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第五話 夜中の魔法練習

「………た、おしたのか?」

岩に打ちつけられ、動かなくなったゴブリンを木剣の先でつついてみる。

しばらくつついても反応がない。どうやら既に絶命しているようだ。

「ふぅ…」

安堵から息を吐き、頭を殴ったときに鞘に付いてしまった血を小川で洗い流す。

不思議と木剣を握るまで全身を支配していた恐怖感はぶり返してくることはなかった。

鞘から血を流し終え、タオルで拭き、木剣を納めて、さっきの技ってなんて名前だっけな~とか考えながら家に帰った。



家に帰った俺を待っていたのは俺を捜してキョロキョロしているリサだった。

「どうしたリサ、そんなにキョロキョロして」

「うわっ!!」

こっそりと背後に回って声をかけたら、幽霊でも見たかのように驚かれた。

「そんなに驚かなくても良いだろ」

「後ろからいきなり話しかけられたら、誰だって驚くよ!」

ごもっとも。

「どこ行ってたの?もうご飯だよ」

「あっちの小川に水浴びに行ってた」

今来た茂みを指で指し示す。

「ああ、なるほど。剣振って汗ビッショリだったもんね!」

そんなに汗をかいていたのか…。

そんなことを考えていると、不意に手を掴まれた。

「さ!ご飯食べよ!」

そうして俺は木剣を所定の位置に置くヒマもなく食卓へと連行された。




さて、今日の仕事は薪割りだ。

現在俺の前には切り株と円筒状の木、横にはその円筒状の木の山がある。

いつもなら適当に少しやって後はサボるのだが。

「今日は真面目にやろう…」

斧を構え、振り下ろす。

パカッと振り下ろされた斧から左右に木が割れ、切り株に転がる。

それを拾い上げ、木の山とは反対方向に放り、木の山から木を取り、切り株に乗せる。

そしてそれを割り、放る。その繰り返しだ。

しかし、ただ同じ事を繰り返すだけでは面白味がないので、踏み込みを入れてみたり、横に割ってみたり、片手てやってみたりといろいろ試しながら薪割り作業をしていった。



「ふう、こんなもんだろ」

日が暮れ始めるころ、俺の両隣には二つの木の山があった。

片方は円筒状の木。

もう片方は円筒状の木を割った木で出来ていて、両方とも同じくらいの山となっている。

薪割りなんて久々に真面目にやったから疲れた。

斧を片付け、タオルで汗を拭く。

「リクー!薪割り終わった?」

切り株に腰掛け、汗を拭きながらぼうっと空を見ているとリサが向こうから駆けてきた。

「おつかれリク。珍しいね薪割りを真面目にやるなんて」

「なんとなくな」

「ふーん…。ま、いいや!終わったんなら中に入ろう!」

そう言って、またも俺の手をつかみ、引っ張る。

はあ…まったく…。

そうして俺は朝のように、引っ張られながら家の中へと入った。



夕食を終え、皆が寝静まった頃、また俺は屋根に座り込み、ぼうっと月を眺めていた。

そういえば今日はゴブリンと戦ったっけ。

ずっと薪割りをしていたせいで忘れていたが、初めての実戦だった。

月から目を離し、自分の両の手のひらに移す。

最初こそ恐怖でどうしようもなく震えたが、途中で持ち直し、冷静に剣技で戦えた。

日々の練習の成果だ。薪割りを真面目にやったのもそれを感じ取ったからかもしれない。

「またリク君こんなとこにいた」

俺が両手をグーパーグーパーしながら見ていると背後から声がかかった。

振り返ってみると、そこに立っていたのはやはりというべきかルルさんだった。

「ルルさんだってこんな時間に来てるじゃん」

ルルさんは、まあねと笑い、そっと俺の隣に腰を下ろした。

胸で、銀の首飾りが月の光を受けて薄く光っている。

「リク君よくこれ見てるよね。綺麗?」

「うん、凄く綺麗だと思う」

「そう?じゃあちょっと動かないでね?」

そう言ってルルさんは首飾りを外し、俺の正面に回り俺の頭を抱くかのように両手を回してきた。

言われたとおりにしばらく動かないでいると、ルルさんは俺から離れた。

ちょっと残念

「うん!よく似合う!」

見ると、さっきまでルルさんの首にかかっていた首飾りが、俺の首に掛かっていた。

「あの、ルルさん?これ…」

「リク君にプレゼントしちゃう!大切にしてね?」

ルルさんの笑顔は、後ろの月の光も相まってとても綺麗で、遠慮するのも忘れてしまった。

「ありがとうルルさん、大切にするよ」



今更の説明ではあるが、ルルさんの首飾りは銀色で、輪の下に翼のような形を配置し、それを下から剣で貫いたような不思議な形をしている。

それをしばらくじっと見ていると、隣のルルさんから話しかけられた。

「そういえば、さっき自分の手を見てたけどどうしたの?」

俺は今日あったことを正直に話そうとして………止めた。

あんまりルルさんに心配をかけたくない。

「ずっと巻き割ってたからね。手にたこができてないか確認してたんだ」

「あ~、リク君がずっと真面目に薪割りしたの久しぶりだもんね」

確かにその通りだが、その認識は何か納得がいかない。

「魔法でも使えれば楽なんだけどね」

「う~ん………そうだねぇ…………」

冗談のつもりで言ってみたのだが、ルルさんは少し悩む素振りを見せ

「試してみる?」



「見ててね」

そう言って、ルルさんは両手を前に出し、目を閉じた。

「空気中のマナを感じながら自分の魔力でそれを集めるの」

ルルさんの両腕を中心に、何か金色に光る文字のような物が輪になって浮き上がり、クルクルと緩やかに回転する。

すると、だんだんとルルさんの両手の間に向かって風が吹き始めた。

と、そこでふとルルさんの髪が光を放っているのに気づいた。

そして、ルルさんの頭に目をやるとそこにはウサギの耳のようなもの(・・・)がついていた。

淡く光るピンクの髪とウサ耳を見ていると、すーっと光が消え、ウサ耳も消えてしまった。

「どう?ちゃんと見てた?」

すみません、耳に気を取られて見てませんでした。

「もう、じゃあもう一回やるからちゃんと見ててね?」

そう言ってルルさんは、また目を閉じて集中を始める。

少し待つと、先ほどと同様にルルさんの両手の中に向かって風が吹き始めた。

それに併せて髪も発光を始めるが、流石にまたそっちに気を取られて肝心なところを見逃す愚は犯さない。

風はだんだんと視認できるほどにルルさんの手の中に収束し、しばらく両手の中で巡回した後解き放たれ、強い風となって吹いていった。

「どう?ちゃんと見てた?」

「見てたけどどうやってるのかよくわかんない」

「とりあえずやってみようか」

ルルさんを真似て、両手を前につきだしてみる。

「まずは自分の魔力を感じて、リク君は割と魔力値は高いと思うから」

俺の魔力値が高いと思う根拠がわからないが、身体を流れる何かを感じようと目を閉じて集中する。

大分感覚がつかめてきた。

体を流れる魔力を感じ取り、両の手の間への集束をイメージ。

風が手の間に集まり、髪がなびくのを感じる。

しばらく手の中で循環させた後、ルルさんに習って前方へと解き放つ。

「どう?ルルさん、ちゃんとやれてた?」

できていたかの確認をとろうとルルさんの方を見ると、ルルさんは驚いたような顔をして俺の頭を見ていた。

「どうかした?何かおかしかった?」

俺は不安になり、ルルさんに確認を取る。

「………え?あ、あぁうん!大丈夫!凄いね。一回で出来るようになっちゃった」

何かを誤魔化すかのようにルルさんは大きく反応した。

「でも、少し足りないかな。もう少し練習してみようか」

魔法の練習は、その後空が白みはじめるまで続いた。

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