではあるまいな」


 マウロは怒気を発しながらそう詰め寄る。


「い、いやでも、い、今作ってくれるって…」


「ああ、それは俺も聞いた。だがこの嬢ちゃんは製法を知らないんだからそれを先ずは知る所から始めなければなるまい」


「う……ま、マジかよ…。すぐに治してやれると思ったのに」


「落ち込んでる暇は無いぞ。順番待ちするより早く手に入る方法はこれしかないんだからな」


「・・・ねえ」


「嬢ちゃんは心配しなくていい。若干非合法な手段を取るかも知れんが嬢ちゃんには絶対に迷惑はかけん」


 マウロはそうフェムティスに言う。

 彼の眼には揺るがない決意の炎が宿っていた。

 それはライアンも同様だった。


「ああ、そうだな。お前はいつでも薬を作れるように準備して待っていてくれ」


 彼らは意を決して行動を開始しようとした…が。


「・・・特効薬なら作れるから・・・早く材料を渡して」


「「え?」」


 二人が同時にフリーズする。


「お、お前…作り方知ってたのか?」


 ライアンがおずおずと聞いてくる。


「・・・さっき薬を視たから・・・大丈夫」


「み、見たからって………それで作れるもんなのか嬢ちゃん」


「・・・ん」


 目が点になっている二人に力強く頷いて見せるフェムティス。

 二人は何処となくばつが悪そうに静かに腰を下ろす。


「・・・材料は?」


「ちょっと待ってな」


 ライアンは部屋に置いてあった荷物の中から拳二つ分ほどの小箱を持ってくる。


「これが材料の『リカシヤの花』だ」


 そう言って彼は木箱のふたを開ける。

 中には黄色い筋の入った赤い花びらを持つ花が入っていた。


「・・・テーブル借りるよ」


 フェムティスはそう言って花の入った箱をテーブルに置き、次々と何も無い所からポーションの材料を取り出していく。

 そして、フードを脱ぎ、口元を隠していた布を退けて特効薬の製作に取り掛かった。


 ライアンとマウロの二人はその様子を口をあんぐりと開けながら見入っていた。

 ただし見入っていたのはポーションの製作工程ではなく、彼女の素顔の方である。


 冒険者達の間でもある種の問題になっていた彼女の素顔。

 顔を隠すのは酷い怪我があるからだとか、ブスだからだとか、はたまた賞金首だからだとか色々言われてはいた。

 だが、今目の前にある彼女は凄い美人であった。

 歳が若い故に幼さが大分残っているので美人というよりも可愛いという方が正しい。

 しかし、もう少しすれば大層な美女になる事は間違いない顔だ。

 今までは目つきが残念だと思っていたが、これほどの美人であるならその目つきでさえも一種のステータスになってしまうほどである。

 ついでにこんな美人が手配書に載っているのは見た事が無いので、賞金首でないのは確かだった。


 二人がそんな美しい顔立ちを食い入るように見ている間に特効薬の製作は終了していた。


「・・・終わったよ、って・・・どうしたの?」


 フェムティスは未だに呆然としている二人に問いかける。


「……お前ってスゲー美人だったのな」


 ライアンは自然とそんな事を口走ってしまう。

 あまりのショックに頭が働いていないようだった。


「・・・!?」


 フェムティスは若干慌てたように頭に手を当てる。


「・・・つい癖でフード取っちゃった」


 彼女が小さな溜め息をつきながらフードを被り直す。

 ちなみにここまでのやり取りで彼女が顔を赤らめるといった可愛らしい反応は皆無であった。


「・・・はい、これが薬」


 フードを被り直していつも通りに戻ってしまった彼女が薬を差し出してくる。


「お、おう。ありがとよ」


 ライアンが今更気まずそうに目を逸らしながら薬を受け取る。


「まったく。何を情けない対応をしておるのだ。もっと堂々としていればいいだろうが」


「うっせーぞマウロ!」


「まあいい。アイーダは隣の部屋に居る。嬢ちゃんも一緒に来てくれると有り難いんだが…」


「・・・分かった。・・・私も作った薬がちゃんと効くか見届けたい」


「そう言ってくれると有り難い。案内しよう」


 そう言ってマウロとフェムティスは


「ちょっ、お、おい、置いて行くなよ!」


 薬を持ったライアンを置いてアイーダの部屋へと向かって行った。




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