第四の騎士 「ジェイス・ブルーネ」
昔、この世界に『黒』という邪悪な生き物が現れました。
『黒』にはどんな攻撃も効かず、人々は困り果てていました。
すると、そんな人々を救おうと五人の天使が現れました。
第一天使、ミカエルは鋭き刃と勇ましい勇気の持ち主。
第二天使、ガブリエルは素晴らしい頭脳の持ち主。
第三天使、ラファエルは優しく穏便な心の持ち主。
第四天使、ウリエルは容赦無い捌きの炎の持ち主。
第五天使、ルシエルは全てを守る剣の持ち主。
彼らは人々に守りの力を与え、五人の騎士を選びました。
世界は平和になり、人々の暮らしにも笑顔が戻ってきました。
しかし、ルシエルは『黒』の偉大な力が欲しいと願い、他の大天使たちを裏切りました。
もちろん、他の大天使たちは怒りルシエルを地獄に堕としてしまいました。
ルシエルは名前を変え、ルシファーと名乗ることにしました。
そして、何時かまた地上を乗っ取ろうと企んでいます。
でも大丈夫、だって地上には大天使たちが加護を与えた力強い騎士たちが居るのですから。
以上、この世界だったら誰でも知っていると言っても過言では無い童話。
まぁ、童話と言っていいのかは謎なのだが、この話がちょうど2000年前のこと、この物語のその後のが今俺の住んでいるこの世界だ。
この童話から分かるように、俺に加護を与えたルシエル、一般的にルシファーと呼ばれる堕天使は今は地獄に居るという。
そして厄介なのが、ルシファーの加護を受けた者は必ず、加護を受けた日から三年間しか生きられないということだ。
「アミリアス・クローリア、分かっているだろうが第五の騎士に選ばれたいうことはお前の余命はあと三年だ」
ブルーネが淡々と言うと、本当に俺の命はあと三年なんだなと実感してしまう。
こんなことで実感するのは、少し可笑しいような気もしてきてしまうのだが。
ただ、自然と恐怖というものは無かった。単に自分が死ぬということがどうでもいいのか、それとも『生きる意味』が無いからなのか。
「最後の一ヶ月には騎士の仕事は無く、自由な時間が与えられる。その間はノーブルスの外に出ることも許される」
「普段はこの街から出ちゃいけないのか?」
「ああ、ずいぶん昔に脱走者が出たからな。それ以来禁止になっている、ただし任務の時は例外だ」
別にこの街以外に行きたい場所なんて無い、だけどせめて彼の墓参りくらいには行きたかったのだけれども。
けれど、今の俺にはそんな権利は無い。約束したのに、誓ったのに彼を守ることは俺には出来なかった。
「アミリアス!」
「へ……っ?!」
いきなり名前を叫ばれ顔を上げる。
「お前の今の保護者は誰になっている」
「ほ、保護者は……居ません」
「母親や死亡と書いてあるな……父親、その他親戚は居ないのか?」
「居ません、てかそんなの知らない。でも何でそんなの必要なんですか」
すると、ブルーネは不気味な笑みを浮かべゆっくりと話し出した。
「もちろん死体を返す為だよ」
「し、死体って……そんな早く決めなくても」
「否、普通騎士というのは一年持てばいいほうだ。特にお前みたいな非常に拙い使い方の奴はとくに死ぬ確率が多い」
正直、この言い方にはカチンときた。俺はどちらかというと剣には自信のある方だ、それを職業にしていたわけで拙いはずが無い。
たしかにこのブルーネとかいう奴は強い、それは認めるが、なんでこんな初対面の人間にこんなことを言われなければならない。
「おい! あんた……誰が拙いだって?」
「貴様に言ったつもりなのだがな、それとも貴様は自分の剣の腕に自信があったのか? だとしたらかなりの自信家だ」
「こんの……っ!」
「まず、貴様は後ろの防御が弱い。それから多少力任せに剣を振っているな、隙がありすぎる」
たしかに、そういう防御が弱くてミスをしたことは何回かある。だけど最近は良くなってきたし、力任せに剣はふっていない。
「それで保護者は居ないのか?」
「居ない」
「ならば死体はどうすればいい? この辺りは騎士の好きなように出来るが」
自分が死んだ後、そんなこと考えたことは無かったが、たしかに騎士になったからには考えなくてはならい。
ギルドに居た頃もたしかに死んだことを考えなくてはならないのだが、あの頃はまだ『生きたい』と願っていた。
だが今は生きたいとは願わなくなってしまった、所謂『目的を失った』という言葉が正しいのかもしれない。
だが、死体を受け取ってくれる人間など居ない、そもそも母さんの親戚なんて聞いたこと無い。父さんも例外は無い。
そもそも父さんは会ったこともなければ誰なのか分からない。
でも
「グロディアールの……俺が居たギルドの本拠地の所だけど、そこにライル・ウォーカスっていう奴の墓がある。その隣に」
「ほぅ、友人か何かか?」
「あんたには関係無いだろうが」
「おやおや、随分と嫌われたものだな。さすが子供は怒りやすい」
このオッサンは、どうやら他人の怒りを抉り出すのが好きらしい。本気で殺したくなってきた。
「分かった、グロディアールのライル・ウォーカスの隣だな」
「あぁ……」
今にも消えてしまいそうな声で返事をすると、ブルーネは近くの聖騎士団の隊員らしき者に何かを話した。
すると、隊員は一例して建物の中へと入って行ってしまった。するとブルーネも中に入っていこうとする。
「ついてこい、これから洗礼の儀式を始める」
淡々とした口調でそう言うと、ブルーネは中へと入っていく。それに追いつこうとすぐに走り出す。
生きることに執着など無い、だからこそこの第五の騎士というものにも脅えず受け入れることが出来たのだろう。
ただ、願うことならば彼の隣で眠りたい。