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ジト目な狐は魔法使い。  作者: 大竹近衛門
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第20話 メンドくさい狐



 至福であった食事を終えて、いつもの宿へと帰ってきた。

 このまま部屋に行き、幸せな気持ちのまま寝たかった。


 そう“寝たかった”だ。


 宿に戻ってみれば何やら私に客が来ているらしい。

 宿の従業員で、まだ少女と言える歳のノーラに案内され、宿の一階にある食堂の客が待っているテーブルへと向かう。



 案内されたテーブルにつく。


 目の前にいるのは二十代半ばの男。

 服の上からは細身であるとしか分からない。

 髪はアッシュグレーのショートミディアム。

 顔は男らしくハッキリとした輪郭のイケメンだ。


 死ねばいいのに。


「初めまして。私はダムド商会のダニエルと申します」


「・・・フェムティスです」


 なかなか渋い声をしているな。

 ダニエルと名乗った男は真面目な顔つきで話を続ける。


「本日はフェムティスさんに仕事を依頼したいと考え、こうして待っていたのです」


 仕事なんてしたくないでござる…。


「本来なら先ずギルドを通して指名依頼を出したいのですが、残念なことに貴女様はまだDランクでいらっしゃる。Dランクの冒険者を指名することは出来ない決まりですのでこうして直接話を持ってきた次第でございます」


 これって横紙破りになるのかな?


「依頼の内容はディノレクトレックスの肉の調達です。肉の鮮度なども査定に影響しますが、とりあえずギルドの十倍の値段で買い取らせていただきます。勿論、皮の方の買い取りもギルドの十倍お出しします。…いかがでしょうか?」


「・・・お断りします」


「…何故なのかをお聞きしてもよろしいですか?」


「・・・面倒だからです」


「ま、まさかそれだけの理由で依頼を断るおつもりですか?」


「・・・はい」


「…私の知り合いには貴族の方も居ります。この依頼を見事に成し遂げればその貴族の方の覚えもめでたくなる可能性もあるのですよ?」


「・・・依頼は受けません」


「………分かりました。今回はご縁が無かったという事にしておきましょう。ですが、私個人としては貴女様とは上手くお付き合いしたいと考えております。その事を覚えておいていただきたい」


「・・・ん」


「それでは、気がお変りになりましたならダムド商会にお越しください。いつでも歓迎いたしますよ」


 最後にそう言って、ダニエルさんは宿から出ていった。


 …あ〜しんどかった。


 なんか疲れたな。


 私は宿の部屋に戻り、いつもより強めの結界を部屋に張り、護衛のゴーレムを出す。

 その後でシャワーを浴び、寝間着に着換える。

 さて、今日はもう寝よう。


「・・・おやすみ」


 私はゴーレム達にそう声を掛けて、眠りについた。




◇◇◇◇◇◇




 依頼を断った次の日。


 私は迷宮を攻略中である。


 気分転換と言うか、嫌な事を全部忘れたいからこその迷宮攻略だ。

 迷宮では目の前の事に集中できるので、そのほかの事を忘れていられる。

 と言うより、目の前の事に集中しないと死ぬ。

 だからこそ嫌な事を全て忘れていられる。


 私は一階降りるごとにその階で自分の魔法がどの程度通用するかを確認した。

 そして問題無しと分かった場合は速やかに下の階に下りる、を繰り返した。


 この迷宮はホントに不思議空間だと思う。


 迷宮内には魔物や魔獣が沢山生息している。

 そしてこの迷宮内の魔物や魔獣は斃すと煙のように消えてしまう。

 そしてその後に残されるのは『魔石』である。


 本当にゲームみたいな世界だ。


 なにはともあれ、この魔石を売って金に変えるのが迷宮探索の基本的な資金調達法である。


 この魔石はこの世界では欠かせない物なので需要は決して尽きない。

 そんな魔石を回収しながら、私はさらに深くへと潜っていく。


 うむ、順調順調。

 このまま行けば何階まで降りられるかな?

 とは言っても、無理をするつもりは毛頭ないけどね。





 迷宮で一夜を明かし、二日目となった。

 私はさらに下の階へと降りていく。


 この階は地獄だった。

 何せこの階にいる魔物は昆虫型の魔物だった。


 前世の日本でも虫の類は生理的嫌悪感を抱くものだった。

 それが巨大になって襲いかかってくるのだ。

 正直な話、一瞬意識が飛んだ。

 そして人間サイズのタランチュラが目の前に現れた時は、あまりの嫌悪感と恐怖に叫び声を上げ、半泣きになりながら一心不乱に火魔法で焼却した。





 それから約三日、私はこの階に留まり続けた。


 寝ても覚めても虫達から発生するギチギチという音に悩まされた。

 大量の、しかも巨大な虫達に何度も襲われた。


 だが、ようやく嫌悪感と恐怖を克服出来た。

 感覚がマヒしただけかもしれないが、少なくとも虫達を前にしても平気にはなった。


(ほら、見てみろよあの巨大タランチュラの眼、とってもキュートじゃないか。あははは)


 そんな事を考えながら、私はタランチュラを土魔法でペチャンコにしていますですことよ。


 ………ふぅ〜。落ち着け、落ち着け私よ。

 …よし、私は正気に戻ったゾ☆


 む、前方に何人かいるな。

 …どうやら戦闘中の様だ。


(見に行ってみよっと)


 私は隠密状態を維持しながら、問題の場所へと急ぐ。


 木々の陰に隠れながら進むと目的の場所に到着した。


 ふむ、三人の冒険者が虫型モンスターと戦闘中の様だ。

 茶髪の男と五分刈り頭の大柄の男、そして緑色の髪をした女か。

 …どうやら女の方はエルフの様だ。


 どれ、ちょっと観戦するとしようかな。




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