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第六話 崩壊した日常

今、俺の視界いっぱいに青空が広がっている。

そして、俺の上には毛布が乗っている。

だが勘違いしないでほしい、前回はいつの間にか眠ってしまっていたが、今回は自分から屋根の上で眠ったのだ。

昨夜の魔法練習では、ルルさんの言う「足りない部分」を矯正し、その後風属性だけでなく火属性、水属性、雷属性を試してみたが一番上手くできたのは風属性だった。

「……………」

なんとなく胸の前に片手を掲げ、そこに魔力を集中。

すぐに腕を中心に金色の文字が回転しだし、風が手の中に集まり始める、が、俺は集めるのを途中でやめ、風は霧散する。

そういえば昨夜ルルさんに「人前でひけらかすように使わないように」と言われていたんだった。

人前じゃないからまあいいか。

今はまだ朝だろうか、それとも昼だろうか。

毛布を持って梯子を下り、周囲を確認する。

洗濯物が干されている。

そこに誰かの姿は確認できないから、恐らくもう作業は終わっているのだろう。

ということは、もう朝食は終わっているくらいだな。

とりあえず梯子に毛布を掛け、顔を洗う。

しまった、顔を拭くタオルがない。

どうしようかと手をこまねいていると、横からタオルが差し出された。

「ありがとう」

礼を言ってタオルを受け取り、顔を拭く。

「よく眠れた?」

タオルを差し出してくれたのはルルさんだった。

ルルさんも俺と同じくらいの時間に寝たはずなのに、どうしてこうもきびきびと活動できるのだろう。

「朝ご飯まだとってあるから中で食べてね」

「うん、ありがとう」

よし、じゃあルルさんの作った美味しい朝御飯でも食べるとしようかな。



今日は特に仕事がないらしい。

いわば休日だ。

しかし、いきなり休日といってもなにをすればいいか迷う。

サバルさんのところにでもいこうか……

いや、久しぶりに昼寝でもしよう。

昼寝をする事に決め、早速木剣を携え、村はずれの草原へと向かう。

草原に到着し、いつもの定位置に寝転び、腕を後ろに組んで、空を見上げた。

さっき見上げた時は快晴だったにも関わらず、微妙に空が暗くなっている。

まあ、雨が降り出す前には起きるだろ。

そう考え、俺はそっと目を閉じ、眠りについた。



夢を見た。

とても不気味で怖い夢だ。

俺は荒野に立っていた。

空は赤く染まり、地面には草木一つ無い。

そこには扉が置かれていて、その扉は閉じた状態で鎖によってぐるぐる巻きになっている。

鎖は扉から四つに伸びていて、それぞれが地面に突き刺さった、豪奢な剣により固定されている。

俺が扉に近づくと、扉の奥から何かが出てこようとしているかのように、扉が膨張しては鎖に抑えられ。

扉の奥からは不気味な低い声が響いていた。



夕方から夜に変わったころ、俺は目が覚めた。

何か変な夢を見た気がするが、内容が思い出せない。

目をこすりながら上体を起こすと、村の方が妙に明るい。

「なんだ?火事か?」

そう思い、目を凝らしてみるがどうも様子が違う。

確かに家は燃えているのだが、普段ならすぐに消火作業が始まるはずなのに、一向に始まる様子がない。

それに加え、村から聞こえてくる悲鳴が火事の時よりも切羽詰まっているような気がする。

何かとんでもないことが起こっているかのようないやな予感が胸を支配する。

まるで、大切な物が自分の知らない内になくなってしまうような………。

俺は木剣を手に取り、村に向かって駆け出した。



「なん………だよこれ…」

それは、凄惨な光景だった。

家屋は燃え、村人は地に倒れ伏し血を流している。

変な臭いがする。

血の臭いと、家が焼ける臭い、それに人が焼けるにおいも混ざっているだろうか。とにかく酷い臭いだ。

近くに倒れている村人をよく見ると、目を見開き、虚空を見つめている。首に何かにかまれた後のような物が確認できた。

何だ?あのきず…。

きずは気になるが、それよりも先に孤児院のみんなが気になる。

脇の民家から聞こえる悲鳴を振り切り、孤児院に向かって駆ける。

何かボールのようなものにつまづいた。

それが何かを考えるよりも、前に足を出すことを考える。

フラッドさんが地面に倒れているが首から・・・が見えない。

吐き気がこみ上げてくるが、押さえ込んで走る。

途中でサバルさんが倒れているのが見えた。

足を止めて、見てみると無数の傷がついていて、左胸を深々と剣で突き刺されている。

師とも呼べるサバルさんの死に、涙が零れかけるが手で拭って、前を向く。

今は止まっている場合じゃない。

サバルさんの亡骸に黙礼し、孤児院に向けて足を出す。



しばらく孤児院への道を走っていると桃色の光が見えてきた。ルルさんの光だ。

足を進めるスピードが早くなる。

もうすぐだ、もうすぐでつく!

孤児院に近づいてくると、ルルさんの他にもう一人いるのに気づく。

赤に染まった服を着て、金色の長髪を後ろで縛り、妖しい笑みでルルさんと対峙している。こんな時でなければ素直に見とれていたかもしれないほどの美形だ。

「何故!何故こんなことを!!」

ルルさんは怒りの声を上げながら、火属性の魔法で火弾を放っているが、男の方は笑みを崩さず避けている。

「だからぁ、僕達吸血鬼に人間を襲う理由を聞くなんてナンセンスじゃないかな?」

吸血鬼?だから村の人の首にかまれたような傷痕があったのか。

だが、ルルさんの方に気を取られている今なら、もしかしたら。

俺は走る勢いそのままに、吸血鬼の背後から飛びかかった。

「ふつーに気づいてるよー」

直後、吸血鬼の後ろ回し蹴りが俺を横から襲った。

俺は二回、三回地面にバウンドして木に叩きつけられた。

「リク君!?」

「あれ?本気じゃなかったとはいえ意外に頑丈だなぁ」

「ガフッ…ゴホッ!」

咳き込む。

咄嗟に鞘で防がなかったら死んでいたかもしれない。鞘は真っ二つに折れていた。

「よくもリク君を!!」

ルルさんの両腕を回っていた文字の輪が二つに増え、髪の光が強まる。

「あはは、君のそれ不思議だねぇ。どうなってんの?」

なおも吸血鬼は妖しく笑う。

「あなたに教える義理はない!」

ルルさんの足下に魔法陣のような物が広がり、ルルさんの両腕から光が瞬く。

「ありゃ、これはちょっとやばげかな」

吸血鬼の表情に焦りがでた瞬間、辺りが光に覆われた。

光が消えると、最初にルルさんが見えた。

髪からは光が消えていて、魔法陣も消えていた。

やったのか?

「いやぁ~、今のはちょっと怖かったなぁ」

俺の期待を裏切るように、さっきまでとかわらない調子の声が聞こえた。

見ると、ルルさんの前方直線状に地面がえぐれていて、吸血鬼はそのそばに立っていた。

「フォルティス・アクィスト様。中にいた者は全て始末しましたがよろしかったでしょうか?」

孤児院の中から紫の髪を後頭部で縛り上げた吸血鬼が現れた。

手に何か(・・・)を持っていて、フォルティスと呼ばれた吸血鬼の前にそれを放った。

ベシャっと音を立てて地面に横たわったものは………………リサだった。

「う、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ルルさんの絶叫が響き、ルルさんの髪が再度強く発光し、ルルさんの両腕を三つ(・・・)の文字の輪が回りだす。

「さっきよりもヤバげだなぁ。まったく、グレーテ君怒らせちゃ駄目じゃないか」

「えー、殺すのを許可したのはフォルティス様でしょう?」

怒り狂うルルさんを前にしても、吸血鬼の二人は余裕を崩さない。

ルルさんの足元にさっきよりも大きな魔法陣が描かれ、周囲にも小さな魔法陣が展開される。

そしてその魔法陣から炎弾、水弾、雷撃、氷弾、風刃が次々とフォルティスに向かって飛ばされる。

「う~ん…、これはちょっとまずいかも」

フォルティスが腰に差した剣に手を掛け抜きはなつ。

「僕の血を吸え吸血の魔剣〈ディスブラッド〉」

そう言ったフォルティスは何をするかと思うと突然、抜いた剣で自分の腕を軽くきった。

フォルティスが〈ディスブラッド〉と呼んだ剣に血が滴り、薄く赤く発光する。

フォルティスはルルさんから放たれた魔法攻撃を〈ディスブラッド〉で次々と斬り伏せ、少しずつルルさんに近づく。

炎弾はフォルティスに当たる前に斬られ消滅し、雷撃はわずかな動きで回避し、水弾は斬られて半分に斬られてフォルティスの背後でパシャンと跳ね、風刃は身を捻って避け、氷弾は水弾と同じく斬られ、フォルティスの背後で地面を凍り付かせる。

悠々と歩きながら二回三回とそれを繰り返し、そして遂にルルさんのもとに辿り着き

「はい、おーわり」そのままルルさんの首をはねた。

ルルさんが殺された。

今、目の前で吸血鬼に殺された。

いとも簡単にあっさりと。

「ウゥアアアァァアァァァァァァァァ!」

残った力を振り絞って両腕をフォルティスに向けて掲げ、魔力を集中させる。

「あはぁ、なーんだ。君も面白いじゃないか」

気づかれた。

だが関係ない。

魔力をフォルティスに向けて放つ。

やはりというべきか、フォルティスは持っている剣で俺の攻撃を無効化した。

「頑張ったけどざんねーん」

フォルティスが目の前で剣を振り上げる。

駄目か、クソ!

何も出来ないまま終わるのかよ!

「諦めるな少年!」

俺が諦めかけ、目を閉じた瞬間、目の前で剣と剣がぶつかり合う音が聞こえた。

目を開くとそこには、俺と同じ黒髪の男が剣を構えて立っていた。

すぐに、後ろから大量の足音が聞こえはじめ、揃いの騎士装束の人間が集まった。

「アゼル様!ご無事ですか!?」

そのうちの一人、亜麻色の髪を長く垂らした女性が黒髪の男--アゼルに安否を確認する。

「ああ、問題ない」

アゼルが背後を振り返らずに答える。

「うーん、人間が増えちゃったなあ………よし、グレーテ君逃げちゃおうか」

最初アゼルと打ち合った時に後ろへ大きく後退していたフォルティスが剣をしまい、グレーテに呼びかける。

「了解ですフォルティス様」

「じゃ、そういうことだから。リク君ばいばーい」

その言葉を最後に、フォルティスはグレーテを連れたって手を振りながら逃げていった。

「セレナ、死者達の供養と村の片づけを」

「了解しました」

セレナと呼ばれた女性は、他の騎士達に指示を出しに行った。

「さて、大丈夫か少年」

アゼルが俺に手を差し出す。

「あ、ああ」

俺はその手を掴み立ち上がる。

「でだ、少年これからどうしたい?」

これからどうしたいかだって?

決まってる。

「俺は、吸血鬼を、フォルティス・アクィストを……絶対に殺す!」

「なら俺についてこい。そのすべを教えてやる」


この日ここから、俺の戦いは始まった。



これで序章は終了です。

次回のリク君は17歳になっちゃってます。

ここまで読んで下さった方々、是非とも今後もよろしくお願いします!


5/23 読み返すとルルさんがしょぼかったので微妙に修正

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