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ジト目な狐は魔法使い。  作者: 大竹近衛門
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第24話 山の頂上にはロマンがある



 数日掛かってしまったが、なんとか目的の頂上に到着した。


 私は今、自分の立っている場所から見える光景に心を奪われている。


 標高が高いが故の澄んだ空気と空。

 眼下に広がる雲海。

 悠然と立ち並ぶ遺跡。


 前の世界でもこういった観光名所があるのは知っていたが、こうやって直に目にするとこうも圧倒されるものなのか…。

 前世では観光した回数なんて片手で数えられるが、そんな私でもこの景観は素晴らしいと感じる。

 これを観れただけでも来たかいがあるというものだ。

 私はその場から動かずにその光景をしばらくの間眺めていた。




 さて、素晴らしい景観は存分に堪能したので、次の行動を開始しよう。


 ここの遺跡は、人の住んでいた町だった事がはっきりと判る。

 そして、この遺跡の奥には宮殿と思しき建物がある。

 その宮殿からは濃厚な魔力が感じられる。

 …何かが居る、もしくは、それほどの魔力を放つ魔道具があるのかもしれない。


 何はともあれ慎重に進まなければならない。


 私は四体のゴーレムを出す。

 彼らにはかなり手を加えており、身長二メートル弱の全身鎧の人間の様なフォルムになっている。

 関節部がなめらかに動くように前世の拙い知識をなんとか使って完成させてある。

 ………魔法って便利ですよね、いやホント。

 はっきり言って魔法の世界だからなんとかなったようなもので、前世では絶対に無理がある設計だったと思う。


 話を戻そう。


 私は四体のゴーレム達と共に宮殿へと進む。

 辺りからは何も気配も魔力の反応も無いが油断はよくない。


 しかし、本当にこんな空中都市の様なものがあるとは…。

 後、ここってかなり空気中の魔素が濃い。

 そのおかげなのか知らないが、標高の高い場所にも関わらず息苦しいといった事は無い。

 …だがまてよ。

 私はこの場所の酸素濃度なんて調べる事は出来ない。

 標高が高いからここは酸素が薄いと、勝手にイメージしているが本当にそうなのだろうか?

 以前の世界なら確実に酸素濃度は薄いのだろうが、生憎とここは魔法が存在しているファンタジーな世界だ。

 以前の世界の化学的常識が通用する保証は無い。


 あの別荘に居る時にある実験をした事がある。


 それは腐葉土に関する実験だ。

 あの森の中で生活している時に地面を掘り返して、腐葉土を探したのが事の始まりだった。

 腐葉土を使い畑で植物を育てようとしたのだが、探せど探せど腐葉土は見つからなかった。

 故に、創造魔法という錬金術の上位版のスキルを使って腐葉土を錬成したのだ。

 …ただし、それがあの世界の腐葉土とまったく一緒という保証は無いのだが。


 とりあえず、便利すぎるスキルによって腐葉土は手に入れた。

 少し育っている植物が植えてある植木鉢に、その腐葉土を混ぜて経過観察をした。

 そうしたら植物は腐ってしまい使い物にならなくなった。


 あの時は本当にビックリした。

 他の植物でも実験したが、全部が腐ってしまった。

 この世界において腐葉土は『養分が豊富な土』では無く『腐った土』でしかないのだろうか?

 ゲーム的に言えば、腐葉土は『腐敗』の属性を持った土という事かもしれない。


 以上の様に、この世界で軽々しく前世の科学的常識でものを考えるのはとても危険だ。


 ……フム、考え事をしていたら宮殿の入口に着いてしまった。

 まったく、油断してはいけないと言っておきながらすぐこれか………。

 まぁ何も無かったし、ゴーレム達を出しているのだからいいか。


 こんな狭い土地だから仕方ないといったところだろうか。

 宮殿はなかなかに凝った装飾が施されていたが、中はさほど広くも複雑でも無かった。


 入口から宮殿に入り、最初の廊下を進んだ先は玉座の間だった。


 荘厳さがありながら派手ではない。

 大きな複数の窓から陽の光が差しこんでいる。

 そんな場所だった。


 この玉座の間には魔力を発している物は無かったが、玉座の辺りから魔力が漏れ出ている事が判った。


 私はゴーレム達に周囲の警戒を任せて玉座を調べ始める。


 一分弱で調べ終わった。

 相も変わらず『スキル』とは便利なものである。

 玉座の後ろには両脇に鳥を模した石造があり、その片方にレバーが備え付けられていた。

 そのレバーを動かすと、玉座の真後ろに当たる壁の一部がゆっくりと透けていくように消えてしまい、その先には下へと続く螺旋階段があった。


 ……下から例の魔力が流れてくる。


 ゴーレム達を一旦〈ガレージ〉に戻して、辺りを警戒しながら階段を下りていく。

 螺旋階段の周囲には松明の様なものがあり、その松明は燃えておらず蛍光灯の様な光で階段を照らしていた。

 階段を下りている途中で入口が閉まったのが判ったが、ここまで来たのだから中途半端で引き返すつもりは無い。

 …万が一の脱出方法が使えるのは判っているしね。


 警戒しながら階段を降り切ると目の前には扉があり、その先には人が五人ほど並んで歩けるような廊下が続いていた。

 その廊下もやはり蛍光灯の様な松明で照らされている。


 廊下を進んで行くと頑丈そうな両開きの扉があった。


 私はゴーレム達を二体出してから、その扉をゴーレムの一体に開けさせる。




 その部屋には山のように財宝が積まれており、その中央の台座には禍々しい気配を漂わせる魔導書が祀られていた。


 私は財宝よりもその魔導書に目を奪われていた。

 部屋に足を踏み入れると溢れ出ていた魔力がピタリを止まった。

 溢れ出る魔力が止まったとしても、目の前に居る私にはその存在感を否応なく認識させられる。


(まるでこの魔導書自体が私を呼んでいたかのようだ)


 ついついそんな風に思ってしまう。

 私はその魔導書を、スキルの一つである〈解析の魔眼〉を使って何度も繰り返し調べた。


 とりあえず自分に害が無いのは理解できたので、魔導書を手に取り読んでみる。

 思えばこういった本格的な魔法関連の本は初めてであり、興奮のあまり尻尾が左右にブンブン動いてしまっている。


(うわぁ〜お。これは凄いや)


 本を読んでいると摩訶不思議な体験をする事になった。

 一ページの中に一ページでは到底収まりきらない量の情報が存在していた。

 パソコンを例に使うなら、一ページが一つのフォルダーであり、その中に複数のテキストや図形、グラフ、はたまた動画などが入ってる、といった感じだろうか。


 私は周囲の財宝など気にする事も無く財宝の上に無遠慮に腰をおろし、夢中になって魔導書を読み耽るのであった。




◇◇◇◇◇◇




 所変わってここはサーレマール王国の王都。

 ここでは疫病への対応に追われていた。


 一先ず国が中心となり、冒険者ギルド、魔導師ギルド、商人ギルドなどの組織が疫病事件解決の為に尽力していた。


 今では患者の症状を抑えられる成分が特定されて、その成分を含む植物の採取が冒険者の主な仕事になった。

 そのお陰で治る患者もいるのだが、未だに特効薬と言えるものは見つけられていない。


 今回のこの騒動では王都内は勿論、近くの町や村から『ポーションを製作できる者』をかき集めており、恩賞があるとはいえブラック企業ばりの過酷な労働を強いられていた。

 余談だが、冒険者ギルドはこのポーション製作者の重要性をある程度予想していたのだが、目当ての人物を一人取り逃した事を悔しがっているとかいないとか。


 何はともあれ、疫病はある程度抑える事は出来たのだが、解決への決定力が不足している状態だった。


 そんな大事件の真っ最中でもドロドロとした思惑というものは元気なもので、特効薬を見つけた功績とか名誉とか、特効薬を独占販売できた時の儲けとかを舌なめずりをしながら夢想する輩がいるのであった。

 その影響で事件解決に向けて国と複数の組織が一丸となって動いているように見えてはいるが、その裏では複数のグループがあらゆる手を尽くしながらしのぎを削っている。

 けれどそのお陰で事件解決への歩みがどんどん加速しているというのは、なかなか皮肉なものだ。


 冒険者ギルドのマスターも事件解決の日は意外と近いと考えていた。



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