第33話「DEAD BLAZE」
壮絶なバッシングを巻き起こしたインターハイ決勝から一週間…。
その日は8月3日の土曜日。
香田情熱の誕生日であり、彼が主催する生誕パーティ開催日でもある。
そんな日ではあるが…。
都内O区、数多の町工場が並び日夜休まず動き続ける工業地帯。
そこから少し外れた一角にあるレトロな喫茶店『USELESS SUN』では少し不穏な出来事が起こっていた。
5人の若者たちが集まり、自分たちの今後について協議を繰り返していたのである。
そのうちの一人…サングラスをかけ髪をアップバングに仕立てた
『佐治 斗真』
が椅子にもたれかかり、ふんぞり返ってほかの四人に威圧的に話しかけている。
「…そりゃまあ、理想はわかりますよ、理想はね。
でもね、このままじゃ我々殺滅舞霊’Zは潰れますよ。
しかも、そう遠くないうちに」
そう、彼ら5人はかつて『花宮町史上最悪の日』にてガイゼンに挑み、逆に返り討ちにあい壊滅的被害を受けた殺滅舞霊’Zの親衛隊メンバーである。
ガイゼンによって数名の死者や多数の負傷者を出した後、殺滅舞霊’Zの面々はほとんどの者が恐れをなして脱退、あるいは逮捕され、すでに残ったメンバーはこの5人と総長の滝魔だけとなっていた。
その滝魔も一週間ほど前に退院したものの、姿を見せず、面会できず…。
最後に残ったこの5人で今後の殺滅舞霊’Z をどうするか、ここUSELESS SUNで協議を重ねていたのである。
「だからといって、薬…だと?
あんまり寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞ斗真」
テーブル席で斗真の対面に座っていた副総長の『服部蘭丸』がコーヒーを飲みながら、青い髪を揺らして斗真を睨む。
そして、蘭丸の隣に座っていた双子…。
『椋埜颯太郎』、『椋埜龍太郎』もそれに同調して言う。
「そうですよ、斗真さん。
カネが必要なのはわかりますが、薬なんてヤバいモン
俺たちが扱えるわけないし、一発で警察にやられます。
だいたい、総長が許すわけないッスよ」
「おう、颯太郎の言う通りだぜ。
そもそもあんた、ガイゼンの時もいつの間にか逃げて
いなくなっちまってたじゃねえか。
そのくせ何を偉そうにクチ利いてんだコラ」
冷静な颯太郎、血気盛んな龍太郎…。
一卵性双生児ながらも正反対の性格をした双子の口撃を受けながらも、斗真はコーヒーを飲み、フンと笑う。
「龍太郎、言っとくが俺はてめえより年上だぞ。
お前こそ口の利き方に気を付けろ。
それに颯太郎、お前が言っていたことだが…その点なら心配ない。
ケツ持ちもいるし、なによりこれは総長も納得済みだ」
「なに!総長が…?」
その発言に、スキンヘッドの巨体である5人目の人物『浅田玄海』が驚いたように呟く。
あわせて、蘭丸も身を乗り出すように斗真に顔を近づけ威圧した。
「フカシこいてんじゃねえぞ斗真。
幼馴染のこの俺でさえ総長には会えねえんだ。
新参者のテメーごときがなんで総長と会えるっていうんだよ?」
「新参者には新参者なりのパイプってもんがあるんですよ、副総長。
そういうあんたこそ、総長と幼馴染だからって
あんまり調子に乗らない方が良い。
今、こういう愚連隊を動かすのはカネとチカラなんですよ。
情なんかじゃなくてね」
テーブルを挟み、お互い一触即発になりそうな蘭丸と斗真だが…。
「やめてくださいよ、二人とも。今はそれどころじゃないし…。
喧嘩したら、また店から追い出されるッスよ」
それを最年少ながら一番冷静な颯太郎が止める。
そして、斗真に向かって言い放った。
「斗真さん。俺たちは、総長の命令じゃなきゃ動かないッス。
ましてや薬なんて…」
「ほう、じゃあ総長が薬を捌けっていったら
お前は従うんだな?」
斗真の返した言葉に、うっ、と颯太郎も言葉を詰まらせるが…。
代わりに怒りを隠さないまま蘭丸が斗真に言い返す。
「…まずは総長から直に話を聞いてからだ。その後、どうするか考える。
少なくともテメーの言う事は聞かねえよ。
…じゃあな斗真、二度と俺を呼ぶんじゃねえぞ。
次は呼んでも来ねえからな」
そう言って蘭丸は伝票を持ち、席を立つ。
颯太郎たち他の三人もそれに従い店を後にして、残ったのは斗真一人だけとなった。
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「…チッ、使えねえ奴らだ。
いくらでもカネが手に入るってのに、ビビりやがってザコどもが」
一人残った席で、苛立つように斗真が吐き捨てる。
斗真はもともとIDMの人間…それも滝魔とは別系統の幹部『金豪』の配下だ。
そのコネを使い殺滅舞霊’Zの親衛隊に潜り込んだのである。
金豪は殺滅舞霊’Zを用いて街に薬物を売りさばき利権を得ようとしていたが…。
滝魔やその親衛隊である蘭丸たちの強硬な反対にあい、なかなかその魔の手を伸ばせないでいた。
滝魔が謹慎中にうまく利用できるかと思っていたが…。
蘭丸たちの態度を見るにそれも難しそうだ。
(フン、しょうがねえ。
あいつらが言うことを聞かねえなら、力づくで聞かせるまでだ)
完膚なきまでに叩きのめされればあいつらも気が変わるだろう…。
浅知恵でそう笑う斗真は、自分と同じ金豪の部下である兄弟を思い浮かべる。
さきのインターハイで圧倒的な勝利を収めながらも、人種差別的な発言で優勝を剥奪された『エゼキエル・ハートリー』、そしてその兄である『マイカ・ハートリー』のことを。
――――――――――
その企みなど露知らず、蘭丸たち四人はUSELESS SUNの駐車場で今後のことを話し合っていた。
滝魔が復帰するまでは走りも自粛、場合によっては解散も已む無し…と。
「しかし蘭丸…。
もしも本当に、総長が薬物売買に手を染めると言った時は…どうするのだ?」
玄海は不安そうにそう言うが…その問いに蘭丸がフッと笑い答えた。
「そうだな…そん時は、お前らは殺滅舞霊’Z を抜けた方が良い。
もし総長がそういうのなら、もう俺たちが惚れ込んだ存在じゃ
なくなっちまったってことだからな。
未練もねえだろ?」
不安そうに自分を見つめる玄海たち三人に対し、蘭丸はヘルメットを被りながら笑う。
「じゃあ、しばらくはサヨナラだな。
…ああ、それと、玄海は家を継ぐから心配ねえだろうけど…。
颯太郎、龍太郎。お前らはまだ学生なんだから、ちゃんと学校通って卒業しろよ。
俺みたいに中途半端に退学たりすんなよ、親が悲しむからよ」
そう言い残して、蘭丸は自らがチューンナップしたバイク『カワサキ ZEPHYR400』に乗って国道を駆けていった。
…仮に総長・滝魔が薬物売買に手を染めるとしても、己だけは最後まで殉じようと誓いながら。
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蘭丸が自宅に向かいバイクを駆っている途中、あるパン屋の看板が目に入る。『ALLURE』…ステーキハウス3Bほどではないにしても、花宮町ではそこそこ名の知れた老舗のパン屋である。
(そういや母さん、この店のなんとかっていうパンが好きだって言ってたな)
そんなことを思い返した蘭丸がふと思い立ち、駐車場にバイクを止めた。
家では礼儀正しくしている蘭丸だが、自分が数か月前に高校を退学してからあまり両親にはいい思いをさせていない。
ささやかながらも、せめて少しは親孝行しなければ…と考え、お土産を買おうとしたのである。
入店して蘭丸はお目当てのパンを探す。
母の好きだと言ったパンはどれだっただろうか…と、トングをカチカチさせながら。
(え~と、確か…ジャンボシュークリームだったか、それは…おっ、あったあった)
最後の一つがまだ残っていたジャンボシュークリームに蘭丸はトングを伸ばすが…。
その時、同じくそれに伸ばしていたトングがぶつかり合った。
「おっ?」
「あっ」
ちょうど同じタイミングで手を伸ばした、自分よりも年下の少年と蘭丸は目が合うが…。
「ああ、悪い悪い。持って行っていいよ。俺はいつでも来れるから」
「いや、先に手を伸ばしたのはそちらですし、持って行ってください」
などと、蘭丸と少年は譲り合っている。そしてその隙に…。
「おっ、なんだそれなら私がもらうぞ」
と、横から現れた女性が巧みにトングを扱い、ササッとジャンボシュークリームをかっさらっていってしまった。
「ちょっと姉さんそれはないでしょ。…なんかすいません、うちの姉が本当に」
少年は蘭丸に何度も頭を下げながら、上機嫌の姉と一緒に会計に向かう。
蘭丸も笑顔で『気にしてないよ』と軽く手を上げながら、ほかのパンを選び始めた。
…その中で、ふと思い返す。あの姉弟、どこかで見たことがあるような、と。
それがまさか、モーゼス道場におけるガイゼンとの死闘の際、その場にいた霧神姉弟であるとはちっとも気づかずに。
(ま、気のせいか。あれだけ美形の姉弟に知り合いはいねえし…。
それより母さんのお土産、何にするかな。
…おっ、このハバネロ豚トロってのはいいんじゃないか?
母さん、辛いの好きだしな。
親父は…親父の分は、これでいいや。食パンの耳で)
そんな事を考えて、蘭丸は呑気にパンを選んでいた。
この数日後に、自分と先の少年―霧神慎之介―がともに戦うことになるなどとは、夢にも思わずに。




