ハムスターと出会う王子
ハムスターと出会った時のエピソードです!
前半はライナルト王子目線で、後半はエリオットくん目線です〜!
イケメンのペットになりたいですね。
ゼタシア王国王子として隣国カラリスを訪れていた帰路のことだった。
昨晩の雨で道はぬかるみ、馬車の移動は断念。私は相棒の白馬に跨り、ゆるりと城を目指していた。
国境の森を抜ける途中、水を求める馬のため泉のほとりで足を止める。
このあたりは馬の水場としてよく知られているが、今日は地面もひどく泥濘んでいて、私は馬の背に乗ったまま周囲を眺めていた。
「王子、お疲れではないですか」
エリオットが気遣う声をかけてきた。
「問題ない」
短く返したそのときだった。
ふいに、風に乗ってふわりと香りが届いた。
澄んだ朝の空気のような、清らかな白い花のような……それでいて、胸の奥がほころぶような温もりのある匂い。
気づけば私は、手綱を引き、香りの方へと馬を向けていた。
「王子、どちらへ? ……散歩でしょうか?」
後方からついてくるエリオットの声が聞こえる。だが私は振り返らなかった。
木々の隙間から曇り空の光が、まるで梯子のように差し込んでいた。
そこだけが祝福されたように、ひどく明るい。香りは濃くなり、私を惹きつけてやまない。
その光の中心に――黄金に輝く、小さな毛玉がいた。
柔らかそうに丸くなり、眠るように身をすくめている。
それは小さな小さな、獣のようだった。
……死んでいるのか?
そっと指先で触れると、かすかに温かい。
絹より滑らかな毛並み。壊れてしまいそうなほど軽く、小さな体だった。
「お、おおお王子……それ、ハムスターかと……! 野生動物に触れるのは危険です! というか、頬ずりまで……!」
後ろからたどり着いたエリオットが青ざめた声を上げる。
我に返ると、私は無意識のうちにその小さな毛玉を頬に押し当てていた。
……しまった。なんという姿を見せてしまったのだ。
「王子がそんなに動物好きだったとは、意外です」
「断じて、そういうわけではない」
即座に否定する。だが口元が緩んでいたのか、エリオットはくすくすと笑う。
「気に入られたなら、カラリスで譲り受けてきた個体をお取り寄せしますか? 白い長毛種の高級なものなど、いくらでも」
「……いや、こいつを飼う」
私は手のひらの中で眠るハムスターを、そっと包み込むように抱いた。
「ええっ!? その子は野生ですよ!? 病気だって――」
「この子以外では意味がない」
小さな寝息を立てるその顔は、穏やかで、どこか寂しげだった。
こんな小さな存在が、たったひとりでこの森にいたのだ。
この黄金の輝きは、宝石ではない。命だ。儚くて、愛おしいほどに尊い。
「この美しい黄金色のこいつでなければ、認めない」
私の声は、自然と柔らかくなっていた。
ライナルト王子、頑固なところあるんですよね。
エリオットくんはさぞ苦労しているでしょう…
次回は08/11月曜日の朝に投稿します!
エレナちゃんの聖女時代の回想の予定です。
彼女はどうして転生することになってしまったのかを書いていきます!