表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジト目な狐は魔法使い。  作者: 大竹近衛門
23/31

第23話 興味の赴くままに



 背の高い木々が生い茂る山岳地帯の奥深く。

 この辺りに生息している魔物や魔獣はかなりの強さを持っており、今の時代の人間達は近寄ることすら出来ない地域である。

 そんな危険な山の中に、周囲の景色に溶け込むようカモフラージュが施された石造りの家があり、その近くにある石造りの小屋の煙突から煙が上がっていた。




 どーも、皆さん。フェムティスです。


 私は今、小屋の中で尻尾を左右にパタパタ振りながら燻製肉を作っています。

 一度に大量に作れるように専用の燻製小屋まで建てました。

 使っている肉はこの辺りに生息していた魔獣の肉で、燻煙材にはリフル(リンゴに近い果物)の木があったのでそれを使っている。


 〈アイテムボックス〉を使っていれば食材は腐らないのに、なんで燻製なんか作っているのかと思うかもしれないが、それについては

・〈アイテムボックス〉の中身が腐らないという絶対の保証は無い

・燻製ならすぐに食べられる

・個人的に燻製が好きだから

・他の人に譲る可能性が無きにしも非ず

という理由が有ったり無かったりする。


 まぁ、そんなこんなで私は果実、山菜、薬草、毒草、食用茸、毒茸などを採ったり、魔獣を仕留めて肉や皮を剥いだり等々、山での自給自足の生活を満喫している。


 山の幸を食べ放題とかもう最高です。


 こういった山暮らしは昔からやってみたかった事なので、この生活を何不自由なくこなせるスペックの高い体と、魔法というトンデモ技術にはどんなに感謝してもしきれません。

 そんな訳で、少し前から食材への感謝は当然として、この体と、居るかどうかは分からないがこの世界へと転生させてくれた存在へ感謝の祈りを捧げております。


(この山暮らしも大体三週間くらい経つのでしょうかね)


 私は燻製の火の番をしながらこれまでの事とこれからの事を考える。

 家の中に家具も入れた、修行は欠かさずにこなしている、〈アイテムボックス〉の中も整理整頓した、必要な道具の製作とゴーレム達の強化やメンテナンスも完了している。

 この燻製が完成したらとりあえず準備完了と言っていいだろう。

 そうとなれば以前から気になっていた場所へ行ってみるつもりだ。


 その場所は山頂が雲に隠れるほどに標高が高い山脈。

 この別荘がある位置からさらに奥、サーレマール王国からさらに遠ざかる事になる場所が目的地になる。


 何故その場所かと言えば、そこから濃い魔力反応があるからだ。

 しかもその反応は闇に属する反応だった。

 雲よりも高い山頂からそんな反応、…これはもう何かが有るのは確定だろう。


 人が足を踏み入れない奥地。

 雲よりも高い山の頂。

 遠くからも分かる濃い闇属性の魔力。


(これを無視したら漢じゃねえ!)


※フェムティスさん、貴女は女性です。


 …何か聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだろう。

 私は出来上がった燻製を燻製窯から取り出し、冷ます為の場所にセットしながら今後の方針を決定した。

 今出来た燻製は一晩置いておいて、明日の朝に回収してそのまま出発するとしようかな。


「・・・後は、持ち物の再点検だな」


 そう言いながら、私は燻製小屋から出て家に戻った。





 現在、私は目的の山頂を目指すべく進んでいる。


 前世も含めてこんな高い山に登るのは初めてなので、わくわくが止まらない。

 心臓の鼓動も早く、呼吸もテンポが早く一つ一つが浅くなっている。

 ………うん、少し休憩しよう。


 私は近くの岩陰に身を潜め、休息をとる。


 しかし、登山は過酷なものになるだろうと予想はしていたが、その予想を上回る過酷さだ。

 当然と言えば当然だが、この山には道なんて存在していないし、目的地に行くためのルートを自分で開拓しなければならなかった。

 少し進んだら通れるような場所が無くて引き返したことだって、数えきれないくらい繰り返した。


 私は深呼吸を繰り返し、いつも修行でやっているような精神統一を始める…とは言っても、これを精神統一と言っていいのかは分からない。


 体内に存在する魔力に意識を集中し、その魔力が血液の如く体中を廻る事をイメージする。そして、空気中に存在している魔素を体内に取り込み自分の魔力と同化させていく。

 これをすると本当に魔力が体の隅から隅まで廻って行くような感覚がして、マッサージの様で最高に気持ちいいのだ。

 春の麗らかな日差しの下で日向ぼっこをしているかのように、全身がぽかぽかとしてくる。


 こういった事が出来るようになったのは比較的始めの頃だ。

 考えても見てほしい。前世では全く存在していなかった『魔力』なんてものが体の中に存在しているのだ。

 体の方はその事を普通と感じてはいるが、精神の方はその異物感に発狂寸前だった。

 とは言え、その異物感があったからこそ魔力を細かく操作したり出来るようになったのは有り難かった。

 そんな事情もあって、こういった魔力操作はかなり得意になった。


 さて、山登りで疲れた体も早々に回復したので話を戻そう。

 この山登りで大変なのは何も険しい道だけでは無い。

 ファンタジー世界よろしくモンスターどもが居るのだ。

 それこそ自動車サイズの火を拭くイグアナとそれと同じくらいのサイズのサソリ、お馴染のワイバーン、胴体だけで軽トラ並みの極彩色の鳥等々、危険生物には事欠かない。

 ……まぁ、鳥は非常に美味しかったがな。


 何はともあれ、ここまで上っただけでかなりの収穫だった。

 先ほど述べた魔獣達の素材や、薬草や毒草、鉱石などが結構な数手に入った。

 これだけでここに来た甲斐あるってものだ。

 ギルドなどで売ればしばらく何もしなくても暮らしていけるだろう。


 あぁ、丁度いいから今のうちにこの世界の鉱石に触れておこう。

 はっきり言って、この世界の鉱石は"勝手に生えてくる"のだ。

 硬い岩の表面に植物の様に生えているのを見つけて、しばらく思考が停止したのはいい思い出です。

 本で読んだ限りでは、他にも岩の一部が鉱石に変化したりする場合もあるそうだ。

 これらは、その場の土属性の魔素の量や質が関係しているのだとか書いてあった。

 ただまぁこの世界にも鉱山があり、そこを掘って鉱石を採取するという方法の方が一般的だし採取量も多い。


 …話を戻したはずなのにまた脱線してしまった。


 燻製肉で腹を満たし、水で喉を潤したら出発しよう。

 山頂には何があるのか…期待通りの物があると嬉しいのだが、今から楽しみだ。




◇◇◇◇◇◇




 時間は少し戻って、フェムティスが楽しそうに尻尾を振りながら燻製肉を作っていた頃、サーレマール王国の王都では、疫病の被害が広がってた。

 スラム街だけだったこの疫病騒ぎは封じ込めと早期解決に失敗し、平民達が住む区画にまで広がってしまった。


 事態を重く見た国の上層部は各方面に早期解決を呼びかける。

 冒険者ギルドにも、必要とされる薬草やポーション、解毒剤などを求める依頼書が所狭しと張り出された。

 それどころか、この疫病問題そのものを解決してほしいというような依頼まで張り出されていた。


 この事態に冒険者達は、稼ぎ時だと喜ぶ者、疫病を恐れて逃げる者、自分の安全だけは確保しようとする者、出来る限りいつも通りに振る舞う者、この事態に心を痛め一刻も早く解決しようとする者など様々な反応を示していた。


 この疫病問題が何時解決するのかは、まだ誰にも分からない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ