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犬は棒に当たらないし、鼠は猫に噛み付けない。そして百舌は速贄を忘れない。

作者: 東雲 秋葉

 この世界は何か可笑しい。



 学校の帰り道、何時もの様に何時もの通り道を歩き、私は家に帰る。

 私は少し先に犬が歩いているのを見つけた。首輪はしているが飼い主は見あたらない。おそらく脱走した犬なのだろう。その犬が私の先を歩いている。

 そしてその犬のまっすぐ先には電柱が有った。なのに犬は悠々自適と歩いている。

 ダメだ!!このままでは電柱に打つかってしまうぞ!!お前は「犬も歩けば棒に当たる」という諺を知らないのか!?

 ……あ、犬だし知るはずもないか。

 ああ、打つかってしまう。あと三メートル、二メートル、一メートル……。遂に犬と電柱との距離がゼロになる。

 その時であった。

 私は目を、視力が1,5の両目を疑った。だって、そうだろう。誰だってそうなるさ。



 犬が電柱と一番近い足――前の右足――を軸に、さながら彼のジダンのマルセイユルーレットの様に回って電柱を抜ける光景なんて誰が信じられるか?



 そして華麗にファンタスティックに電柱との衝突を避けた犬は首を私の方に向け「ワン」と、まるで「この俺がぶつかると思ったか?甘ぇよ」とでも言っているかの様に吠えて、そのまま呆然と立ち尽くしている私を置き去りにして去っていった。

 ……有り得ない。でも有り得ている。




 この世界は可笑しい。


 ファンタシスタな犬との邂逅の後、我に返った私は再び自宅に向かって歩き始めた。

「フシャーーッ!!」「キュウキュウッ!!」「フシャーーッ!!」と動物の争い声が聞こえてくる。

 振り返ると塀を背に、鼠が猫に追いつめられていた。

「フシャーッ!?(バカが、私に勝てるとでも思っていたのか!?)」

「キューッ!!(クソッ此処までなのか、俺の人生はこんな処で終わってしまうのか!!)」

おお、何かスゴい修羅場だな。コイツ等の言ってることが分かるかのような臨場感だ。

「フシャーッ!!(さあ弱者よ、辞世の句は詠み終わったか?この世から去る準備は済んだか?ははっ、悔しかろう、悲しかろう。でもこれが世の中だ。弱肉強食の世界なのだよ!!)」

「キューッ!!(俺は……、それがこの世界の理だというのなら、俺はそれを否定する。生きて、生き延びて、俺は明日を掴み取るっ!!)」

 すげぇ、鼠が主人公キャラ演じちゃってるよ。これ鼠が土壇場で逆転して猫を打ち倒すパターンに入ってるんじゃないの?これぞ正に「窮鼠猫を噛む」と言うやつか!!

「キューーーッ!!(行くぞ強者!!負けたときの言い訳の準備は出来ているか!?)」

 鼠は勢いよく猫の首元目掛けて飛びかかる。恐らく彼の人生で最も速く駆け速く飛んだ事だろう。

「ニャ〜(んなもん出来てる訳ねぇだろうが。そんなもん考える暇があったらシュレディンガーさん家の猫の事でも考えてるよ)」



 その意気込みも虚しく、鼠は猫の手によって叩き落とされ、爪を立てられ、その人生を終えた。



 そして猫はその一部始終を見ていた私の方を見て「フシャッ(見たか人間よ、これが生きると言う事だ。窮鼠猫を噛む?笑わせる。強いものは何時だって強い。弱いものは何時だって弱い。それが覆ることは有りえんよ)」と話してきた。

「あ、はい」

私はそれに答える。と言うか、普通に私、猫と話しているんですが。

「フシャーッ!!(生きるとは、醜く、惨めで、脆弱で、残酷で、それでいて非道く美しいものだ。人間よ、強く有れ!!)」

「は、はぁ」

そう言うと、猫は鼠を咥え、塀の上に飛び乗り、去って言った。



 この世界は可笑しい。



 自宅に着いた。取り敢えず今日はもう寝てしまいたい、そんな気分だ。

 自分の部屋に入り、鞄を放り投げ、上着を脱いで、ベッドにダイブする。

 ベッドの心地を堪能した後、取り敢えず携帯を充電して置こうと机に向かう。そこで、ふと窓から外を見ると、木の枝に虫が刺さっている。速贄だ。たぶん百舌の速贄と言うやつだ。

 そしてグロい。

「チュンチュン(ふん、だからアイツ等は鳥頭だと周りから言われるんだよ。あの鳥類の羽根汚し共が)」

 そこに雀がやってきた。速贄を狙っているのだろう。

「チュンチュン(ふふっ。楽して餌がとれて、そしてアイツ等が悔しがって、これぞ一石二鳥ってね。鳥だけに)」

「キィーキィー(なら俺は一石三鳥だな)」

 雀が速贄を採ろうとしたその瞬間。弾丸のごとく、トルネード回転をしている何かが、雀を一瞬にして穿ち、そのまま木の枝に止まる。



 それは百舌であった。



「チュン……チュン……(き、貴様……。謀ったのか……?)」

「キィーキィー(謀る?何をだ?お前は只、愚かな行いをしたその報いを受けただけに過ぎない)」

「チュン……チュン!!(だが、貴様等百舌の一族は自分の採った獲物をそのまま忘れる虚けの一族だと!?)」

「キィキィ(ああ、言われていたな。だがそれは昔の事。今と昔とでは違いが生まれる事なんてよく有る事だろ)」

「チュン……チュン……(な、なんだ……と……)」

「キィーキィー(そしてお前の最大の過ちは、俺から餌を採ろうとしたことだ)」

「チュン……(どう言うことだ?)」

「キィーキィー(冥土の土産に教えてやる。疾風のズズ、そう俺は呼ばれている。百舌の一族の中で俺は最も速く飛び、そして獲物を逃した事は……、一度もない)」

「チュン……(ふっ、そうかよ。それほどの奴に殺られるのなら、本望だ)」

「キィーキィー(そうか、それは光栄だな)」

「チュ……(じゃあな。あばよ……)」

そう言って雀は息を引き取った。

「キィーキィー(じゃあな、来世でまた会おうぜ)」

 百舌は再び空へと羽ばたいて行った。

 って、何なんだこの会話は!?



 


 




 やっぱりこの世界は可笑しい。



 


               でも面白い。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] なっなんて日常的で、ハードボイルドな世界なんだ!! う~ん書き方一つで、世界が変わりますね! 勉強になります。 (*^o^*)
2013/08/29 17:46 退会済み
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