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MYST REMNANT  作者: 笹上パン工房
―BLACK BOX編―
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第34話「Love Song探して」

さて、香田情熱のパーティに向かった大輔と霧神姉弟。

大企業の代表にして資産家である彼のパーティは、それはそれは今年も盛大せいだいうたげであり、多くの著名人が招かれていた。


「あっ、見て姉さん!あの人、テレビで見たことある!本物だ、すごいなあ」


あるニュースキャスターを見て慎之介が喜びの声を上げる。

人里離れた山の秘奥ひおうで育った彼にとって、このパーティはまさに異世界と呼ぶほどの豪華なものだった。


「こらこら、あまりはしゃぐな。それにお前だってこの前のPFC大会でテレビに出ただろう」


「まあ、あの時は狐のお面被ってたけどな」


嬉々(きき)とする慎之介を見て、詩音と大輔が笑いながら言う。

このパーティにおける、二人の目的はただ一つ…。

香田家の御令嬢『香田天音』と慎之介を接触させ、なんとしてもいい感じにさせることであった。


「邪魔をする奴が相手なら、霧神流奥義を使わざるを得ない」


「使うな。そんなことで暗殺拳を」


――――――――――


「…それでは香田グループの益々の発展と、皆様のご健勝を願いまして…乾杯!」


大企業香田グループのメインバンク、その頭取の乾杯の挨拶が響く。

未成年の慎之介はオレンジジュースを飲みながら、ふと快斗のことを回想する。


(快斗さんも、来れればよかったんだけどな)


今回はPFCの祝勝会も兼ねての今回の参加である。

それならばまっとうに勝った快斗も来るべきだと慎之介は思ったのであるが…。

どうやら快斗はちかぢか試合があるそうで断られてしまった。


どうも先のPFC大会で一躍有名いちやくゆうめいになったせいか、国内こくない最大手さいおおてのプロレス団体『新世紀しんせいきプロレス』から快斗に派遣要請が来たそうだ。

しかもいきなりのタッグ王者挑戦…。

ここでいい戦いを見せれば、きっとモーゼスにも良い影響があることだろう。

PFC大会に誘ったのもいいきっかけになったかな…と思いジュースを飲む慎之介だが、そこに一人の男が現れ声をかけてきた。


「よう慎之介、元気だったか。俺のこと、もちろん忘れてないよな」


と、香田家の長男である香田喜太郎がカクテルを片手に話しかけてくる。


「それはもちろんですよ(この前会ったばっかりだし)」


一応まだ喜太郎のことを忘れていなかった慎之介が、社交的なあいさつとともに頭を下げる。

喜太郎は上機嫌で

『あの勝負は紙一重だった』

とか

『あの一瞬の隙を突いたお前の腕前も見事』

とか

『やはりお前こそ我が終生しゅうせいのライバル』

などと言葉を継いできた。


話が止まらない喜太郎を見てそんなことを考えながら、慎之介は適当に相槌あいづちを打っていた。

僕は、この人の接待をするために招待されたのだろうか、などと思いながら。


――――――――――


…そして、そんな喜太郎に捕まっている慎之介の状況を会場の誰よりも苦々(にがにが)しく思っている人物がいた。

香田家の御令嬢であり、なんとかこれを機に慎之介と仲良くなろうと企んでいた天音である。


(お兄ちゃんばっかり話してて…。

 あれじゃ慎之介くんに近づくタイミングがないじゃない)


そんな様を見ながら心の中で兄・喜太郎に毒づく。

喜太郎はずいぶんと上機嫌で話し込んでおり、あれではしばらく止まるまい。

何とかしたいものの、今うかつに近づいて兄が妙なことを口走ってはたまったものではない。


かといって無理やり兄をどかしたりして

『なんだこの兄妹、仲悪いのか?』

と意中の相手に思われるわけにもいかない。

…まあ確かに仲はあまり良くはないのだが。


(なんとかお兄ちゃんを慎之介くんから引き剝がすためには…)


と、天音は周囲を見回すと…。

一人でたたずんでいる香田家ボディガードの椋埜むくのりょうが目についた。

不審な客はいないか目を光らせているようだ。

天音は遼に近づき

『慎之介くんがお兄ちゃんに捕まってて大変そうだから助けてあげて』

と指を差し伝える。


「えっ、私がですか?私もあまり話すのが得意ではないのですが…。

 そういうのは銀次さんの方が適任では…」


「銀次さん、違うんだもん。遼さんの格闘大会の話とかしてあげてよ。

 慎之介くんも格闘大会に出るくらいだから興味あると思うし」


遼はためらいながらも、まあそれはそうか、と納得する。

それに来賓らいひんが退屈な話に捕まりっぱなしというのも確かに良くないな…とさらに考え、ボディガード用のマイクに話しかける。


「こちら遼。来賓を退屈な自慢話から救助するため一時持ち場を離れる。

 万が一の場合はカバー頼む」


と通信し、遼は慎之介と喜太郎のところに向かっていった。

まずは成功、とほくそ笑んだ天音は周囲を見回すと…。

慎之介の姉である詩音が香田家ボディガードの如月きさらぎあおいと話し込んでいる。


この二人は同じ高校の出身、面識はあまりなかったらしいが、それでも思い出話などそれなりに話すこともあるのだろう。


(まずは、お姉様と仲良くなっておいた方がいいかもね)


しょうんとほっすればまずうまよ。

その格言がごとく、天音は詩音と、なぜか大爆笑している葵に声を掛けに行った。


―――――


その少し離れた場所で、来客の祝賀の挨拶が一通り終わった天音の父である情熱が、詩音たちと楽しそうに話す天音を見て嬉しそうに目を細める。


(天音が、あんな楽しそうに他人と話すとは…なんと喜ばしいことだろうか)


娘である天音は生まれつき、特殊な能力―超能力と言っても差し支えないほどの推知すいち能力のうりょくを持っていた。


もっともその能力と名家めいかの生まれゆえか、天音はいつしか世の中を冷めて見るようになり、近づける者も香田家の一部の人間だけとなっていた。

友達がいたという話も聞いたことがない。

このようなパーティなど、社交的に必要な儀礼とはいえ悪意や欲望が渦巻いており、天音にとっては参加することだけでも苦痛であったのだろうが…。

それでも今、楽しそうに笑っている。


思い返してみれば、天音が変わったのは『霧神慎之介』なる同年代の少年との出会いから。

あるいはその時から、天音にしかわからないかれる神秘的しんぴてきなものがあったのか。


「娘の父としては複雑なものはあるが…。

 それでも、霧神慎之介くんとやらには感謝せねばなるまいな」


あるいはいずれ娘を持っていくのかもしれない少年に複雑な感情を込めて、情熱はそう呟くが…。


「ん?慎之介、なんか感謝されるようなことしました?」


人がはけたのを見て挨拶に来た大輔が、その独り言を聞いて不思議そうに言った。


―――――


さてパーティもなかばに差し掛かってきたころ、慎之介と遼、そしてついでに喜太郎がいる集まりは、格闘技談議に花を咲かせていた。


「…ほう、霧神君は一家相伝の古武術を使うのか…。

 ふむ、江戸時代から続く格闘流派とは興味深い。

 ぜひ一度、お手合わせ願いたいものだな」


「いえ、僕はまだまだ未熟なので…」


「ふふふ、しかし油断していたとはいえこの俺を一瞬で制圧した男だぜ。

 もしかしたら、香田家最強の遼さんにも一泡吹かせちゃうかもね」


格闘経験豊富な遼の話を興味深そうに聞く慎之介、そして無意味に話に茶々を入れる喜太郎。

そんなテーブルを見て、葵が天音にこっそりと声をかける。


「お嬢様、今なら慎之介くんと一対一で話すチャンスですよ。

 遼さんは私が排除しますんで」


葵も天音の特殊能力を知っている。

そんな天音が気に入るのなら決して慎之介は悪い人間ではないし、うまくいくならそれでよし、ダメならダメでそれも天音にとっていい経験になるだろうと思っていたのである。


「よし、じゃあ喜太郎おぼっちゃまは私が排除するか。

 おーい大輔!ちょっとこっち来てくれ」


詩音もそれを援助しようと、喜太郎の天敵である大輔を呼ぶ。


(…よーし、頑張るぞ。今は勇気を出して、私は私を信じられる!)


父から受け継いだ情熱を燃やしてこの状況までたどり着いたものの、天音も何を話せばいいのかわからない。

そもそも同年代の男性に恋愛を意識して話したことなど今まで一度もない。

それでも、情熱的かつ純真な乙女が己の恋路を成就させんとグッと拳を握り込んで、天音はその一歩を踏み出した。


…が、その歩みは思わぬところで止められる。


けたたましい非常ベルの音とともに、パーティ会場に飛び込んできた香田家のボディガード銀次が大絶叫した。


「か、火事です!皆様、早く避難を!」

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