第四十八話 満点の外にある答え
時:半年後。
所:全国模試当日 & 海外大学合格発表の日。
黒川理事長が最も重んじる一日だった。通り向かいの「東大進学塾」では、受験生たちが高濃度カフェイン飲料をあおり、必勝の鉢巻きを締め、紙のように青白い顔で試験会場へ吸い込まれていく。緊張に耐え切れず、入口で嘔吐して動けなくなる者さえいた。
一方、澄心未来学園では——
生徒たちは軽いリュックを背負い、手にはタブレット(復習端末)。顔には余裕の笑みが浮かび、まるでゲームのオフ会に向かうような足取りだった。一週間後、結果が出た。黒川が誇った「暗記至上主義の軍団」は、今年の「創造的思考問題」の前で壊滅した。問われたのは書き写しではない。論理で組み立て、推論で切り拓く力——それは、GIGAのゲーム化学習が最も得意とする領域だった。
澄心学園の平均点は、東大進学塾を文字通り叩き潰した。しかし、致命傷はまだ先だった。
最大の爆発は、海外から来た。かつてショッピングモールで飛び降りようとした「99点の少年」——健太が、分厚い国際便の封筒を抱え、息を切らして澄心の理事長室へ飛び込んできたのだ。
「理事長! 校長先生!」
全身が震え、涙が止まらない。健太は、お茶を飲んでいた龍立とジェームズ校長の前に、封筒を差し出した。
【マサチューセッツ工科大学(MIT) 合格通知】
追伸:『GIGAゲームエンジン・プログラミング』授業における「重力反転アルゴリズム」の設計は、驚異的才能を示すものでした。よって特例として合格を認め、全額奨学金を支給します。
「……僕、受かった……」
健太は泣きながら龍立に抱きついた。「ここでは、誰も僕のことをゴミなんて言わなかった……劉立先生が、僕のコードは“綺麗だ”って言ってくれた……!」
このニュースは澄心メディア——凛の配信、天野愛のアニメのエンドカード——を通じて拡散され、日本社会を一瞬で燃やし尽くした。
「黒川のところで子どもを精神病寸前まで追い込んで東大枠を奪い合うくらいなら、澄心で笑いながら世界へ行け!」
結末は、容赦がなかった。東大進学塾には大規模な返金騒動が起き、保護者たちは黒川を取り囲み、「搾取された“頭脳税”を返せ」と怒号を浴びせた。黒川理事長は、生徒への体罰と長年の税務不正(龍立の情報網が税務署に通報していた)で、ついにオフィスで警察に身柄を拘束される。
夕暮れ。龍立は澄心未来学園の鐘楼の上に立ち、校庭を見下ろした。芝生では健太が仲間たちと走り回り、自分たちで作ったドローンの試験飛行をしている。笑い声が、校舎の壁に反響していく。ジェームズ校長が歩み寄り、龍立にコーヒーを差し出した。
「龍立、君は採算の合わない投資をしたな。学費をあれだけ免除したら、定員いっぱいでも赤字だ。」
龍立はコーヒーを受け取り、生き生きとした笑顔の群れを見つめた。
「ジェームズ、あの子たちを見ろ。金がないという理由で才能が埋もれるなら、それは国家の損失だ。でも今、彼らは未来の科学者であり、芸術家であり、エンジニアだ。」
龍立は一口飲み、満足そうに微笑んだ。
「長い目で見れば、これが世界でいちばん利回りのいい投資だ。——彼らこそ、日本の未来なんだ。」




