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ジト目な狐は魔法使い。  作者: 大竹近衛門
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第14話 行動開始


 皆さまおはようございます。狐の耳と尻尾を持った獣人のフェムティスです。

 ただの人間だったころとは少し違う感覚を、今でも実感してしまう私です。


 私は現在、コンパスを片手に森の中を邁進中です。


 何故かって?


 私はあのエリック一行を助けて報酬をもらった後、ふとした事を思いつき即座に行動を開始しました。

 食糧など長旅に必要な物を買いあさり、準備が完了した次の日の朝一に王都から出立したのです。


 正直な所、怖くて逃げ出しました。


 今の私は人に近寄られるのが非常に怖い。

 ましてや相手は貴族様です。

 もう怖くて仕方がありません。

 この世界にたった一人で放り出された事もありますが、前世の『俺』の事も含めて考えると、もう人と関わるのは遠慮したいのだ。


 前世の『俺』の環境はそんな事が許されるはずも無く、人を関わらねば金も稼げないし生活も出来なかった。

 だがしかし、この世界では可能かもしれない。

 この世界の環境と、何の因果か今や自分の身体になっているこの肉体。

 この身体のスペックなら一人で生きていけるかもしれないという希望がある。

 一人で生きていくというとても贅沢な望みを叶えたくて、私は力を使いこなす為に修行もした。

 図書館で書物を読み漁って勉強もした。


 ・・・まぁ、そんな建前は置いといて。

 実際の所は対人恐怖症気味のビビりな私が堪え切れずに逃げ出したというだけの事です。


 なにはともあれ、私は目的地に向けて邁進中なのです。

 以前図書館で色々と調べていた時に地図に記されていない地域がある事を知りました。

 前人未到なのか、もしくは記す必要が無かったのか。


 気になります。


 そんな訳でその地図に載っていない地域に向かっているのです。

 貴重な素材などもあるかもしれませんからね。

 何があるか楽しみな旅行です。







 王都から出発して、一日の殆どを移動に使って早七日。

 この身体には脱帽です。

 元よりかなり体力がある事は分かっていたが、この七日での体力の上昇っぷリには驚いた。

 こういうのはステータスアップと言うのだろうか?

 最初の日に比べて同じ運動量でも疲れにくくなってきている。

 ここまで成長を実感できるというのは前世では考えられない事だ。

 故に非常に楽しいことこの上ない。

 そんな事もあって進むペースを早くしたりして、身体を鍛えながら進んでいる。


 そして現在、周りの景色は大分変ってきた。

 今までは鬱蒼とした森だったのだが、今は大樹が疎らに生えていて、大樹と大樹の間隔が広い故に日の光が多く降り注いでいる。

 その大きな木と降り注ぐ日の光が相まってとても幻想的で美しい。

 この場で大の字になって休憩したいくらいだ。



 目の前にティラノサウルスみたいなモンスターが居なければな!!



 只今ティラノサウルスもどきと交戦中。

 ・・・怖すぎます。

 バス並みの大きさがあるとかなり迫力がある。


 ゴーレム達を総動員して対処する。

 敵を文字通り身体を使って足止めをさせる。

 ゴーレム達は装備している剣やメイスで攻撃を加えているが、相手の強靭な皮に切り傷はまったく付いておらず、辛うじてメイスは効果ありかなといった様子だ。

 私も様子見で弱めの〈ストーン・ブレット〉を撃ち込むが効果は無かった。


 なら、全力の〈ストーン・ブレット〉をぶち込む。


 ゴーレム達に敵を足止めしてもらい、私は魔力を込め始める。

 そして、全力の〈ストーン・ブレット〉をティラノサウルスもどきの頭目掛けて放つ。


「ギャオォオオ!」


 〈ストーン・ブレット〉は少し外れて首に当たり、その首に穴をあけた。


 が、仕留める事は出来ず、こちらをギロリと睨みつけてきた。


 そしてティラノサウルスもどきは凄まじい勢いでゴーレム達を跳ね飛ばし、私に向かって突進してきた。


 私は避けようとはしたが、足が動かなかった。

 そして、私は奴の大きな顎に捕まった。


「ぎっっ!!っーーーーーー!!!」


 声にならない絶叫が自分の喉から漏れる。


 太い牙が身体の前と後ろに突き刺さる。 


 このままでは死ぬ。

 その恐怖で頭の中が真っ白になってしまう。


 嫌だ!

 嫌だ!!

 嫌だ!!!


「〈ライトニング〉!」


 魔法を制御もせずに全力で放つ。


「〈ライトニング〉!!」


 相手の口の中に直接ぶち込む。


「〈ライトニング〉!!!」


 生き残る事以外を考えず、我武者羅に魔法を撃つ。


 口の中に直接ぶち込んだおかげか、ティラノサウルスもどきは泡を吹いて痙攣しだした。

 すぐさまゴーレム達に指示を出し、相手の顎をこじ開けさせて自分を救出させる。


 ティラノサウルスもどきは痙攣しながら地面に倒れた。

 剣を持ったゴーレムに口の中に直接剣を突き刺して止めを刺すよう指示する。


 自分の身体に空いた複数の穴から血が流れ出る。

 服が真っ赤に染まり、地面をも赤く染める。

 すぐさま〈アイテムボックス〉から回復ポーションを取り出して自分に使用する。


 自己治癒のスキルも使いながら傷が治るまでポーションを数個使用する。


 数十秒後、無事傷も治り、ティラノサウルスもどきも斃す事が出来た。

 助かったと実感すると同時に、自分の心に再び恐怖が押し寄せる。


 怖かった。


 私は顔をくしゃくしゃにしながら泣いた。

 今回味わった恐怖が呼び水となったのか、今まで必死に堪えていたものが一気に噴き出したかのようにぼろぼろと泣き続けた。




 しばらく泣いた後、気のせいかもしれないが心配そうにこちらを見ていたゴーレムに、その身体を撫でてやりながら「・・・もう大丈夫だよ」と語りかける。


 さて、斃したティラノサウルスもどきをどうにかしないとな。

 なにはともあれ血抜きからだ。

 ・・・少しばかりその血も採って保存しておこうかな?

 丁度いい便利な魔法もあるしな。



 ああ。生きてるって素晴らしい。




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