Ein Prolog
出来事が遠くなればなるほど、都合の良い事実の構築はますます増大し、完璧になる_プリモ・レーヴィ
ブランデス山脈から滾々と雪解け水が注がれる。
澄みわたる碧空を背景に、白鳥達はところ狭しと躍動する。
真昼の時刻を告げる美しいパイプオルガンの音色が聞こえる。
早春の訪れを村人が思い思いに祝っている。
小高い丘から執事淹れ立てのコーヒーを嗜みながら、ソファーにぐっと身を預ける。
小さな村の領主、貴族の家系に育ったヴェルニオー伯爵。
この物語の、悲劇の先駆者である。
ヴェルニオーには最愛の妻がいた。
東洋人特有の艶のある黒髪をなびかせながら、重税に追いやられ農民達を徹して励まし続けていた。
彼女の逝去は、農民たちを悲哀の渦に巻き込んだ。
ヴェルニオーは三日間、凍てついた彼女の安らかな眠りを見守っていた。
土葬が執り行われ、その後四日間塞ぎこみ、食事は喉を通らなかった。
数日後村人からパンを頂戴し、そこで彼はようやく妻の死を受け入れ、黙祷を捧げた。
数ヶ月間、想い出の中に息を潜めた。
死を決意し、踏み止まった。
半年後、彼は執事を雇おうと決めた。
妻の間に子供は恵まれなかった。
心の隙間を埋めたかった。
純潔な少女よりも、純潔な少年にそれを求めた。
透き通るような白い肌、
腰元にはなだらかな縊れ曲線、
手首はきゅっと細く引き締まった、初心な少年を欲していた。
彼は決断した。
孤独を慰め、私財を投げ打ち、恵まれぬ少年達の心を満たし、愛を与えよう。
州議会、財閥、非営利団体代表、今まで培った人脈をフルに活かし、情報を集めていった。
今は寂しくとも良い、疲れやつれた美しい少年を励ますその時まで。