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ジト目な狐は魔法使い。  作者: 大竹近衛門
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第11話 狐と迷宮と人助け



 生まれて初めての迷宮入りで、不安だらけだったがなんとかなるものだ。

 入った迷宮は私の想像以上に不思議で異常な空間だった。

 迷宮は地下に作られていて、下へ下へと降りて行くものだ。

 つまりは地下洞窟と言えるのだが・・・、地下であり洞窟でもあるにも関わらず、私が今居る場所はある程度明るいのだ。

 おまけにかなり広い。

 何故なんだと考え始めたがすぐに止めた。

 ここは『魔法』が存在している世界だ。

 『俺』の住んでいた世界の常識で考える方が間違っている。


 さて、私が今居るのは迷宮の地下二階である。

 ここではウルフやゴブリンなどか冒険者に襲いかかってくる。

 さらにこの階層は地面には草が生え、木が疎らに生えているのだ。


 ・・・もはや何も言うまい。


 私はこの迷宮で自分が試したかった事を色々試しながら二日ほど潜っている。

 その甲斐あって色々と知る事が出来た。


 私は今、階段から離れた場所の木の上で休憩している。

 こういう場所は滅多に人が来ない。

 なぜなら、まだ浅い階層なので普通の人はすぐ下に降りるか、帰りやすいように上り階段の近くで狩りをしているからだ。

 そんな場所の木の上で、一口サイズに切り分けた干し肉を袋から一つ取り出して口に放り込み、じっくりと噛みながら悠々と休息を楽しんでいた。


 少しまどろんでいたら、離れた所から複数の人が走ってくるのを感知した。

 即座に杖を構え、気配を消して警戒態勢に入る。


 来た。

 どうやら四人組の若い冒険者を四人組のおっさん冒険者が襲っているようだ。

 強盗かな?

 少しの間観察して分かった事はおっさん達がとても手慣れているという事だ。

 若い冒険者達を的確に階段から離れたこの場所まで追い立てている。

 襲い慣れているのか、はたまたこういった事を仕事にしているのか・・・。

 おっと、若い方が足を止めて臨戦態勢に入ったみたいだ。

 おっさん達もそれに合わせて逃がさんと言わんばかりの陣形を整える。


「あんまり手間かけさせないでもらいましょうか。ねぇ、貴族のお坊ちゃん」


 おっさん側のリーダーと思しき男が剣と楯を構えながら若い方に声をかける。


「やはり私を貴族を知って狙ってきたのだな。と言う事は私個人が狙いか?」


 その声に若い方のリーダーと思しき金髪イケメンが剣と楯を構えながら質問する。


「当たり〜。そのついでにお前さんの家の方も可能なら狙うさ」


 ・・・おっさんが律儀に答え合わせをしてくれている。

 強盗なのに親切な人だな・・・・。


「私を襲うように言ったのは誰だ!」


「んなもん知るかよ。顔も見てねーしな。俺たちゃ金をもらって引き受けただけだ」


 本当に親切な強盗だ。


「もういいだろエリック。こいつらを殺さなきゃ俺達が死ぬ事になるってことに変わりはねえ」


 赤髪の青年が両手剣を構えながら前に出る。

 その青年の体には数カ所に切り傷が見える。


「舐めるなよくそ餓鬼、てめーらの実力は調査済みなんだよ」


 その言葉を皮切りに戦いが始まった。


 ・・・ふむ。

 若い方のメンバーは盾剣士、両手剣士、魔術師の少女、あとあの女性は治癒士か。

 おっさん達は盾剣士、槍使い、弓使い、両手に短剣を持ったあれは軽戦士っと。


 戦闘は若い方が一方的に嬲られる展開となっている。

 おっさん達は盾剣士を軸にしてかなり連携が取れている。

 魔術師の少女が魔法を唱えようとした所に弓使いの一撃が決まり、少女は肩に矢を受けてしまう。

 治癒士の女性がそれを治療しようとし、盾剣士の青年がその二人を守る。

 その青年は盾剣士、槍使い、弓使いの三人を相手取る形になってしまい、一方的に嬲られている。

 しかも時折後ろの二人を狙って槍使いと弓使いが動くので、その事にも注意を払わねばならず防戦一方だ。

 両手剣士の青年は助けに入りたくとも、軽戦士のおっさんに邪魔をされている。

 それを振り切ろうと両手剣を振るうが、相手の素早い動きの所為で当たらない。

 そして短剣の素早い攻撃で浅いとはいえ傷が増えていく。


 一方的だな〜と思っていたら、


「エリック!下がって!」


 魔術師の少女が声を上げる。


「〈ファイヤー・ボール〉!!」


 少女の杖の先から火の玉が放たれた。

 大きさは人の頭より少し大きいくらいかな。

 その火の玉は真っ直ぐおっさん盾剣士に向かって行くが・・・


「おらぁ!!」


 おっさんが装備している金属製の盾で打ち払われてしまう。


「なっ!?」


 少女はその光景に驚愕の声を上げる。

 盾剣士の青年もその光景に僅かに動きが止まってしまう。

 その隙をついて魔術師の少女の腹部に矢が命中した。

 少女は「ッギィッッ!」と苦悶の声を漏らし、膝をつく。

 治癒士の女性は半泣きになりながら少女に治癒魔法を掛ける。

 盾剣士の青年はその顔にありありと焦りを浮かべ、必死に二人を守っている。

 両手剣士の青年も息を切らせており、焦りの表情を浮かべている。


 ・・・うん。あかんわ、これ。

 このままじゃあ若い冒険者達は死ぬな。

 助けるとしますかね。

 正直な所、彼らが死のうがどうでもいいのだが、万が一にも彼らを見捨てた事が表沙汰になれば私の立場が悪くなってしまう。

 その所為で起こる面倒事より、助けた場合の面倒事の方が精神的には軽い物になるだろうと予想している訳だ。


 私は地面に降りて魔法の準備をしながら戦いが起こっている場所に向かう。

 向こうでは盾剣士の青年が地面に膝をついてしまっている。

 勝敗が決してしまったようだ


「くははっ、終わりみてーだなお坊ちゃん。だが安心しろ、女達は俺達がしっかり味わってやるよ。男を知らねーまま死ぬのはかわいそうだしな」


 おっさん達は欲望丸出しの笑顔をこれでもかと言うほどに浮かべている。

 清々しいまでに悪役だ。

 そんなおっさん達を青年二人は悔しそうに歯を噛みながら睨みつけている。

 その後ろにいる女二人の顔には怯えが見えていた。


 では、さっさと終わらせるとしようか。

 既に〈ロックオン〉は完了している。


「・・・〈ストーン・ブレット〉」


 自分の杖の先からラグビーボールに似た形状の石が四つ、凄まじい速度で放たれる。

 今まで何回も試行錯誤し、反復練習を繰り返してきた魔法は少し上向きに放たれ、ホーミングレーザーの様な軌道を描きながらおっさん達の頭を斜め上から斜め下へ打ちぬくようにヒットする。

 おっさん達はこちらに気づく事も無くその頭を吹っ飛ばされる事となった。

 ・・・いや、盾剣士のおっさんだけは辛うじて頭が吹っ飛ばずに済んでいる。

 やはり個人のステータスの影響があるのは明らかだ。

 今回のこの盾剣士のおっさんは他の三人より耐久力のステータスが高かったみたいだな。

 とは言っても明らかに頭蓋骨が陥没しているのが見えるのでどのみち即死だろう。 


 目の前の突然の出来ごとに若い冒険者たちは目を丸くして硬直し、敵が崩れ落ちていく様を見詰めている。

 そんな彼らに私は歩み寄る。

 両手剣士の青年が私に気づき、剣をこちらに向け警戒する。 


「よせディー!剣を下ろせ」


 盾剣士の青年がすぐさま声を上げる。

 その声を聞いて、渋々といった感じで青年は剣を下ろす。

 それとほぼ同時に私は彼らと話をするには丁度いい所まで来れた。



 ・・・、私は何を話せばいいのだろうか・・・?



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