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とある勇者の美術品

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/03/13

 

『私。魔王様のペットになるわ』


 とある国に伝わる勇者の英雄譚の始まりは実に印象的だ。

 なにせ、開幕と同時に勇者が事実上の敗北宣言をしているのだから。


『ふざけたことを抜かすな!』


 勇者に対して大喝をする王様に美しい女勇者は反論する。


『ふざけたことを抜かすな? そっくりそのままお返しするわ。兵士や英雄が敵わなかった相手に女一人が勝てるとでも思って?』

『何という腰抜けだ! 例え勝てぬなら、せめて討ち死にをするのが貴殿の役目だろう!?』


 途端、王様の首と体が別れる。

 永遠に。


『そんな役目。果たすつもりもないわ』


 勇者はそう言って王の首を包み背負った。

 鎧を脱ぎ捨てて娼婦のような薄布を纏い、伝説の剣を投げ捨てて代わりに白旗を持つ。


『恥知らず』

『売女』

『精々、魔王に媚びて無意味に殺されろ』


 罵られ、唾を吐かれ、石を投げられながら勇者は魔王城へと向かう。

 王城との距離は川を隔てた向こう側。

 ここまで攻め込まれているのだ。

 勝ち目など下よりない。


『滑稽な姿だな。勇者よ』


 魔王の言葉に勇者は微笑みながら頷いた。


『私は勇者ではなく、あなたさまのペットです』

『何の真似だ?』

『私はあなたに飼われにまいりました』


 何を考えているのやら。

 魔王は試しに勇者の薄布をはぎとった。

 現れた柔らかな肌を勇者は隠そうともしない。


 試しに魔王は勇者の胸を揉んだ。

 どこで覚えたのやら、勇者は官能的な声を出し、卑猥な言葉を繰り返した。


『人類の希望が何という様だ』

『私はあなたさまのペットです。あなたさまに服従するばかりです。あなたさまに弄ばれることが最上の幸せなのです』


 繰り返される無様な勇者の言葉。

 そして色に乱れ、狂う様。

 後世では様々な創作物で引用され、中にはちびっ子が見てはいけない作品もある。

 とはいえ、どの時代のちびっ子もこの手の禁じられた作品は該当年齢以下でもこっそりと見るものだが。


『もっと淫猥に振る舞えぬのか』


 魔王の言葉に勇者はより官能的に振る舞う。

 鳴けと言われたら鳴くし、踊れと言われたら踊る。

 戯れに傷をつけられようとも犬のように服従する。

 媚びへつらいながら。


 勇者はひたすらにペットとして生きた。

 いや、売女として生きたのだ。

 ――女としての価値がなくなるまで。


 そして、女としての価値が完全になくなった頃。

 魔王は戯れに勇者に剣を渡した。

 あの日に捨てた伝説の剣だ。


『それで自分を慰めながら死ね』


 難題だ。

 だが、不可能ではない。

 魔王のペットは頷くと主の前で実に滑稽な最後の行為を始めた。


『目の前で死ね。お前に相応しい死に様だ』


 飼い犬に手を噛まれるという諺がある。

 勇者の腹の中に秘めていた積年の想いを考量すればここでの引用はやや誤りであるかもしれない。

 だが、魔王の死に様はまさにその言葉が相応しいだろう。




 さて。

 あらゆる勇者の英雄譚がそうであるように今日では様々な彼女の芸術作品が遺されている

 もし、それらをしっかりと見たいのであれば向かう先は博物館や美術館ではない。

 様々な建前の末に今日も何食わぬ顔をして営業している風俗街である。

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― 新着の感想 ―
 史実と事実が凡そに近いだけマシにも思えてしまうのは何故なのかにも思う所は有りますが、称賛するを阻むが蔑みに見る民の心根にある差別意識という皮肉り方が実に小雨川蛙様らしく、果たして今世のSDGsはこれ…
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