外伝④「屍を越えて行け/偉宗野若眼」
さてさて、ここは都内T区、浅草寺の賑わいから少し道を外れた裏通り。
といっても人は多く、最近ではこの場所にも海外からの観光客がよく歩いている。
そんな通りの中に建つビルが一つ…。
古いアーケード街をまさに体現するかのような、小さな2階建てのビルがあった。
ビルの2階には、大きな木の看板が掛けてあった。
その看板には筆書きで『一撃必殺無双流空手 本部道場』と書かれている。
通りがかった海外の観光客がそれを見て
「Oh!! Exotic Japan!!」
などと言いながら、写真を撮っていた。
…まあもう面倒くさいのでとっとと本題に入るが、この道場は先のPFC日本大会『Invisible Chaos』の第三試合で『武嶺怒・魔彌偉』(流派・ローション相撲)と闘い、泥仕合の末に判定で勝利したインチキ空手家こと『偉宗野若眼』の道場である。
ちなみに、彼の本名は誰も知らない。
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道場の中は、畳と板張りの普通の道場のような場所である。
そこで若眼が、先のPFC大会での出場をインタビュー形式で語っていた。
なんでも門下生に配るんだとか。
インタビュアーは特に道場と関わりのないアルバイトである。
PFC日本大会の際、会場にいた若くて金に困ってそうな人間に頼んだだけであり、台本も大まかにしか書いていない。
そこは
『内部の人間では贔屓目が入る、外部の人間が録ってこそふさわしい』
という、若眼の妙なこだわりである。
そのくせカメラマンや撮影スタッフは、費用削減のため門下生であるのだが。
ちなみに、たまたまインタビュアーを頼まれた
『会場にいた若くて金に困ってそうな人間』
とは、モーゼス所属の若手プロレスラー宮崎優太である。
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PART1:大会の勝利について
―PFC日本大会『Invisible Chaos』での勝利、おめでとうございます。
若眼先生(以下、若)
「うむ…。だが勝ち負けよりも大事なものがあった。それを示したまで」
―勝ち負けよりも大事なものとは、なんでしょうか?
若「一言では難しいのう。あえて言うなれば…道、か」
―なるほど。道、とはなんでしょうか?
若「ふむ…説明するのは難しい。我が流派を極めし者のみが辿り着ける、至極の境地というべきか」
―具体的には、どのような…。
若「私とてまだまだ道半ば。うまく言葉にできぬ。されど、先人たちの言葉を借りるならば、塚原卜伝が言う『一の太刀』、柳生新陰流にある『無形の位』と並ぶ、まさに無の極地…勝利を当然のものにするべき境地というべきであろうな」
―よくわかりませんでした。
若「ふふ、お主も我が流派を極めれば、境地に至るかもしれぬぞ?」
―うーん、今回はお断りします。
――――――
PART2:対戦相手『武嶺怒・魔彌偉』について
―若眼先生の相手は…。
若「『わかめ』じゃない。じゃくがん。それじゃ『いそのわかめ』になってしまうでしょうが」
―失礼しました。…では、改めて今回の若眼先生の相手『武嶺怒・魔彌偉』についてお聞きします。彼はローション相撲という特殊な流派の使い手でしたが、対策等は考えていましたか?
若「うむ…確かに面妖にして、奇想天外な相手であったな。やたら床が滑り、対戦相手も滑り…しかし、常在戦場の身なれば、戦場にきれいな床などあるわけがない。それに、私の敵ではないことは初めからわかっていた。ゆえ、対策などは練っておらぬ」
―つまり、最初から負けるはずがない、と?
若「愚問。我が流派『一撃必殺無双流空手』の前に敵はいない。誰であろうとも」
―しかし、結果は判定勝ちでしたが…。
若「ふふ、若いのう。そこにこそ境地があるのよ」
―なるほど…むしろ判定勝ちこそが真の勝利であると。
若「左様」
―なぜでしょうか?
若「私とてまだまだ道半ば。うまく言葉にできぬ。されど、先人たちの言葉を借りるならば、塚原卜伝が言う『一の太刀』、柳生新陰流にある『無形の位』と並ぶ、まさに無の極地…勝利を当然のものにするべき境地というべきであろうな」
―――――
PART3:メインイベントについて
―メインイベントは疑惑の決着でしたが、先生は見ておりましたか?
若「無論」
(見ていない。言葉が足りてない)
―あの試合、先生はどのようにお考えでしょうか?
(インタビュアー優太は見ていたと勘違いしてしまう)
若「語るまでもない勝負だ。どちらが勝つかも承知の上だったしな…まあ、結果は私の予想の逆であったようだが」
(見ていない理由を聞かれたと勘違いする)
―なるほど。しかし、技術的には素晴らしいものでした。
(あれ?なんか食い違ってるな、と優太がふと思う)
若「その上にあるのが真の道よ」
(メインイベントよりも自分の流派の方が上とアピール)
―つまり、先生にとってはあのメインイベントは取るに足りない、と。
(もしかして見てないんじゃ?と優太が気づき始める)
若「左様。『拳帝』仲村大輔もまだまだ若かった、ということよの。彼の師にはまだ及ばんと言うことか」
(大輔の師匠知ってますアピール)
―…ところで先ほども出ましたが、道とは…。
(あ、この人やっぱり見てねえわ、と気づいて話を終わらせにかかる)
若「私とてまだまだ道半ば。うまく言葉にできぬ。されど先人の(略)」
(お決まりの文言)
―――――
PART4:道場について
ここで、道場で飼っているキジトラ猫が現れる。
―猫を飼ってらっしゃるんですか?実は僕も猫が好きでして。
若「ほう。きみはなかなか見どころがあるな。我が道場に入門してみてはどうかね」
―(無視して)どういう経緯でこの猫ちゃんを飼ったのですか?
若「ふふ、雨の日の夕方スーパーに夕飯を買いに行ったら、その軒先でまだ子猫のこれが捨てられているのが見えてな。まったくひどい人間もいるものだ、と連れて帰ったんだ。
今ではだいぶ大きくなったが、拾ってきた時は掌に収まるほどで、震えていてな。無事に育ってくれて本当に良かったよ」
―意外にも先生の素晴らしい人間性の一面が見えた気がします。ところで、この猫ちゃんの名前は何というのですか?
若「うむ、この子には克雄と名付けた。困難、病魔、戦禍…あらゆるものを克服する立派な英雄として育ちなさいと言う願いを込めてな。さあ、おいで克雄」
―克雄…カツオとも読めますね。つまり『いそのカツオ』ですか。
若「なんなんだ君は。なぜあの番組に関連付けたがるんだ。まったく…」
(ここで克雄が、撫でようとした若眼の手に噛みつく)
若「あ痛たっ!」
―はは。猫ってそういうものですからね。
若「むう、まったく…ご飯をあげているのは私だというのに。ところで、きみはなかなか見どころがあるな。我が道場に入門してみてはどうかね」
―お断りします。
―――――
PART5:未来について
―先生は、ズバリ流派、道場の未来についてどうお考えですか?
若「うむ。例えば我々のような格闘家では、無駄に月謝が高く、それ以外にもただ私腹を肥やすためだけに、くだらん名目で門下生から金を集めようとする者がおる。そして、それは決して少なくはない。まったく嘆かわしいことだ。それでは人は育たない。それでは心は育たない。育てるのではない、縛り付けているだけだ。
我が流派『一撃必殺無双流空手』が頂戴するのは月謝のみ。儲けるのではない、我が天啓を皆に伝えるために活動しておる。それこそが我らの道場、そして流派の未来につながるのだ」
―なるほど。素晴らしいお心がけです(台本通り)。
若「…まあ、このインタビューは我が高弟にも手伝ってもらっているがね。ははは…どうにも、機械は苦手でね」
―あとで高弟の皆さんにもお話をお聞かせください(台本通り)。では最後に、門下生の皆様にメッセージをお願いします。
若「うむ…。今回の相手もなかなかの強敵だった。とにかくどこもかしこもヌルヌルと滑り…しかしそれほどの技術と奥義を持つ者が相手でも、私は勝利した。これぞ我が流派の神髄、その一端を見せることができたと思う。
今、この世界は災難に溢れている。理不尽、困難、病魔、戦禍…そのあらゆる禍を克服すべく、私は日夜修行に励んでいる。災難に打ち勝てるのは、強くあらんとする己の心のみ。しかしその心さえも挫くべく、禍は君たちの心に弱気と諦めを植え付けてくるであろう。
だが、それに負けてはいかん。向き合い、闘い、勝たねばならん。そのためには、強くあらねばならん。
これは二年前…格闘家連続殺人事件の犠牲者であり、無念にも凶刃に斃れた我が強敵の信条だが…。
『護るためにこそ強くあれ』
という言葉がある。これは、友や家族のみならず、己を護るという意味もあるのだ。強くあれ。せめて心だけでも。
強さと勇気と優しさを持ち、あらゆる手段をもって災難に克つのだ。そのための一つの道として、我が流派『一撃必殺無双流空手』は存在する。しっかり励むが良い」
―ありがとうございました。
[屍を越えて行け/NoGoD『NoW TESTAMENT』]




