【番外編】王子の様子がおかしいのですが!?
「……誰も入ってくるな。いいな」
城に着くなりライナルト王子は、冷たい声で言い放ち、部屋の扉をぴしゃりと閉めた。外に残され、ぽかんとした顔のまましばらく立ち尽くす。
ライナルト様が、こんな顔を見せるなんて——。
僕が知っている彼は、寡黙で、冷徹で、常に威厳を崩さない男だった。一番の臣下の自分ですら、決して気を許しているとは言えない。けれど、今目の前で扉を閉めた彼の目には、どこか焦燥と、そして何よりも——
優しさがにじんでいた。
「なぁ、目を覚ましてくれないか」
王子の声が聞こえる扉の外、眉をひそめていた。
(……な、なんだ今の声……)
まるで恋人に囁くような、あの優しい声音。思わず背中に悪寒が走る。女嫌い氷の貴公子があんな声を出すなんて、誰が信じるだろうか?
(しかも……相手、ハムスターだよな?)
目を見開く。困惑しかない。
美人の聖女たちだって、今まで見向きもされなかったんだ。
ハムスターと出会った瞬間も、ありえないくらい口元がほころんでいた。
扉の隙間から微かに聞こえるその声は、明らかに真剣だし……
「…………」
思わず、僕は天を仰いだ。
王子は人間を好きになれないのかもしれない。
(この国、だいじょうぶか……?)