第九話 エルフの集落
俺は今、微妙に整備されていないエルフの集落へ続いてそうな道を草木を剣で切りながら進んでいた。
続いてそうな道という曖昧な表現になってしまう理由は、ある程度通りやすくなっていて森の奥へと続く道がこの道くらいしか無かったからだ。
ユースティアは俺が必死で草木をかき分けている後ろで、のんびりとリンゴを食べながらついてきている。
ちなみに、今ユースティアが食べているリンゴは元々俺の物だったりする。
早めに食べ終わったユースティアが切なそうな顔で俺のリンゴを見ていたのであげたのだ。
草木をかき分けていると少しばかり広くなっている場所に出た。
さっきまでの道は、葉と葉の間から木漏れ日が指すだけの道だったが、この広場は直で光が入っている。
「わ~、なんか綺麗なとこですね~」
いつの間にかリンゴを食べ終わっていたユースティアが、踊るように回転しながら広場の中央へと向かう。
ユースティアのプラチナブロンドの髪が回転の勢いで開き、さながら光のカーテンのようだ。
「あんまり回ってると転ぶぞ」
孤児院の子供達を思い出させる行動に一応注意しておく。
「うぐっ!」
あ、転んだ。しかもうぐっ!って…
「ったく。だから転ぶぞっつったのに」おおよそ年頃の少女とは思えないような悲鳴を聞き、体を起こして土を払ってやる。
手だけじゃ払いきれないので風魔法を使って細かい砂をとる。
すると、ユースティアが目を輝かせながら俺の頭を見ていた。
「ん?どうした?」
「綺麗ですね!その髪!」
魔法を使ったから髪が銀色に光ってるからか。
「ほら、取り終わったぞ」
「ありがとうございます」
俺の髪が黒に戻るにつれて残念そうな顔に変化しながらも、お礼を言う。
何か悪いことをしているような気になってくる。
「ほら、怪我はないか?」
手を差しだし、怪我の有無を問う。
今回は自分から俺の手を握り、立ち上がった。
「ありがとうございます。ちょっと足を擦りむいただけです」
見てみると、確かに脛の辺りに擦りむいた後があった。
「仕方ねぇな…」
水魔法で軽く洗ってやる。
俺の髪がまた変色したのを見てユースティアが嬉しそうな顔をしている。
子供かこいつは。
「よし、ほらさっさと行くぞ」
足を洗い終えて早足で奥へと向かうと、ユースティアも慌てて追ってきた。
○
しばらく歩いているとまた開けた場所に出た。
ただ、さっきとは違い続く道がない。
どうしようかと悩んでいると、突然目の前に扉が現れた。
比喩ではなく、本当に突然何の前触れもなくそこに存在していた。
まるで最初からここにあったように。
「リクさん!これは開けって事ですよ!」
後ろで微妙に鼻息を荒くして両拳を胸の前に持ち上げている。
何か最初会ったときと性格が違ってないか?
そんな疑問を抱きながらも、待っていても仕方がないと思い直し、扉を開く。
扉を開いて最初に飛び込んできたのは溢れんばかりの光だった。
思わず手で目をかばい、目を閉じてしまう。
隣で小さな悲鳴が聞こえた。
光が弱まってきたタイミングを見計らって目を開けると、景色が一変していた。
木で閉じられていた空間が広がり、四方八方に木で出来た小さな家が見える。
隣では、ユースティアが嬉しそうな顔をして辺りを見回していた。
「あなたがゼステリアの騎士さんですか?」
辺りを見回していると、背後から声がかかった。
振り返ると、金の髪を後ろで結わえた耳の長い青年がいた。
エルフの特徴のオンパレードだ。
「はい、そうです。依頼内容の詳細はこちらで伺えるとのことですが…」
「ええ、とりあえず落ち着ける場所に行きましょう。こちらです」
青年はこちらに背を向けて歩き出した。
俺はユースティアを連れて後につく。
「すみません。さっきの扉は何だったんですか?」
さっきの謎現象について尋ねてみる。
「あれは幻術ですよ。お二人はさっきまでは木々に囲まれた狭い場所にいましたよね?」
「はい、そうです」
「あれ実は全部幻術です。扉は幻術を解くトリガーなんですよ」
なるほど、わからん。
○
あれからしばらく歩き、他の家より一回り大きな家に案内された。
中には先ほどの青年を入れて三人のエルフが居て、皆一様に見た目は若い。
しかし、エルフは成長が一定時期を過ぎるとしばらくの間停滞すると聞いたので、見た目だけで年齢は判断できない。
俺とユースティアはテーブルに案内された。
どうやらここで依頼内容が説明されるらしい。
さて、どんな依頼内容なのやら。
隣で出された水を美味しそうに飲むユースティアを横目に、不安と期待で膝の上の握り拳に汗をにじませていた。