悪役にするな!
よくある乙女ゲーものですが、ネタのオンパレードです。設定として変なところもあるかもしれませんがご容赦ください。お願いします。
3人称と1人称が交互に出てきます。苦手な方、読みにくいと思われた方はすぐにブラウザバックでお願いします。
文章だめすぎて責任とれません。すみません。
5/17 誤字を修正しました。ご指摘いただきありがとうございました!
6/28 ジャンルを恋愛からコメディへ変更しました!
「俺と付き合ってくれないか。…振りだけでいいから。」
昼休み、人気の無い屋上にて、春馬都 沙羅は、幼馴染であり婚約者でもある彼、志波 信長に開口一番そう言われた。
女性に大変人気のある男にそう言われたら、どんな女性でもくらっとするだろう。
たとえ、他者のためであっても。
だが――。
「嫌に決まっているでしょう。」
そう言って、春馬都沙羅は屋上から去った。
◆◇◆
有名企業の子息たちが通い、経営はその寄付だけでまかなえてしまうという、『私立絢楼学院』。
上流階級の人間が一つのステータスとして、入学し卒業していくが、入るには莫大な学費と寄付が必要であるといわれている。
春馬都沙羅、志波信長もその生徒の一人である。
特に志波家は、学院の中でもトップに君臨する男である。
企業として、また元華族という身分としても申し分なく、信長自身も生徒会長を務めており、その美貌は女性だけでなく、男性すら惹きつけてしまうほどで、彼の周りには常にボディーガードがおり、その身を守っている。
ちなみに春馬都家に関しても、もちろんそれに引けを取らない身分であるのだが。
絢桜学院で人気があるのは何も彼だけではない。
生徒会役員全員が、見目麗しく身分実力ともに優れており、各人のファンクラブがある。
会長と同じ2年生で副会長、須佐 紀雄。
1年生の副会長、諏海 風鈴。
2年生会計、場論 健。
1年生書記、風炉戸 芙玲
とまあ変な名前もあるが、顔さえよければ良し、ということなのだろう。
沙羅が転生者だと気づいたのは5歳ごろのことで、お嬢様生活にふと違和感を覚えたときだった。
姿勢、居住まい、言葉遣い、服装、遊びに至るまで全て母親の制約がかかる。
交友関係に口を出されたときは、さすがにキレた。
泣いて喚いて、3日ほどシカトしたところ、さすがに懲りたようだが。
そして、父親の友人の息子である彼、志波信長に会ったとき、沙羅は全てを思い出した。
前世は、女性ながらにバリバリのキャリアウーマンとして働いく一般家庭の人間だったこと。
35歳のとき、念願の部長職に就いたが、そこから上司部下との折り合いが悪くなったことと、仕事がそれまでの営業職よりも忙しくなったことで、それから3年後の38歳のとき過労で死んだのだ。
もちろん彼氏などはおらず、アラフォー女子としてそろそろ老後の積み立てをしなければ、などと考えていた時期でもあった。
そんな中、ストレスの溜まる職場の癒しとなっていたのが、乙女ゲームの存在である。
タイトルは、略称の『きみぼく』としか覚えていない。
気になるところだが、春馬都沙羅として5歳の時点ですでに思い出せなかった。
志波信長に会ったとき、「あ、思い出した」と思わず呟いてしまったが、特に身体に異変はなかった。
ただずっと忘れていただけ、という感覚である。
だが、最後にゲームをやったときから5年の歳月は経っているので、一部忘れているところもある。
精神年齢は前世を引き継いでおり、やけに大人じみた子供ではあったが、親は忙しい人であったため、特に異変と感じられたことはない。
ただ、ありえないことを思い出した。
志波信長は以前自分が乙女ゲーム『きみぼく』をやっていたときに登場した人物と同じ名前である。
それだけでなく、自分の名前すらそのゲームに出てくる名前なのだ。
まさか、との思いもあったが、この記憶を思い出した経緯から、無関係ということはないだろう。
そして、さらにありえないのは――。
自分の名前がそのゲームの中で、ヒロインと攻略対象との仲を引き裂く悪役キャラだ、ということだ。
そのゲームでは、高校2年生のときにヒロインが転入し、そこからストーリーが始まる。
よくあるお約束だ。
ヒロインと攻略対象が仲良くなるほど、自分と同姓同名のキャラが邪魔をし、仲を引き裂こうと画策する。
実際のところ、ヒロインと攻略対象の仲をより一層強くするだけなのだが。
攻略対象の一人、志波信長と婚約者であると信じて疑わず、ひたすらヒロインを排除しようとする。
父同士が仲がよく、将来結婚してほしいと思っていただけで、婚約まではしていなかったらしいが。
となると、自分もこうなるのだろうか、と思ったが、よく考えるとそんなに志波信長のことを好きなわけでもない。
高校生になったらシナリオ通りになるのかと思ったが、そうなったとしても最悪、学校追放エンドならぬ転校だ。
死ぬわけじゃないし、まあ、問題ないだろう。
◆◇◆
高校生になっても、あの男を好きになることは無かった。
なにせ前世が享年38歳とはいえ、それなりに男を知ってる身だ。
俺様生徒会長が小物に見えてしまうのは致し方ないと思う。
小物と言うか、子供というか…。
ヒロインと知り合うまでは、それなりにカリスマ性もあって、仕事はものすごいスピードでこなしていたようだ。
生徒会には入らなかったため、よく知らないが。
生徒会役員も皆子供というか、乳臭いのが否めない。
2年腹黒副会長といっても、自分の気に入らないことがあるというのが嫌なだけのただのわがままだし。
同じ副会長でも真面目な1年の方は、姉である諏海藍葉が大好きなただのシスコンだ。
わんこ系会計は、まんまガキだ。しかも、おそらくマザコンだ。
書記はヤンデレだったか?閉じ込めたい系?よくわからん。
会長に至っては甘やかされて生きてきた、というのが見え見えの俺様ならぬお子様ってやつだ。
とりあえず逆ハーだかなんでもいいが勝手にしてくれ、というのが少し前までの感想である。
今?
今は…とりあえずヒロイン帰れ!と思っている。
どこに帰るとか、とりあえずってなんだ、とかは置いておけ。
聞いてくれ!
生徒会役員全員がヒロインにホイホイされたせいで、生徒会の仕事が進まず、全校生徒が困っているのだ!
この前も風紀やその他委員会になんとかしてくれ、と言われた。
なぜ自分が、と思わなくもないが身分的に皆強く言えないからだろう。
身分がいいからといってだらけおって、くそっ!
…ごほんごほん。おほほほほ。
働け!!
と思っていた矢先に会長に屋上へ呼び出され、あの冒頭の言葉だ。
何度も言うが、ガキは対象外だ。どんなに見目良くてもな!
だから自分が断ったのは当たり前だと理解して欲しい。
「あいつが、俺と付き合ったと知るといじめに会うかもしれないと言ったんだ。だから隠れ蓑になれ。」
なんだその理屈は。
意味はわかる。自分という隠れ蓑を作ることで、ヒロインのいじめの手をこちらへ…ということなのだろうが、いかんせん自分がやらなければならないのはどういう理屈なのだ。
ファンクラブの奴らでいいだろうが!
「お断りします。」
断固拒否する!
「なぜだ?」
そっくりそのまま返すぞこら!
「隠れ蓑であれば、わたくしでなくとも務まりますわ。わたくしはもう婚約者ではございません。それはお分かりでしょう。」
婚約者の件は、父に言って解決している。
好きな人がいるならその人と結婚しなさい、と言ってくれた。
そして暗に他へ回せ、と言っておく。
めんどくさいことは嫌いだ。
そして利益にならないことも嫌いだ。
「お前が適任だ。他の奴では役に立たない。いいからやれ。」
なぜ命令形なのだ!
なぜお前などに傅かねばならない!
まあそんなこんなでこの理不尽な役をやらなくてはならなくなったがな!
ううう。
◆◇◆
しかしながら、せっかく生徒会室に入れるのだ。
風紀その他委員会のため、恩を売るのもいいだろう。
前世の部長職であった手腕を大いに生かしてやろう!
「なぜ生徒会室に居座る。」
2年腹黒副会長に睨まれた。…こいつ腹黒でいいか?
腹黒は、生徒会長と付き合うのは形だけなのだから、生徒会室にいる理由はないと仰っている。
こんなに仕事が滞っているのに放置でいいのか!
むしろお前の神経を疑うわ!
「せっかくですから、お仕事をお手伝いいたしますわ。」
気が利くだろう!
「ミカちゃんとの時間を邪魔しないでよねー。」
そう言うのはわんこ系会計だ。お前はわんこではなく駄犬だ!
駄犬はヒロインである天照美神を守るように威嚇している。
うるせー駄犬、お前も働け!!
「春馬都、お前は今日のところは用済みだ。出て行け。」
会長が眉を寄せてこちらを向いた。
用済みってお前が言い出したことだろが!
「まあ。わたくし風紀委員長に今度の体育祭のことで、皆様に来週までに企画書をまとめていただけるように、と頼まれておりますの。それが出来上がらなければ、出て行けませんわ。」
とりあえず、体育祭が近いんだよ!
「ちっ。そんなのこっちでやっておく。」
ちっ、って舌打ちー!?
会長舌打ちしてる場合じゃないでしょ!
やっておく、ってやってないから言ってのになんなんだ!
書類があからさまに溜まってるぞこんにゃろう!
「まず、こちらの計画書と予算案のリスト化ですわね。そういえば体育祭委員会の立ち上げはどうなさるのでしょう。」
会長の机から体育祭に関する書類をいくつか掴み、中身を見る。
去年の実績などが載った書類は用意してあるようだ。
おそらくヒロインが来る前に用意されたものなのだろう。
「おい!勝手にさわるな!お前は部外者だろう!」
会長が書類を取り返そうと手を伸ばす。
部外者…ってヒロインも生徒会役員じゃないだろうが!
「今外へ出れば怪しまれますわよ。それにわたくしだけでなく、天照さんも部外者と言えますわ。たとえわたくしを志波様のお相手に据え置いたとしても、わたくしだけが外へ出れば天照さんの特別扱いは変わりません。」
この学校の子達はね、一人を特別扱いしてるから怒ってるんだよ!
きっと一人ひとり彼女がいればこれほどにならなかったろうに。
ヒロインは全校で絶賛総スカンを喰らい中だ。
とりあえず休み時間なんかはずっと生徒会室にいる。
まあなんたって麗しの生徒会役員を独り占めだよ?
そりゃみんな妬むでしょ。
しかもヒロインは普通家庭の出身で上流家庭とはなんの縁もない。
ある意味実力でこの学校に来たってことなんだけど。
顔もすんごい美人ってわけじゃない。
失礼だと思うけど、悪役顔の自分の方が生徒会の奴らにお似合いだってよく言われたもん。
むしろこっちが願い下げだ、って思ってたけどね。
とりあえず、体育祭を何とか終わらせるぞこんちきしょー!!
◆◇◆
な、なんとかやり遂げた。
こういうときは、仕事をやれやれってうるさく言わないことがコツなのさ。
「知っています、天照さん?場論様は算盤3段と珠算5段をお持ちですのよ?場論様、こちらの決算表おまかせできるかしら。」
こんな感じでヒロインに逐一言って、みんなを動かした。
ヒロインが居ない日はちょっとめんどくさかったけど、まあなんとかなってよかった。
そのお陰で、今では「部長次何やったらいい?」と聞いてくれるようになりました。
なんか地位が部長に格上げ――いやいや格下げだろう――された。
とりあえず自分の指示で動いてくれるようになったのはよかったよかった。
風紀その他委員会からもすっごい感謝されたし。
特に今回は体育委員長は泣いて喜んでくれた。…やる気に満ちてたからね。
そんなこんなで会長からの視線も少しだけど、嫌なものでなくなったのではないだろうか。
今までは、関わろうする触れようとするもの全て睨まれていた気がするし、ヒロインに話しかけるときも彼の冷たい視線にいつも晒されていたから。
まあでもいつまでもここに籠もっているのは非常に危険だ。
現にヒロインだけでなく、自分もシカト攻撃を受け始めたのだ。
学校追放エンドだって、できれば起こらない方がいい。
というか自分はヒロインをいじめてないし、起こったら起こったで理不尽すぎるが。
それに、今は自分の指示で動いてくれるが、本来生徒会が外部の指示で動くようじゃ駄目だろう。
生徒会としての意味が無い。
いきなり手を引けば運営が立ち行かなくなる可能性があるため、徐々に身を引いていく方がいいかな。
とりあえず1ヵ月後の定期考査のために勉強しなければ!!
◆◇◆
1年はあっという間だった。
正直、体育祭や文化祭、修学旅行などのイベントのほかに、4回の定期考査をこなしていたら、1年などすぐに過ぎ去る。
この後は、正式に生徒会補佐として働き、ファンじゃない子を中心に執行部会を作って、本格的に生徒会の手伝いをすることとなった。
まあ生徒会の奴らも、外部の人間に指示されるのはやはり嫌だったみたいで、というか無能さを知られたくなかったらしく、きちんと仕事をするようになった。
うむ。重畳重畳。
ヒロインに関しては常に逆ハーレムな状態だったため、正直誰を選んだかはわからなかった。
まあでも、そこら辺の恋愛のいざこざは決着したのではないだろうか。
なんとなくだが…会長以外が燃え尽きているからな。
意外と腹黒がショックを受けていて、普段余裕綽々の奴が萎れている姿はざまあみろ、だ。
てことは相手はやはり会長ということか。
ほう…つまり無駄な横槍を入れずとも2人はくっ付き、尚且つこの婚約が明確に白紙となった訳だ。
そして、学校追放エンドもなし。
「やった!じゃない。やりましたわ!」
思わず小躍りした。
やべ、幸福すぎる!
あとの1年高校生活謳歌してやる!!
宿敵会長、ではあったがやはりカリスマはすごかった。
本気を出したあいつは誰にも止められない、って言うか…。
しかもそれについていけたのは自分だけっていう…。
他校とのトラブルが多い――主に生徒会役員が顔だけはかっこいい所為で――文化祭は、特に忙しかった。
そのため後処理は他の役員が死んでる中、二人で行った。
お前ら普段のバイタリティはどうした!
死ぬんじゃない!生きろーー!!
って状態だった。
終わってみれば笑い話だが、もう二度とやりたくない。
今年の文化祭はクラスで頑張りたい。
実際のところ、あいつらの所為でどの行事も女子がうるさいのなんの。
会長に関しては自分を傍で侍らせているから、女子の声じゃなくて視線がうるさい、というか射殺されそうだった。
人を盾に使うなよ!
一度文句を言ったら「それがお前の役割だろう」と、さも当たり前のように言われたわ!
何様だよ!…俺様会長様ってか!くそぅ!
そんな生活とも今日でおさらばだ!
ああ懐かしき我が青春の日々!!
◆◇◆
「まさか彼女が彼を選ぶとは…。」
生徒会室で本来の役員たちが集まっていた。
腹黒副会長は、眼鏡をくいっと上げると、窓の外を見ながら先ほどの言葉を呟いた。
「あーあ。結構頑張ってたと思うんだけどなぁ。こん中ではオレが一番でしょ。」
わんこ系会計が頭の後ろで腕を組みながらはぁ、とため息をつく。
「選ばれなかったがな。」
ヤンデレ書記がぽつりと言った。
わんこ系会計はヒロインに選ばれなかったようだ。
そして、副会長と書記も。
「あなたは特にショックも何も受けていないようですが。」
腹黒副会長が静かに会長を見据えた。
「まあな。さすがにあの天照があいつを選ぶとは思わなかったが…あれを捕える口実が出来たと思えば、そう悪くは無いな。」
「私は天照さんのほうが何倍もいいと思いますがね。」
「オレもー。」
「…。」
「僭越ながら自分も思います。」
会長に続いて、腹黒副会長、わんこ系会計、ヤンデレ書記、シスコン副会長が続いた。
正確にはヤンデレ書記は発言していないが。
「まさかの顧問の先生でしたね。」
なんとなく禁句であったそれをシスコン副会長が言った。
それと同時に広がる沈黙。
「ところで、あの人のどこがそんなにいいわけー?」
わんこ系会計が会長に尋ねた。
「そんなもの、吹けば消えるような奴より、壊しても原型を留めそうなくらいがちょうどいいだろう?」
今度こそ、生徒会室を沈黙が包んだ。
読んでくださった方、本当にありがとうございました。
名前ですが、わかる方はわかったかと思いますが、すべて神様の名前をもじりました。
いろんな国の神様が混在してて、各国の方々すみません!ネタとしてご容赦いただけるとありがたいです。
おそらく、主人公の名前が一番わかりにくいと思いますが、これも神様をもじっているので、予想してください。
最初は志波から思いつきました。俺様で破壊神って面白いかも…という安易な考えからです。
じゃあ主人公はその奥さんだな、って言う感じで。
序列や順位がわからず、ごっちゃごちゃですが、結構満足してます。
カタカナって案外漢字になるもんですね。
お伝えしたいことはいろいろありますが、長くなりそうなのでここらで失礼します!もし笑っていただけたら、こっそり教えてください(笑