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第八十三話 捨てられた「粗大ゴミ」

 時:真冬。


 所:東京郊外・「夕陽の丘」高級老人ホーム。


“生”を片づけた龍立は、源田鉄男を連れて、人生のもう一端へ向かった。――“老”。


 源田の状態は悪かった。まだ六十を少し越えただけなのに、若い頃から旋盤に身体を酷使し、腰椎椎間板はほとんど摩耗し尽くし、神経圧迫で指は激しく震えていた。医師は言った。このまま働き続ければ、いずれ下半身は動かなくなる、と。


「社長……見ておきたくて。俺が将来、どこへ行くのか。」


 源田は苦笑し、杖をつきながら歩く。歩くたびに汗が噴き、顔が歪む。だが、老人ホームの扉を開けた瞬間――二人の呼吸が止まった。


 ここは“高級”を名乗っていた。しかし空気には、芳香剤をどれだけ撒いても消えない、老人特有の腐朽臭と尿臭が張りついている。


 廊下は、異様に静かだ。老人たちは壊れた人形のように、車椅子へ整列させられ、壁に向かって座っていた。目は濁り、空洞で、生命がない。


「ご飯ですよ! 口、開けて!」


 若い介護士がスプーンを握り、粥状の食べ物を乱暴に押し込む。老人が飲み込むのにもたつき、口から零れると、介護士は吐き捨てた。「汚っ……。食うのもこんなに遅いなら、さっさと死ねば?」


 別室で、龍立はさらに恐ろしい光景を見る。夜にトイレへ行かれると面倒だから。動かれると面倒だから。老人たちは「拘束衣」を着せられ、手足をベッドに縛られていた。


「……ほどいてくれ……トイレに……」


 かつて大学教授だった老人が、懇願する。


「オムツにしろよ。うるせぇ。」


 介護士はイヤホンをしたまま、見向きもしない。源田は震えた。そこに、かつての兄弟子がいた。全日本随一の鉗工だった男だ。今、その男は涎を垂らし、ベッドに縛られ、目には恐怖と絶望だけが浮かんでいる。もう“人”ではない。社会に捨てられた――「粗大ゴミ」だ。


「社長……」


 源田はその場で膝をついた。龍立のズボンの裾にしがみつき、嗚咽した。


「殺してください……お願いです。俺が将来、こうなるなら……手が二度とレンチを握れないなら……ベッドに縛られて、糞をして……どうか、楽にしてください。俺は……ゴミになりたくない……嫌なんだ……」


 鉄塔みたいな男が、今は子どものように泣いている。尊厳を剥ぎ取られる恐怖は、死よりも恐ろしい。


 龍立は源田を立たせた。眼差しは、シベリアの寒風のように冷たい。


「源田。立て。お前はゴミじゃない。頭の中にはロケットを造る技術がある。お前の経験は、値段のつかない資産だ。間違っているのは、お前じゃない。この老いた皮だ。肉体が裏切るなら――替えればいい。鋼鉄の骨へな。」

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