第1話 黄泉の底、雷光の首
よろしくお願いいたします。
「……ちっ! 何だってこんな事になってんだ!ここは安全圏の『弐断』だったはずだろうが!こんな地下奥深くの階層まで落ちるなんざぁ聞いてねえぞ!!」
俺の絶叫が、奈落の深淵にこだまする。
俺、ハールト・アムルタートの体は、底知れぬ闇へ向かって自由落下を続けていた。
途中で掴めそうな岩棚もねえ。
重力に従って加速していく体。
このまま地面に激突すればミンチ肉だ。
死にたくねえなら、やるしかねえ!
「おおおおらぁッ!!」
俺は腰の帯から主武装である『柳葉刀』を抜き放つと、迫りくる大穴の壁面に切っ先を突き立てた。
ガガガガガガガガガリリッ!!!
耳をつんざく金属音と、散る火花。
腕が引き千切れそうな衝撃を食いしばり、壁を切り裂きながら制動をかける。
摩擦熱で刃が焼けつく臭いが鼻をつく。
やがて落下の勢いが殺され――俺は黄土色と黒い水晶に満たされた、不気味な空間へと着地した。
「……はぁ、はぁ、ちっ…今回ばかりは本当に死ぬかと思ったぞ……!?」
ジンジンと痺れる掌を開き、愛刀を確認する。
幅広で片刃、湾曲した独特のフォルムを持つ柳葉刀。
こいつは上位級黄泉鬼である『森虎』の素材で作られた業物だ。
あの口達者な武器屋店主に…
「(―駆け出しの開拓者様だからこそ!命を守るために高品質な武具が必要です!分かりますか?ここでお安い低品質な武具を買われる開拓者様は沢山いらっしゃいますが、いざという時…低品質な武具で命を預けられますかな…?―)」
とまぁ当時はその妙に真剣見のある顔付きと、声のトーンで納得してしまい高級品を買ってしまった。
後々高額が消えた事に後悔したもんだが、この頑丈さには感謝するしかない。
刃毀れは……ほんの僅かだ。
だが、安堵したのは一瞬だった。
震える手で、腰の巾着から円盤状の魔導具――『羅針盤』を取り出す。
現在地の深度によって文字盤の色が変わる探索の命綱だ。
その色が示していたのは、絶望的な『茶色』。
「……終わった。奈落レベル9段階中の7番目、『漆断』じゃねえか……!!」
血の気が引いていく。
『奈落レベル:漆断』と言えば、地下61階層から78階層の超深部だ。
俺のような『5等級開拓者』が来ていい場所じゃない。
ここは最低でも『1等級』…上から数えて3番目の称号以上の領域だ。
生きて帰るなど、万に一つも――。
後悔がこみ上げてくる。
いつもの安全な狩場。そこで見つけた、人が一人やっと通れるだけの奇妙な「狭い通路」。
熟知しているはずの黄泉の奈落に突然現れた異物。
あんなものは無視すればよかったのだ。
なのに、なぜか俺は「行かなきゃならない」という強烈な焦燥感に駆られ、体をねじ込んだ。
その結果が通路の崩落。
そしてこのザマである。
「はっ……千年前の死神、『宵闇の冥界神イザヨミ』の悪意ってやつかよ。笑えねえんだがなぁ?」
毒づきながら、顔を上げる。
嘆いていても始まらない。
魔物……いや、『黄泉鬼』の気配はないか?
周囲を見渡す。鉱山のような大広間には、幸い動く影はない。
ただ、奥の方にある黒い水晶の森の中に、ひとつだけ、異様に輝く「青」があった。
警戒しつつ、近寄ってみる。
青い水晶の中には雷光が走っている。
そして、その中心に封じ込められていたのは――。
「……女の、生首?」
パチパチと青い雷を纏った、美しい女の首がひとつ。
うーん、これ……どうすれば良いのかね?




