表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MYST REMNANT  作者: 笹上パン工房
―BLACK BOX編―
42/42

第36話「メインキャストは考える」

――さて、佐治大吉がホテル「espoir」に到着する少し前。


ホテルの地下駐車場、自らの車の前で、必死に何かを探す男がいた。

佐治大吉から指示を受け、その客室に火をつけた男…『月見里やまなし 大三郎だいざぶろう』である。


大三郎は反社会的組織IDMの末端の組織員である。

背格好が似ているという理由で、密かにIDMに所属していた佐治大吉から指名を受け、彼に成りすまして招待状を持ち、まんまとパーティに忍び込んだのである。

そして大吉の指示通り自身の客室に火を放ち、非常ベルが鳴ったのを確認、急いで駐車場の自分の車にまで逃げたのであるが…。


(ない!ない!ないぞ!?…どこだ!?俺の車のキーは…!!)


最後の逃走の段になって、彼は自分の車のキーが無いことに気づく。

これがなければ車を動かせず、ここから逃げることができない。

彼は放火した後の自分の行動を、必死になって振り返るが…。


まず、客室に火をつけて部屋を出る時は、キーは間違いなくあった。

それはしっかりと確認している。

次に、廊下を逃げる時…慌てていたため、妙なジジイとぶつかった。

その後、エレベーターが火災で停まっていたので非常階段を走って降りた。

駐車場について車のロックを開けようとしたところ…キーがないことに気づいたのである。


(くそっ!あのジジイの時か!?それとも階段で落としたか!?

 くそ…くそ!くそっ!なんでこんな一番大事な時に!!)


大三郎は悔しそうに頭をかきむしるが…今はそんな事をしている余裕はない、と考えを改める。

下手をすればホテルが封鎖され逃げ出せなくなってしまうし、そんな状況で見つかれば関係者でない自分が怪しまれるのは目に見えている。

その前になんとか逃げなければ、かくなる上は走って逃げるしかない、と彼は決意するが…。

そんな折、不意に彼の肩がグッと何者かに掴まれた。


「ハロー。探し物はなんですか?見つけにくいものですか?」


大三郎がギョッとしてその人物を見ると、金髪の筋骨隆々とした男―仲村大輔―がニヤニヤと大三郎の肩を掴んでいる。

そして大輔は…車のキーをカシャッとその眼前につきつけた。

言葉を失った大三郎に向けて、大輔の後ろから初老の男が現れ、穏やかに笑いながら語り掛ける。

大三郎はその男を見てハッと気づく。あれは、自分が廊下でぶつかったジジイだ…と。


「ほっほっほ。非常ベル、そして焦げた臭いをまとった男…。

 どう考えても怪しいと思いましてな。

 貴方のポケットから少々失敬させていただきましたよ」


そう、初老の男―玉野銀次―は、大三郎とぶつかった際に、彼のポケットから車のキーを盗んでいたのである。


「こ、こんな馬鹿な…。

 くそっ!こうなったらもう知るか!どうにでもなれ!!」


進退(きわ)まった大三郎は大輔に殴り掛かるが…。

逆に、大輔の軽いジャブ一撃で吹き飛び倒れ、鼻血を噴いて悶絶もんぜつする。

倒れた大三郎を興味なさそうに一瞥いちべつすると、大輔は銀次と、後ろに隠れていた詩音に話しかけた。


「とりあえず、こいつ上に連れていきましょうか。

 銀次さん、なんか縛るものとか持ってます?ロープとか」


銀次はその発言を受け、穏やかに笑いながら「KEEP OUT」と書かれている立入禁止テープを取り出し、慣れた手つきで大三郎をグルグルと縛り上げる。

その姿を見て、詩音はふと考えた。


(…どこから持ってきたんだろう、あれ。

 スリの腕といい…謎だなあ、この人)


――――――――――


さて、パーティ会場。

不機嫌が頂点に達した大吉が、警察に向かってイライラしながら語り掛ける。


「もう、ええでしょう。

 私が潔白なのは間違いないし、私もそれほど暇じゃないんだ。

 詳しく聞きたかったら後日にしてください」


そう言って大吉は帰ろうとするが…。

その瞬間ドアが開き、大輔たちが会場に入って来た。

肩にはテープでグルグル巻きにされた男を担ぎ上げながら。


「よう、放火犯を見つけたぜ。詳しくはこいつから聞き出そうや」


大輔はそう言うと、身動きの取れない男を地面に放り投げた。

…その放火犯―大三郎―を見て、大吉はギョッとする。

自分が放火を命じた大三郎が、なぜまだここにいるのだ、と。


(この間抜けめ!こんな不手際ふてぎわをしでかしよって!)


彼は内心で大三郎に毒づくが…その一方で、今後のことを考える。

大三郎はそれなりにはプロだ。

まさか自分が放火を命じたことを、べらべらと喋ることはあるまい。

自分にるいが及ぶことはありえない。

そう考えていたのだが…。


大輔が警察官の気をらしている間、縛られて身動きの取れない大三郎の前に詩音が立つ。

大三郎は決して口は割らないという目で詩音をにらんでいるが…。


…そんな状況を見て、慎之介が近くにいる天音に向けて語り掛けた。


「さっきのお返しじゃないですが…。

 霧神家にも、ちょっと面白い技があるんですよ」


その発言に、天音は不思議に思いながら詩音の方向を見る。


詩音は手を握り人差し指を立てると…大三郎の眉間みけんに向け、勢いよく人差し指を突き立てた。

寸止すんどめで当ててはいないようだが…大三郎は、うっ、とうめき、動かなくなる。

そして…不意に何ごとか喋り始めた。


「俺は…俺は、月見里大三郎。IDMの人間だ。

 そこの佐治大吉の命令で成りすまし、このホテルに火をつけた。

 香田グループの信用を失墜しっついさせ、株価を下落させるのが目的で…」


その発言に周囲がザワッとする。

黒幕はやはり佐治大吉か、と警察官が大吉を見るが…。

大吉は顔を真っ赤にして、必死になって否定した。


「ふ…ふざけるな!貴様、何を言っている!?

 知らん!知らんぞ!私は何も知らん!!

 濡れ衣だ!侮辱だ!事実無根だ!!

 あとは弁護士を通して話せ!私は何も話さん!!」


大声で喚き散らしながら、大吉は警察官が止めるのも聞かず足早に部屋から出ていく。

顔からは明らかに不審と思われるほどの、滝のような汗をかきながら。


――――――――――


…呆然としている天音と喜太郎を横に、慎之介が今の現象について説明した。


「あれは、霧神流の奥義の一つ、へびの奥義『巳睨みげい』。

 天音さんの能力と似ていて、無理やり自白させる技です。

 姉さんクラスなら寸止めで十分ですけど

 僕は実際に殴らなきゃいけないので

 人間性把握能力エソスパシーほど便利じゃないんですが。

 …あと、強い人とかやましいところがない人には効かないんですけど」


と慎之介は言うが…天音はその奥義に目を白黒させる。

人間性把握能力エソスパシーはあくまで自分にしか判断できないものだが、巳睨みげいは周囲の人間にも『自白』と言う形でしっかりと知らしめることができる。

まさに人間性把握能力エソスパシーの上位互換じゃん、と天音は考えると同時に、これがあるから慎之介くんは私の能力に疑問を持たなかったのかと考えるが…。

そんな複雑な思いを抱える天音の横で、喜太郎が興奮して慎之介に話しかける。


「おい、すごいなその技!

 天音が見抜いてお前が殴れば、どんな犯罪でも万事解決じゃないか!!」


「はは、そうですね、無敵ですね。

 容疑者を殴っていいのかは別として」


…そんな二人のやり取りを見て、天音はふと考える。

思えば慎之介との最初の出会いから、妙にそれは出来すぎていた。

そしてそれはここに至るまで、それこそ自分を孤独にさせた能力の相性まで、偶然が重なりすぎるほど重なり、まさに奇跡だというレベルだと感じていた。

まるで誰かが運命の糸を操り、その細すぎる道筋を、一片の狂いなく完璧にたどっているかのように。


とはいえ…。


(…まあ、それは別にそれでいいかな。文句は特にないし)


と、天音はまた恋心を強めるのであった。


――――――――――


警察が大三郎を連行し、ひとまず落ち着いたパーティ会場。

招待客の面々に、主催者の香田情熱が頭を下げて回っている。

そんな情熱の姿を遠巻きに見ながら、銀次に無念そうに呟いた。


「旦那様が悪いわけではないのですが…おいたわしいことです」


同じく、その横で周囲を警戒していた大輔が、銀次に問いかける。


「しかし、IDMもとんでもないことをしましたね。

 ホテルに放火とか、アホそのものですよ。

 命が軽すぎるというか…。

 まるで紙切れとか葉っぱとか、命の価値が

 その程度でしかないんですかね。

 他人に対しても、自分らに対しても」


そう、大輔の言う通り、ホテルや家屋への放火は重罪だ。

実行犯の大三郎はもちろん、今後の調べで佐治大吉がやはり背後にいるとわかれば、大吉も重罰は免れまい。

それほどまでのリスクを犯して、なぜこんな騒ぎを起こそうとしたのか。

大輔はそう考えるが…。


「香田の信用、その失墜…それに伴う敵対的買収てきたいてきばいしゅう、でしょうな」


厳しい眼をして、銀次がそう呟く。

大輔はそれに疑問を覚えるが…。


「敵対的買収?…反社会的組織のIDMが、ですか?

 それは、法や世間が許さないのでは…。

 それに、いくらなんでも香田を買えるほどの資金はないんじゃ?」


そう、香田グループと言えば日本トップクラスの企業団だ。

いかに騒ぎを起こして株価を下げたところで、並大抵の金額で買収できる企業ではない。

買収の度合いにもよるが、その金額は兆を軽く超えるだろう。

いかにIDMと言えどもそこまでの資金は出せないだろうし、そもそも反社会的勢力が日本の大企業を買収するなど、法も世間も許すはずがない。

大輔の疑問はもっともであったが…。


銀次は、厳しい眼を変えないまま大輔の方を向く。

そして…大輔に向かって頭を下げた。


「大輔さん…IDMさえも操っている、真の黒幕…。

 それは、いずれ必ず姿を現すことでしょう。

 …また、貴方や霧神君のお力にすがるかもしれません。

 その時には、何卒なにとぞ…お力をお貸しください」


「…もちろんです。俺達で、できることであれば。

 亡き三刀谷の親父も、それを望むと思います」


そう言いながら、大輔は会場の隅で喜太郎や天音と楽しそうに話している慎之介を見る。

そして、内心で危惧きぐするのだった。


(ガイゼンのこともしっかりと決着はついていないこの状況で

 できれば慎之介や詩音を、IDMとの戦いに巻き込みたくないが…。

 しかし、話しておいた方が良いだろうな。

 …まったく、慎之介にはまだIDMのことを

 隠しておくつもりだったが…)


そう考えて、大輔は頭をかき、ため息をいた。


――――――――――


翌日の日曜日、この放火騒ぎがニュースとして報道された。

しかし、それは放火ではなく失火として、しかもニュースキャスターは警備体制の不備や設備面の問題を指摘するような、隠蔽いんぺい報道とも言うべきものだった。


また、それを受けて世界一の企業団としても知られている『Blind(ブラインド) Watchmaker(ウォッチメイカー)』、通称BW社のCEO『デルロイ・ロブソン』が以下のようなコメントを出した。


「日本の大企業の火災事故、我々も他人事ではありません。

 再発防止と危機対応、リスクに備えることは、企業の根幹となります。

 香田グループにも、真摯しんしなる体制の実現を望みます」


ほとんどの人々は、そのコメントをさほど気にも留めなかった。

大企業の繋がりがあったのか、とか、牽制けんせいかな?と思った程度である。

しかし、昨夜のうちに大輔から話を聞いていた慎之介は、自宅でそのコメントを見て、まさか…と困惑する。


反社会的組織IDMを動かせるほどの存在は誰か?

なぜ隠蔽のような報道がされたのか?

なぜわざわざBW社がコメントを出したのか?

香田ほどの大企業に、敵対的買収を仕掛けられる企業はどこか?


…慎之介には、それらが一本の糸のようにつながったように思えた。


「ええ…まさかその黒幕って、世界一の大企業なの?

 どうしよう、どうにかなる相手じゃなくない?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ