愛≠恋+性欲
僕には二人、大切な人がいる。
それは幸せだが、僕が長生きした場合、
二人も大切な人を失わなければならない。
それは苦痛で、自分には
どうやっても耐えられないだろう。
長生きはしたくないものだ。
そもそも、生殖機能を失った老人が
生きていても、限りあるエネルギーと
社会を構築する金の浪費だ。
だから僕は、健康寿命をきったら死ぬ。
その方法は、まだ考えていない。
さて、大切な人と言ったね。
一人は親友で、大学の寮で親しくなり、
彼は現在刑事となっている。早いものだ。
僕の素性は…教えないでおこう。
一昨日の午後、彼とコーヒーを飲みに出掛けた。
彼は捜査が終わると、
新聞を手に僕の家にやってくる。
それが気晴らしになるらしい。
「ほらよ。」彼は言った。
差し出された新聞の
【妻を殺害後、その両親を殺す】に、目が止まる。
いい忘れたが、もう一人の大切な人
というのはもちろん僕の妻である。
今は祖母の介護に、故郷へ帰っている。
故郷には彼女の昔の友がたくさんいて、
それでなければ僕は心配で眠れやしない。
それにしても…妻を殺す?
自分にしてみればありえない。
そう伝えると、彼はうなずく。
「あいつ、自分の妻を替え玉とか
いいやがった」悔しそうに言う。
おそらく彼も、自分の妻を殺すなど
考えもしない人間だ。
僕は自分の考えを話し始めた。
「そういう人にとって、愛=恋+性欲
なんだろうね。
しかし、それは本当の愛とは違う。
恋が冷めたら、愛=性欲になり、
性欲も冷めてしまったら、愛は0になる。」
彼は驚いた。まさかこんな解答をされるとは。
「お前がいて良かったよ」彼は言った。
「残念だけど、僕は君より早く死ぬつもり
なんだ」僕は答える。
「それは罪だな。死ぬときは一緒だ。」
彼はドヤ顔をしてみせる。マンガかよ。
一つ疑問に思っていたことがあった。
「犯人はなぜ、彼女の両親を
殺したんだい?」と聞く。
彼は暗くなりながら答える。
「妻を殺した日、なぜか彼女の両親が
家に来てしまった。それも合鍵を持って。
状況を見た両親は、泣いて犯人に聞く。
『あんたが殺したのかい?』『そうだ』と
答えると、こう哀願したそうだ。
『殺してくれ。』」
「それで、殺したのか。」僕は呟く。
「そう、彼女の両親は
娘がいないなら死んだ方がましだと考えたんだ。
そして犯人は、両親も殺害した。
なんて残酷な人間なんだ、犯人は。」
彼の目には涙がやどっていた。
「おそらく犯人は、両親の抱いた
その感情こそが、愛だと気づいたんだ。
両親を殺したのは、彼らに対しての
罪滅ぼしのつもりだったんだよ。」
僕は諭すように言った。
「でも、人を殺しても罪は消えないだろ!」
彼は少し取り乱している。
「そう、犯人はこれから
どうにもならない罪を背負って生きていく。」
それを聞いて、やっと彼は落ち着きを取り戻した。